ガンダールヴ









 幻獣にまたがった騎士は、その屈強な獣――マンティコアをけしかけた。しかし、それも剣で払われ、大きく吹き飛ぶ。それに呆気にとられる隙に、鎖骨を折られて昏倒した。

 弓兵隊の中のある若い士官は、焦りと恐怖の余りにろくに狙いをつけずに矢を放った。それは当然のごとく当たることはなく、逆に味方に突き刺さった。それによって混乱が生じ、ついには同士討ちまでもが発生した。


 疾風のごとき速さで駆ける剣士。


 軍の部隊は怖れ慄いた。

 風よりも速く現れる。

 雷よりも強力な一撃を見舞う。

 魔法も効かなければ、剣技だって及ばない。

 雄叫びをあげて襲いかかってくるたった一人の剣士に、戦場は混乱の一途を極めていた。


 しかし、相手は七万だ。

 数の暴力というものは恐ろしいもので、たとえどれほど強大な力を有していようとも、それはどこまでいっても個としての力でしかなく、大軍と相対すればひとたまりもない。

 それは、たとえ伝説とまで言われた力を持つ使い魔であろうと同じことだ。

 ここに本来後ろから強大な攻撃を放ってくれる虚無の魔法使いがいない以上、才人の力で出来ることには限界があった。



「がァッ……!」


「足かい?」


「い、や……腰だな。くそ、また肉けずれたかな」


「氷の矢だ。冷やされるから血が噴き出んだけマシだよ、相棒」


「ああ、そうだな……」


 多くの攻撃はゆっくりと、しかし確実に才人の戦闘力と生命力を奪っていっていた。

 左腕は、もう二の腕から手首まで炭みたいになっていて使えない。

 背中には矢が刺さっていて、絶え間ない痛みを送ってくる。

 腹や腰に喰らった魔法のおかげで、口の中に血が溜まる。内臓を傷つけたらしい。

 トレードマークであるパーカーは、もうぼろきれのようにズタズタ。

 白い部分は真っ赤に染まってしまっている。

 打撃を受けた頭部からも血が出ている。目に垂れてくるのを何度か拭っているうちに、乾いて固まってくれた。

 視界が邪魔されなければ、まだ戦える。


「じゃ……行こうか、デルフ。目標は……」


「あそこ、だな」


 目線の先には後方に位置するメイジの一団。

 あれだけ多くのメイジが密集している地帯だ。おそらくは、そこに指揮官がいるはず。

 将を落とせば、この戦いは俺の勝ちだ。


「いくぞ」


「おう」


 一言だけの会話で全てを済ませる。

 混乱はかなりの大きさになった。これでかなりの時間が稼げるはずだ。

 あとは将を落とせば、アルビオン軍は引き返すしかなくなる。落とせずともいい。時間を稼げば、少なくともルイズが死ぬことはない。それに、たぶんそろそろ船も出ただろう。



 一分でも、一秒でも、一瞬でも長く時間を稼いでやる。

 それが、ルイズに課せられるはずだった任務だから。

 それを俺が代わったんだから、主の代わりにやり遂げなければならない。


 ルイズ。愛しい愛しい、大好きな女の子。


 俺の、可愛いご主人様。


 そのご主人様の任務の肩代わりをしているのだ。どうして、遂行できないはずがあるだろうか。

 思い出すのは、笑顔だけ。

 俺の名前を呼んでくれる、ご主人様の笑顔だけ。



 ――サイト……。



 それだけで、戦える。まだまだ戦える。

 いつまでだって、ずっとずっと戦ってやる。

 空気を揺らし、天にも届く咆哮をあげ、才人は敵将がいると思われる一団目がけて駆け出した。
















 ホーキンスは文字通り蹴散らされる兵たちが作り上げる波の原因が、どうやら自分に向ってきているらしいと感じ取っていた。

 怒涛のごときその力が凄まじい速さで接近してくる。まるでそれは暴風のようだった。

 力強い風だ。凄まじく速い風だ。歴戦の戦士としての血がざわざわと己の中で騒ぐのを、ホーキンスは確かに感じた。

 これだ、と口元を弛めた。

 これこそが己の求めたものだった。将軍などという地位を欲したことなど一度もなかった。ただ、たまたま自分は貴族としての位が高く、たまたま努力して能力もあって武勲を上げ、その結果たまたまこの地位に納まってしまったにすぎないと常々ホーキンスは思っていた。

 この地位についてしまったおかげで、数々の武勲など朝食のパンくずほどの価値に思えるほどに熱く血が滾るものに手が届かなくなってしまった。

 すなわち、実力者との戦いである。

 傅かれる立場など、本来なら望むことのないものだったのだ。

 武人として、戦えなくなるなど死ぬことと同義だった。

 ただ、部下たちのことを見捨てるわけにもいかなかったからこうして未だにこの地位にいるにすぎないのだ。


 ああ、これだ。これなのだ。


 ホーキンスは獰猛な笑みを浮かべた。

 ここに向かってきている。七万の軍をここで止めてしまった一人の剣士が。他に類をみない剛の者が。

 今なら普段はつまらぬ行軍の足音も心地よい笛の音のように聴けるだろう。

 こらえきれない喜びと、こうして此処にやって来た剣士のその類まれな強さに敬意を表しながら、ホーキンスは腰の杖を抜いた。


 気づけば、ほんの目と鼻の先にまで近づいているではないか!

 心躍る敵が!

 武の勲を掲げる者が!


 杖を構える。そして自身が最も得意とする風の刃をごうごうと吹かせて襲いかからせる。

 しかし才人はそれを跳んでかわし、なおも愚直に突き進んでくる。

 援護の魔法の矢が放たれる。才人は最早壁のような攻撃にさらされるが、右手に持つデルフリンガーによって吸収される。

 とはいえ、さすがにすべてを吸い込めたわけではなかった。多くの魔法の矢が才人の身体を蹂躙していく。

 思わずホーキンスはち、と舌打ちした。援護の攻撃ということはよくわかっているが、今のホーキンスにとっては邪魔されたとしか感じられない。

 しかしそんな内心も表に出すことはせず、ホーキンスは更なる風を才人にけしかける。しかしそれも才人はかわす。

 本当に速い。あれだけの怪我を負っていて、なぜあのように動けるのか。

 凄まじい胆力と覚悟に、ホーキンスは思わずぶるりと体を震わせた。

 なおも進む剣士。ついについに、ホーキンスの目の前にまで迫っていた。


 いいぞ。いいぞ!


 ホーキンスは子供のように心が震えた。

 待ち望んだ時が来た。長らく待ち続けていた時が。

 心躍る戦いだ。武を競う本当の闘いだ。

 武人としての幸せを今再び感じることが出来る喜びに、ホーキンスははしゃいだ。本当に、子供のように。若かりしかつての自分に戻ったかのように。

 目前に剣を構える敵がいる。間違いなく、これまでで最強の敵が。

 杖を力強く握りしめる。顔には、隠しきれない獰猛な笑み。


(さあ……いざ、尋常に!)


 真っ直ぐに構えた剣を突き出しながら迫る敵の姿を見据えて、ホーキンスの杖がぴくりと動いた。

 ――が、それが振られることはなかった。

 わずかの間杖を構えたまま静止すると、ホーキンスはゆっくりと杖を下ろした。


(そうか……)


 獰猛な笑みは鳴りをひそめ、代わりに浮かぶのはどこか眩しいものを見る憧憬の眼差し。


(既に、事切れていたか……)


 わずかにホーキンスの目の前五サントで止まってしまった剣士の剣。

 黒い髪に隠れて見えない目に光がないことを、ホーキンスは読み取っていた。

 果たしてその予想は正しく、才人は突き出した剣はそのままに、緩やかに地面に倒れ伏せた。

 右手には剣を握りしめたまま。倒れこんだとしても、その誇り高い姿にホーキンスは敬意を払わずにはいられなかった。


(なんと雄々しい戦士だったのだ)


 剣士を一瞥して、しかし己の職務をこなさなければならぬホーキンスは部下に向きなおった。


「ご無事ですか、将軍!」


「ああ。戦闘は終了した。被害を報告しろ」


 次々と告げられる報告に、ホーキンスも副官も憤るよりもまず感嘆した。

 死者はゼロ。上級下級含めた士官重傷者が十五人。各部隊の兵の怪我人二百七十にまで上るという。まったくもって、剣士一人に負わせられるような損害ではない。

 数値的な被害だけならば、これから行軍するのには何の影響もない。ここに幾人かを割いてキャンプを張り、治療ついでに置いていけば済むことだ。

 しかし、あの剣士が為したことの本質はそれ以外のところにあった。

 たった一人で七万の軍勢に挑み、槍も剣も魔法でさえも打ち消して圧倒的な力を見せつけたたった一人の剣士。

 それは大きな動揺と衝撃を兵たちに与え、恐怖を蔓延させたのだ。

 トリステインには、あれほどの騎士がいる。

 もしや、あの剣士のような者で構成された部隊があるのではないか。

 そう想像してしまったのだ。これで暫くはまともに戦える兵はいないだろう。

 そして同士討ちが起こったことも痛かった。これのせいで兵の間に疑心暗鬼が起こり、信頼感などの繋がりが破綻してしまっている。こちらも無視できない損害だった。

 結論として、行軍する場合は最短でも一日は立て直しに必要になるだろうとのことだ。一日かかるとすれば、それはもう行軍する意味がない。

 落すべき船など、とっくに空の彼方であるし、一日もたてば船長は優雅に紅茶でも飲んでいるだろう。

 完全に止められてしまったのだ。七万の軍が、たった一人の剣士に。


「してやられましたな」


 副官の言葉にホーキンスは頷く。


「これで、軍を向かわせる意味がなくなりました」


 再度頷きだけを返し、ホーキンスは馬から降りた。そして目の前でうつ伏せに倒れているその件の剣士に近づき、顔だけをわずかに上に向かせる。

 ホーキンスの顔が驚愕に歪んだ。


「まだ、少年ではないか」


 黒髪に、彫りの浅い顔立ちの見慣れぬ象牙色の肌。

 知らぬ民族の少年だ。着ている服も見慣れないもの。しかし、その倒れた姿だけは、ホーキンスにとって何よりも知っている姿であった。

 ぼろぼろになっても剣だけは放さぬその姿は、まさに戦士。それも強い覚悟と誇りを持った本物の戦士のものだった。

 よくよく見れば、まだ息はあった。しかし、助かるまい。たとえ水の魔法で治療したとしても、決して助かることのない重傷であることは一目で見てとれた。

 この少年が止めたのか、と思うと嬉しさも浮かんでくる。このような強い若者がいることが。このような若さでこれほどの武勇を誇る者がいることが。

 そして何よりも、ホーキンスはこの少年が羨ましかった。


「英雄とは……」


「は?」


「英雄とは、既に滅びた言葉だ。どれだけの武勲を得ようとも、返ってくるのは地位と功績だけだ。名声など、微々たるもの。ましてや真に英雄などと呼ばれるはずもない」


 英雄だ、英雄だと祭りあげられようとも、自分の分は自分がよく知っている。自分が行ったのは誰でもやりようによっては出来る手柄だ。なにしろ、上の命令に従わされて得た武勲だ。それのどこに価値があろうか。


「己の力だけで大挙を成し遂げたのだ、この少年は。……私も、将軍などではなく英雄になりたかった」


 ホーキンスの最後の言葉に本気を感じ取った副官は、恭しく頭を下げた。


「そうですな……。惜しいものです。この少年に与えるべき勲章が私には思いつかない」


「ああ、並ぶことのない武勲だ。しかし、それも我々にはない権利だ」


「ええ……。この者はトリステインの者。我が国の勲章は授けられませぬ」


 本当に悔しげに二人は唇をかんだ。


「……だが、忘れてはならん。この者は敵であるが、間違いなく最強の敵であり、同時に誇り高い武人であった」


「はい。彼の為した行いに見合うものなどないほどの」


「そうだな。……だが、敵であろうと平民であろうと、勇気にはそれに応じた賞賛と敬意が払われるべきだと思う」


「賛成です」


 副官の答えに満足し、ホーキンスは倒れたままの才人に呟いた。


「すまんな……我々にできる最高の賞賛はこれしかない」


 ホーキンスと副官はぴしっと背筋をただし、最上級のアルビオン式の敬礼を捧げた。

 敬礼を解くと、ホーキンスは自分の近衛兵を呼び寄せた。


「この者を、手厚く葬ってやってくれ」


 その言葉に敬礼を返すと兵は才人の身体を持ち上げようと屈みこんだ。

 瞬間、才人の左手のルーンが光り輝き、兵の腹を殴って気絶させる。


「なに?」


 ホーキンスの当惑をよそに、才人は飛び起きると一瞬あたりを見回し、再び風のような速度で駆けだす。

 そしてその姿は近くの森へと入っていき、ついには見えなくなってしまった。





























 走る身体が起こす風に木々の葉が揺れる音を連れて、才人の身体は森の中を駆け抜ける。

 そして戦場から大分離れたところまで辿り着くと、走るのをやめ、傍にあった大きな木に力なく寄りかかる。

 背に刺さった矢に配慮しながら、才人はずるずると身体を地面に近づけ、どさりという音と共に大木に身体を預ける形で座り込んでしまった。


「ああ、まったく。“使い手”の身体を動かすなんざ何時ぶりだか。少なくとも、六千は固いだろうがね」


 響く声は才人のものではなかった。彼の相棒デルフリンガーの少々しゃがれ気味の声だった。


「あれだけの魔法を吸収したんだ。動かす分には不足はないが……なんだってこんな力があるんだか」


 吸い込んだ魔法の分だけ、使い手の身体を動かすことの出来る能力。デルフリンガー自身もついさっきまで覚えのない能力であった。

 疲れるからイヤなんだけどねぇ、とデルフリンガーは常と変らない調子で呟いた。

 しかし、才人はデルフリンガーの言葉にぴくりとも反応しない。


「なあ、相棒」


「………………」


「いいこと教えてやるよ。お前さん、頑張ったからな」


「………………」


「あのお嬢ちゃんな。黒猫の衣装、着てただろ。あれな、お前さんに押し倒してほしかったんだよ」


「………………」


「嘘じゃねえよ。なにせ俺が相談に乗ったんだ。なあ、相棒。あの娘っ子も絶対相棒のことを――」


「そ……れ、いじょう、は……いうな、よ……」


 デルフリンガーはわずかに驚いた様子を見せたが、すぐにまたいつもの調子に戻ってみせる。


「なんだい、起きてたのかい」


「い、うなよ……。ほ、んにんから……ききてえ」


「そうかい。ま、あの娘っ子が素直に言うとは思えねえがな」


 からからとデルフリンガーは素直になれないルイズのことを想像して笑った。


「………………」


「相棒?」


 ふと、また黙ってしまった才人にデルフリンガーは声をかける。

 暫く待って、ようやく才人の口がもごもごと動いた。


「な……デルフ……」


「なんだい」


「……お、れ……しぬ、のか?」


「ああ、死ぬね」


 ごく当たり前のことを告げる口調で、デルフリンガーは言った。


「ぜ……ったい、か?」


「ああ。絶対だ。こんだけぼろぼろになって、死なない人間はいねえよ」


 そっか……、と才人はひどく疲れた声音で呼吸のついでのように呟いた。

 左腕は炭化、切り傷と裂傷と凍傷と火傷。それに肉ごと抉られてるし内臓も痛めてる。頭だってもう痛いなんて感覚はないし、背中の矢だって悪ければ肺に届いているかもしれない。口の中にたまった血がだらしなく顎を伝ってパーカーに新たな染みを作り続けている。

 満身創痍なんて言葉すら生ぬるい、完全な死に体だった。



「よお、相棒。これでよかったのかい?」


「………………」


「このままじゃ、あの娘っ子の返事きけないぜ? お前さん、好きだって言ったんだろ?」


「……ああ……」


「いいのかい、それで?」


「………………いい、んだ」




 嘘だった。



 ルイズ。ルイズに会いたい。またあのご主人様に笑いかけてほしい。それで、もしよかったら好きだって言ってほしい。


 わたしも好きだって、言ってほしい。


 またサイトって呼んでほしい。犬だっていい。そう呼んだのルイズだけだったから。なんだっていい。また会いたい。会って話したい。


 何度だって好きだって言いたい。これだけ大好きなんだってことを、教えてやりたい。


 死ぬことなんて、どうでもいい。怪我のことなんて知ったことじゃない。


 ただ、ルイズに会いたい。死んでも、ルイズに会いたい。



 会いたい。




「そうかい。相棒がいいって言うなら、それもいいだろうさ」


 デルフリンガーは、ただいつもと同じ口調でそう返した。


「………………」


 才人は、もうデルフリンガーの声は聞こえなかった。

 耳がもう、何だかおかしくなってしまったらしい。

 だから、頭の中で考えることだけをした。もう、口も動きそうになかったから。


 それで考え始めてみたら、浮かぶのはルイズのことばかりだった。



 無茶苦茶上から目線で俺をこき使いまくったこととか。


 それでも決闘の時には心配してくれてたこととか。


 フーケに向かっていったこととか。ワルドの手から守ってやったこととか。


 虚無に目覚めて喜んでいることとか。


 姫さんに恭しく従っている姿とか。


 この戦争で名誉がどうとか言ってたこととか。



 俺のことを認めてくれた時とか。


 初めて微笑んでくれた時とか。


 もの凄く怒って真っ赤になってた時とか。


 照れてすごく可愛かったこととか。


 泣いてくれたこととか。


 キスした時の、顔とか。



 ぐるぐると浮かぶのは、ルイズのことばかりだった。

 あれだけ元の世界に帰るだの何だの言ってたのに、いざとなればルイズのことしか浮かんでこなかった。



「………………」



 ああ、やっぱ俺ルイズのこと好きだ。


 もうすごく好きだ。誰よりも好きだ。何よりも好きだ。それ以外なにも考えられなくなるぐらいに大好きだ。


 こんなに好きだったんだ、俺って。ルイズのこと。


 照れ臭いような、嬉しいような。まあ、それすらもうどうでもいいことだけど。


 大好きだ。本当に。大好きな、ルイズ。


 俺のご主人様。俺だけのルイズ。


 可愛い可愛い、俺だけの大切な女の子。



 ルイズ。



 死んだら、会えなくなるのか。当然だ。死ぬんだから。


 ああ、でも嫌だな。ルイズに会えなくなるのは嫌だな。


 もうあの声が聞けなくなるのは、嫌だなぁ。



 けど、死ぬんだもんな。なら……しょうがねえかな。




 ……けれど、もし。――そうだな、もし叶うなら。





 もう一度、好きだって言いたかったなあ。









「――…………」




「相棒?」



 デルフリンガーの声に、微かに反応していた呼吸音が既に消えていた。

 己を掴んでいた手からも、ふっと力が抜けていく。それがなんだか惜しく感じて、デルフリンガーは心の奥から絞り出すように呟いた。



「……ちぇ、もう聞こえねえか」



 ざあっと風に揺れる木の葉の音が森の闇の中に響いた。

 さらさらと心地のいい自然の楽曲が、森の中で奏でられる。

 だが、それを聞いているのは既に物言わぬ少年と、その手に力なく握られた一本の剣のみだった。




































・あとがき

ゼロの使い魔の原作七巻の最終部付近にある描写。

七万のアルビオン軍に単身向かっていく才人の姿には、何かこうグッとくるものがありました。

大好きな女の子のために、命すら捨てる覚悟で戦いに挑む姿。

思わず涙腺がゆるくなった事を覚えています。

その時の気持ちを思い出して、自分なりにあの時の才人の心情とかを書いてみたのが今回の作品です。


少しは、何か感じられるようなものになっていてくれれば幸いです。


ではでは、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございました。