魔法少女リリカルなのは −ソード・ダンス− ※この作品は「とらはシリーズ」とオリジナルの内容も多少含みます。 静まり返った道場内。唾が喉を下る音さえ耳に届きそうな静寂の中を、二人の剣士はただそう在ることが己の矜持と言わんばかりに、剣を構えて互いに相対していた。 彼らが構えた剣のように鋭く研ぎ澄まされた空気は、観戦している者たちにも緊張感を伴って、影響を与えていた。 動かない二人を、ただ黙って見つめる道場内のなのはたち。そして、同じくその雰囲気に当てられたように沈黙しているアースラ艦内の者たち。 次で、決まる……。 そうなるであろうことを、皆は目の前の二人の姿から感じさせられていた。 前傾姿勢で抜刀の構えを取る、恭也。レヴァンティンを下段に下げた、シグナム。 二人の剣舞は、終結へと向かおうとしていた。 ダン、とシグナムが大きく距離をとるために跳ぶ。その様子を、恭也は静かに眺めていた。 距離など、問題ではなかった。シグナムのレヴァンティンには長距離攻撃モードがあるし、恭也にはその距離をなくす神速がある。……とはいえ、神速にも限界はある。今シグナムがいる地点まで神速を継続することは恐らく難しいだろう。 しかしながら、最強の一撃にその距離が必要ならば、受けてやろう。恭也は、ふっとわずかな笑みと共に、身体に力を入れた。 「……レヴァンティン」 ≪Ja.≫ シグナムが、胸の前でレヴァンティンを水平に掲げる。その行為に思わず訝しむ恭也を視界の端に捉えながら、その柄の先に手に持っていた鞘を重ねる。途端、レヴァンティンはカートリッジロード。更に蒸気と化した魔力を排出し、次いで鞘の形状がまるで刀身であるかのような姿になる。その変化に合わせ、元から刀身であった方も、いま刀身となった方も、わずかに反り返った形状に変わった。そう、繋がりあったその姿は、美しい白銀の弓と化していた。 ≪Bogen form!≫ 直後、弓に魔力で形成された光の弦が引かれる。そして、シグナムはこちらも魔力によって成された白銀の矢を、美しき白銀の弓に番えた。 足元に、魔法陣展開。その魔法陣を、炎の魔剣の名にふさわしい紅蓮の炎が包むように駆けていく。 その炎の揺らめきの中、シグナムは己が全力を、その矢に注ぎ始めた。 対して恭也は、そのシグナムの姿を見て、八景の柄を握り直した。 判る。アレは、相当な力が籠められた一撃だ。恐らく、自分が持つあらゆる奥義であろうとアレに敵うものはないほどの。 だが……。 (奥義で敵わないのなら、奥義を超える技を出すだけだ……!) ―――『閃』――― それは御神にとって最大の秘奥義。技を極め、奥義を極め、道を極め、身体を極め、精神を極めた先に在る、御神流の最大奥義。 速さを超越した抜刀術。これを出すことが出来れば、勝てるかもしれない。 しかし、ここで問題がある。 それは、至極単純な問題。届くかどうか、である。先ほどシグナムが距離をとったことで、弓矢には最適の距離、剣にとっては致命的な距離が二人の間にはある。加えて、神速でも届くかどうかといった距離にシグナムはいる。恭也が二度使ったのを見て、ある程度の予測を立てたのだろう。実際その距離は恭也の神速継続時間の範囲外にあった。 自らの劣勢を、恭也はしかし冷静に捉えていた。そして、考えるだけ無駄だ、と思考を切り替える。 (届かせる……必ず) もとよりこの剣は守るための剣。ならば、退いてよい道理はない。ゆえに、自分は進むだけ。守るために、生きるために。 この場においては、あの強者に勝つために。 再び恭也は八景を持ち直す。 そして、神のみが知覚できる速度で駆け出す―――! (―――来る!) シグナムは恭也の姿が消える前から、そう予測していた。これまでの経験による、洞察力。その力が、この場においても遺憾なく発揮された。 だが、神速の射程距離と思われる距離からは脱している。ならば、恭也が出てきたところを狙えるはず。 シグナムは辺りに気を配った。一瞬。何もなかったであろう、シグナムの右斜め前に唐突に恭也が出現する―――! 「はっ!」 それを気配だけで知覚して、後ろに跳ぶ。 ... そして目で確認する前に、シグナムは右手の矢をそこに向かって投げた。 「!?」 矢は恭也へと迫り、恭也はそれを左の小太刀で払った。そして再びシグナムを見ると、シグナムは既にもう一本魔力で矢を作り、弓に番えている。 一足とはいえ、距離はある。シグナムは全力を込めてその一撃に言霊を乗せる―――! 「翔けよ、隼!!」 ≪Sturm falken!≫ 瞬速の矢は、まさに隼。その嘴で獲物を仕留めんと、瞬時に恭也のいる場所へと迫る! 一瞬の出来事のあと、シュツルムファルケンの効果の一つである爆発が発生し、轟音が辺りに響き渡る。 見ていた皆もそのあまりに大きな爆発に、思わず腰を浮かせた。 シグナムも僅かに気遣うような視線を爆発源に向けている。 皆が腰を浮かす中で、美由希だけが落ち着いて座っていることには、誰も気付かずに。 「―――御神流斬式奥義之極み」 「!?」 シグナムはその声に驚愕を浮かべ、咄嗟にレヴァンティンを構えようとするが……。 「『閃』―――!!」 神さえも捉えることの出来ない速さの斬撃の前に、その行動は間に合わない。そして、その技名の通りの刀による閃きを感じ、シグナムは意識を手放した。 「―――……ぅ、く」 「……目を覚ましたか」 覚醒したばかりの意識で、シグナムはまず現状を確認する。まず、自分は板張りの部屋に寝かされていること。身体は、それほど大きな外傷はないこと。 次に声のした方へと顔を向ける。そこには、こちらを微かに気遣うように覗き込む恭也がいて、少し視線をずらすと回復魔法をかけるシャマルの姿が見えた。 「ここは……」 「道場だ。もっとも、ユーノくんの張った結界は解いてあるらしいが」 恭也がシグナムの質問に答えた。 確かに、見渡せばここは道場だった。結界も感知できない。 (ああ、私は負けたのか) シグナムはそう思った。自分が倒れている。恭也が立っている。そのことが、勝敗を雄弁に語っていた。 そして、なにより。 己が最も大切に想う、自らの主が、こんなに心配そうに自分を見ているのだから。 「……申し訳ありません、主はやて。ベルカの騎士として、貴女の守護者たるヴォルケンリッターとして、力及ばず……」 シグナムらしい真面目な言葉に、はやては心配そうな顔を苦笑に変えた。 「ううん、ええんよシグナム。シグナムはいつも頑張ってくれとる。私のこと、守ってくれとるよ。せやから、あんまり自分のこと卑下せんといてぇな」 心の底からシグナムを想っていることが伝わる言葉だった。はやての優しさが垣間見えるその姿に、皆は胸が温かくなるように感じた。 シグナムはただ、はい、とだけ答えた。目の前の少女が、どれだけ自分にとって大きな存在であるかを、改めて感じながら。 「それにしても、恭ちゃん、すっかり悪者だね〜」 一呼吸おき、美由希が恭也をからかうように口を開く。確かに、シグナムとはやての会話からは敵対していた恭也は悪者、というふうに捉えられなくもない。 捉えられなくもない、が。 「……今日の鍛錬は、覚悟しておけ」 「えぇ――――ッ!」 わざわざ自らの首を絞める美由希。学ばない姉は、いつまでたってもこうなのだろうか、となのははため息をついた。 「―――それで、私はなぜ負けたのだ?」 シャマルによる治療も終わり、道場では輪になって座る恭也たちの姿があった。 そして、真っ先に口火を切ったシグナムの言葉に、皆は興味深そうに頷く。美由希と恭也だけは、理解している者ゆえか落ち着いて座っていた。 「……シグナムの技が俺に向かって繰り出されたところまでは、皆わかるか?」 説明を始めるのか、恭也の問いかけに皆は一様に首を縦に振る。 それに頷き、恭也は続ける。 「そのあと俺は神速に入った」 「あの、テレポートみたいな技ですよね?」 フェイトの言葉に恭也は異を唱えようかとも思ったが、瑣末事であると考え直し、ただ頷いた。 「だが、僕が見立てた限りだと、あれほど大規模な爆発なら例え速く動けても無意味だと思うのだが……」 クロノの言葉は芯を捉えていた。神速といえど、あくまで速く動く技。瞬間移動ではない。ゆえに、広範囲に影響のある攻撃をされれば、どれだけ速く動こうともそれは無意味になる。 そしてあの爆発はそれほど大きなものだったのだ。なら、そこから逃げられる道理はない、はずなのだ。 「ああ。確かにかわせるものではなかった」 「神速はそもそも速く動く移動術だからね。……でも、それ以上に速く動くことは出来るんだ」 美由希の言葉に、皆は耳を傾ける。 それを確認して、美由希は真剣な面持ちで口を開く。 「……神速の二段がけ。使える人は、お父さんと恭ちゃんぐらい。身体に必要以上の負担が掛かるから、相当なリバウンドに耐えなきゃいけない、諸刃の技」 過去、恭也は膝を壊したことがある。二度と戻らないとまで言われたその故障の原因も、神速の過剰使用によるものだった。幼い恭也が神速を使い訓練するうちに、恭也は神速の更に先を垣間見た。そして、その先へと手を伸ばしたところで―――成熟していない恭也の身体の膝は、耐えられなくなった。 隠れて特訓をしていたことに気付けなかった父士郎は悔やみ、以後の鍛錬のスケジュールやメニューは士郎が責任を持って管理した。腕のいい医者に出会えたこともあって、恭也の膝は軽い運動ならば問題ないほどに回復し、そして最近になってついに完治したのだった。 担当医である彼女に、普段から無茶な運動をしなければもっと早く治ったんですよ、と小言を言われたことは恭也にとって耳に痛いものだった。 閑話休題。 つまり神速の二段がけとはそれほどにリスクのあるもので、使うことなど滅多にない技なのだった。 逆に言えば、使わざるを得なかった状況を作ったシグナムの攻撃が、恭也にとってそれほど危険だったということである。 「神速の中で神速を使う……。一応、医者から止められてはいるんだが、な」 使わなければ負けていた。ゆえに使った。なにより、剣士としてこの勝負に勝ちたいという思いがあった。恭也にとって、それこそが最も大事なことだった。 「そして、そのままシグナムに肉薄し、奥義によって倒した、というわけだ」 御神の剣士に負けることは許されない。なぜならその剣は守るための剣なのだから。守ることこそ、この剣の……ひいては己の存在意義。だからこそ、恭也は神速の二段がけに加えて、奥義之極みの使用に踏み切ったのだ。 シグナムは強かった。半端な技では彼女を倒すことなどかなわない、と恭也は思ったのだった。 「奥義……確か、奥義之極み『閃』と言っていたか」 シグナムの言葉に、恭也は頷いた。 「ああ。剣速自体あるかどうか分からない超高速の斬撃術……。神速を用いても回避不可能とされる、御神の剣士にとっての到達点にして最大の奥義……」 現在、これを使えるのは恭也と士朗だけ。しかし士郎はある事件で大怪我を負い、その後は喫茶店のマスターとしての日常を生きているため、実際の奥義としての完成度は恭也のほうが上であるだろう。 美由希にも『閃』を扱える才能はあるが、まだ彼女はその域まで至ってはいなかった。 「貴女は、きっと最強の一撃でないと倒れない……なぜだか、そんな気がしたから」 恭也の言葉に、シグナムはわずかに頬を染めた。なぜ、かは分からない。自分の決意が見透かされたからか、それとも負けたことが悔しかったのか。 シグナムには分からなかった。ただ、この目の前にいる男は自分と同じ決意を持っているのだろうと思った。己の剣にかけて、自分の後ろにいる人を守り抜く。ただそのために、自分はいるのだと。その誓いにも似た貴い意志を、彼もまた持っているのだろうと。 きっと、仲間意識だったのだ、とシグナムは思った。この青年が、自分たちと同じ志のもとに剣を持っていることを、感じたゆえの。 シグナムは穏やかな表情で、ひとつ息を吐いた。 「私の負けだ、恭也。全力での試合、感謝する」 「こちらこそ、シグナム。ぜひまた相手をして欲しい」 二人はどちらともなく手を差し出し、深く握手を交わした。 その様子を、道場にいる皆は微笑んで見つめていた。 「…………決着ね。それにしても、シグナムさんが負けるとは思わなかったわ」 アースラ艦橋。リンディは、まさに驚きといった声でそう言った。 「ええ。恭也さんの戦闘データ、早速くわしい解析に回しますね」 エイミィもどこか苦笑気味にパネルを操作していく。 「魔法とは違う、気……霊力でしたっけ? それを使っていたにしても、あれだけの攻撃を捌くんですから、凄いですよね」 「それもだけど、あの神速という技が凄いわ。話を聞く限り、あれは気とは無関係に使っているみたいだもの」 見ていてまるっきり瞬間移動にしか見えなかったのだ。あれほどの高速移動は、おそらく魔法によるクイックムーブでも届かないだろう。 「……ぜひ、実技指導で欲しい人材ね」 「……艦長、またクロノくんからお小言言われますよ」 リンディの優秀な人材を見抜く眼力は大したものだが、その対象者を見境なく管理局に勧誘するクセは誉められたものではない。相手のことなどお構いなしに、ただただ、来ない?と誘うのだ。ここ最近ではなのはとフェイトとはやてが被害に遭っている。 そのたびにクロノからリンディは注意を受けていた。もう少し相手のことを考慮しての説得をですね……、といったふうに。 「でも、管理局にもあれほど体術に優れた人はいないわよ?」 「それはそうですけどね……」 エイミィがそう言ったところで、ピッとエイミィの手元のディスプレイに『Complete』の文字が表示される。 「あ、結果が出たみたいですよ」 「あら、見せて頂戴」 はい、と答えてその結果を紙に印刷する。同時にメインディスプレイに結果が表示される。 『高町恭也・20歳 戦闘技能 SS 魔法資質 B 身体能力 AAA+ 状況判断能力 AAA 空間把握能力 AA 近接戦闘能力 SS 中距離戦闘能力 A 長距離戦闘能力 C 単体戦闘能力 S 広域戦闘能力 D 攻撃力 Unkown 防御力 C 魔導師としての適正は要観察。リンカーコア自体は一般水準を下回っている。 攻撃力については、たびたび未知の反応を確認。よって不明。 戦術レベルでは提督クラス。指導者としての適正有り。 総合評価 Sクラス』 「……うわあ。これまた凄いですねぇ」 エイミィは思わずといった感じで呟いた。 「……本当に。魔導師でもないのに、これだけの能力レベルなんて」 呆れたような声色で言うリンディ。それもそのはず、魔法を使わない一般人にしては異常とも言える戦闘能力である。 単体戦闘だけで言えば、このアースラに彼に敵うレベルの者は存在しないほどの強さなのだった。 「これ、早くクロノくんたちに見せてあげたいですね」 「ええ。どれだけ驚くでしょうね、あの子たち」 これだけの能力を有する者は、管理局にもそうはいない。その上この結果を出したのは魔導師でもない一般人であり、しかも近しい友人の兄なのだ。それを考えれば皆の驚きようが目に浮かぶようだった。 (さて、この騒動もこれで終わりね) リンディは手に持った恭也の戦闘パラメータをプリントアウトした紙をひらひらと振り、サブモニタに映る彼らの姿を目を細めて見つめた。 ―――――――――――――――――――― 〜あとがき〜 え〜、ソードダンスこれにて終了です! もうなんかとらは3となのはのクロスみたくなってますね^^; それから後半の恭也の戦闘能力データですが……完全に私の脳内換算です(ぉ 気に入らない方、ごめんなさいです〜m(_ _)m とりあえず、楽しんでいただけたなら幸いです では、これからもどうかよろしくお願いします〜w |