魔法少女リリカルなのは −ソード・ダンス− ※この作品は「とらはシリーズ」とオリジナルの内容も多少含みます。 ところ変わり、軌道上―――アースラ艦橋。 そこでは、シグナム以上に驚いた顔のクルーたちの姿があった。 「…………エイミィ、本当に魔法の反応はないの?」 「え、あ、はい。機器に魔法反応・魔力反応……ありません。つまり、恭也さんは完全に生身のみでシグナムに渡り合っていることに……」 その改めての報告に、アースラスタッフ一同は、そんなバカな、と声をそろえて呟いた。 少なくとも、シグナムの紫電一閃を退けたあの技の動きは、ただの人間のものとは思えなかった。ただの人間に、あれほど素早く動くことは不可能だと。 リンディも、感嘆したようなため息を漏らす。 「なんともまぁ……確かに凄いとしか言いようがないわねぇ」 ただの刀に魔法が負ける……。自尊していたわけではないが、魔法に勝てるわけではないと皆思い込んでいた。その考えを、大幅に修正する必要がありそうだった。 <………………本当に人間か?> クロノからの念話に、なのはは苦笑した。なのは自身、自分の兄の強さは異常だとわかっているからだった。 <確かに、凄い……恭也さんって、こんなに強かったんだ> <魔法の反応もないし……ホンマに身一つであそこまでやっとるんやもんなぁ……> フェイトとはやても呆然としてそう胸中で呟く。 なのははその言葉に少しだけ誇らしげに胸を張った。自分の兄が、こうして褒められているのは、思いのほか嬉しく楽しかった。 「あ、また皆で念話っていうのしてるでしょ。なのはぁ、お姉ちゃんも混ぜてよぉ」 涙を拭くような仕草をしながら美由希がなのはに顔を近づける。その子供っぽい姉の姿に、子供のなのはは苦笑い。 「にゃはは……えっとね、普通の人間のお兄ちゃんが魔法と渡り合っていることが、凄いんだって」 これまでの短い会話を、更にコンパクトに縮めて美由希に伝える。 それに先刻のなのはと同じように、美由希は胸を張って答えた。 「ふふーん、だって私の師匠なんだから、恭ちゃんは。あれぐらい出来て当然当然」 恭也に聞かれれば確実に地獄の鍛錬が待っているであろう調子に乗った台詞を、恭也が聞いていないのをいいことに美由希はあからさまに話す。 その事情を知るなのはは、そんな懲りない姉に微妙な視線を投げかけた。 「……でも、ひとつ皆勘違いしていることがあるよ」 不意に真剣な表情になって、美由希がそう口にする。 「勘違い、とは……?」 クロノが思わず問い返す。なのはたちも興味を持って美由希の次の言葉に神経を注ぐ。 そして、再び美由希は口を開いた。 「いくら恭ちゃんでも、あれだけの力には生身では厳しいってこと。―――皆にはよくわからないかもしれないけど、恭ちゃんは単純な力と技だけで戦ってるんじゃないよ」 その言葉がよくわからず、問うたクロノも、聞いていた八人も首を傾げる。美由希がなにを言いたいのか、掴みあぐねていた。 しかし、対峙している者には判ることもある。 (―――なんだ……?) シグナムは、不審に感じていた。恭也のあの技、力、スピード……確かに申し分ない。自身と比べても基本スペックはあちらが上かもしれない。 だが、魔法を生身の人間が防げるとも思えない。己の力が、そこまで柔ではない、という自負もある。だが、それよりもシグナムが疑問に思ったのは…… (あのときの、衝撃……) 一瞬、刀に触れる寸前だ。なにか、剣と刀の間に何かがあったような気がしたのだ。恭也の持つ八景が、ほんの一瞬だけ光のようなものを放ったような……。そう、まるで魔法のように。 (確かめるしかないか……) 退く、という選択はハナから無い。確かめるなら、進むだけだ。主の前に立つ我らに、退くという言葉は、必要ない。 <レヴァンティン……いくぞ> ≪Ja.≫ 短くレヴァンティンが答え、シグナムが下半身に力を込める。 「はっ!」 短く呼気を吐き出し、これまでにない速度で恭也に切迫する。そして一閃―――刃が咬み合う金属音が辺りに響いた。 「くっ……」 シグナムの力を見誤ったわけではないが、恭也自身どこか気を抜いていたのかもしれない。思わず小太刀を取り落としそうになるほどシグナムの一撃は重いものだった。 (だが、それだけならば防げる……!) 恭也自身子供の頃から自分より何倍も大きな相手と戦ったことがあり、そのテの力技には耐性が付いていた。シグナムの斬撃は速く重かったが、しかしそれだけだった。『貫』を使うまでもなく攻撃が当てられる気さえする。 は、と気が付く。さっきまでの戦闘からシグナムは実力者であると容易に想像がつく。では、こうして今わざわざ恭也に防がれるような攻撃を連発するのは何故だ―――。 (まさか―――!) だが、恭也が気付くのはわずかに遅かった。 「紫電一閃!!」 カートリッジをロードしない、シグナム本人だけの魔力で練られた必殺の一撃が、今度は至近距離で炸裂する。 (く―――!) 恭也は一瞬で防御から抜刀の態勢を整え、一撃を放つ。 ――御神流、奥義之壱・虎切―― 刃と刃がぶつかり合う瞬間、シグナムは確かにその刃の間に何かが介在していることを確認した。 ギィン……! 甲高い音を残し、再び距離が離れる。 一息の間をおき、シグナムは恭也に声をかけた。 「……恭也、今のはなんだ。私の剣とお前の刀。その間に、なにか煌くものが見えた」 その言葉に最初に反応したのは、なぜか観客である美由希だった。口を半開きにして、シグナムの言葉に感心したように、ほぉ〜と声を漏らしている。 「馬鹿弟子……大きく口を開くな、余計に馬鹿に見えるぞ」 横目でその様子を見ていた恭也に言われ、はっとして口を押さえる。そして次の瞬間には不機嫌そのものの顔で恭也を睨んでいた。 その姿にひとつため息をつき、恭也は顔を引き締めた。 「さすがだな。まさか俺の気に気がつくとは……」 その言葉にシグナムが眉根を寄せる。 「気、だと……?」 シグナムも剣士の端くれ。気の存在は知っている。自身も剣気を身にまとい、常に気の中に身を置いている。気配を探る、という表現も、元を糺せば気を探るということである。戦いに身を投じる者にとって、気とは身近なものですらあった。 だが、しかし。 「馬鹿な、あれが気だと? 目に見えるほどに気を練るなどといったことが出来るというのか、お前は」 気とは目に見えぬもの。気を用いた技はそれこそ種々あるが、気を明確に攻撃手段とした技は驚くほど少ない。最も有名なのが、中国拳法における発勁だろう。しかしそれでも、気を内側に通すというもので、気自体は見えるものではない。 だから、それを目に見える形で顕現させる恭也に、シグナムはこうして驚いたのだった。 「耕介さんに言わせれば、霊力に近いということらしいが……俺は気と呼んでいる。霊力とは、そちらで言う魔力のようなもの……。ならば相殺も出来るのでは、といつかのなのはとの試合で使ってみたのだが……」 ちらり、となのはに視線を移す。 「にゃはは……ディバインシューターぐらいだったら、簡単に斬り落とされちゃいました」 霊力に近い気によって、耐魔力のような能力を帯びることの出来る八景。それこそが、魔法に対しての恭也の戦闘スタイルだった。 もっとも、なのはのように長距離を好む相手の攻撃ならばかわすだけで事足りるため、滅多に八景にそんな細工をすることはないのだが。 なのはの時は試用の意味を兼ねてわざと斬ってみたのだった。そして効果を実感した恭也は、先ほどもシグナム相手にそれを使ったわけである。 「なるほど……道理で魔法のように感じるわけだ。当面の謎は解けた。詳しい説明は、また後にしてもらってよいだろうか」 改めて、レヴァンティンを構える。 「ああ。問題ない」 恭也も八景を構え、それに応える。 そして、第二幕が上がる。 シグナムが一足後ろに跳び、中距離から長距離の距離を恭也に対して持つ。恭也は接近戦を好むと思っていた対戦相手のこの行動に、いささか不審の目を向けた。 しかし、その目も次の瞬間には余裕なく吊り上がった。 「レヴァンティン!」 ≪Nachladen!≫ カートリッジロード。赤い弾丸が装填される。 ≪Schlange form!≫ レヴァンティンの声の直後、その刀身が等間隔に切り離されていく。しかしその中心は鋼線で繋がっており、まるで蛇のようなその姿を恭也の前に晒していた。 「長距離用の形態か……」 「長距離に限らず、中距離であろうと接近戦であろうと、この蛇は敵を貫く。それはあたかも龍のごとく、な……」 笑みさえ浮かべないやり取り。だが、それこそが今の二人にとって最もふさわしい態度と対応であった。 「いくぞ!」 掛け声と共に一匹の邪龍と化したレヴァンティンが渦を巻いて恭也に接近する。恭也はまずその第一撃をかわすが、直後に背後から剣先が迫る。これも恭也はかわすが、剣先ではなく刀身であった部分の刃が無規則に恭也に追いすがる。それに対して八景を自身との間に割り込ませてその攻撃を防ぐ。 何とかかわしつつ接近し、三歩ほど進んだところで手首の辺りから飛針を投げる。それは寸分違わず蛇の間を抜け、シグナムを襲うが、それをシグナムは鞭状にしなるレヴァンティンを一振りして弾き飛ばした。 恭也は攻撃をかわす間に周りをしなるレヴァンティンに取り囲まれていることを知り、脱出の機会となることを祈って飛針を投げたのだが、いかんせん状況が悪すぎたようだ。 「はぁっ!」 シグナムの気合いが響くと同時に、恭也の周囲を囲んでいた輪が急速に縮まり、恭也が立っている場所へと収束していく。 恭也は舌打ちし、あの全てがモノクロに変わる領域―――神速に入る。そして輪が縮みきる前にその間隙から抜け出し、そのままシグナムの正面へと地を蹴る。そして神速から抜け出た恭也はシグナムの目の前にいる。シグナムは恭也の突然の出現に驚き、咄嗟に鞘を己の前にかざす。 ――御神流、奥義之肆・雷徹―― 御神の奥義の中でも抜群の威力を誇る技が鞘に向けられる。何とか鞘である程度の衝撃を拡散させたが、雷徹は対象の内面に過度の衝撃を伝える技。シグナムはその衝撃を食らい、こみ上げてくるものを嚥下して、その威力のままに大きく後方へ下げられた。 「かはっ……!」 空気を吐き出すと、わずかに血も混じり、シグナムはレヴァンティンを構える。視線の先には、同じく構える恭也の姿がある。 「飛龍一閃ッ―――!!」 「奥義之参・射抜―――!」 シグナムの魔力と、恭也の技がぶつかる。 しかしいくら気を込めた一撃であっても、所詮は一撃。連結する刃となったレヴァンティンの重ねるような連続する攻撃に、恭也の射抜はすぐに押し負ける。 その間に恭也は再び神速の領域に入る。白と黒の世界の中で、恭也は素早く飛龍一閃の射程から身をよじる。そして先刻のようにシグナムへと走り、今度はシグナムの左に回りこみ、抜刀の構えを取る。 そして、世界に色が戻る。 ――御神流、奥義之陸・薙旋―― 抜刀からの高速の四連撃。恭也のもっとも得意とする、必殺の技。 が―――。 ≪Panzer geist!≫ レヴァンティンの声がその名を言い終わる前に、シグナムの身体が淡い紫の光に包まれていく。シグナム自ら甲冑と称す、魔力で編まれた鋼の鎧。 恭也の放った薙旋はその鎧を砕くに留まり、放った直後にその身体が一瞬硬直する。 一瞬……しかし、シグナムほどの騎士の前では、その一瞬が大きな隙となる。 「はぁっ!」 伸びきったレヴァンティンを戻すことはせず、持っていた鞘で恭也の腹を薙ぐ。肋骨の下に当てたので骨が折れることはしなかったが……。 「ぐ、ぅっ……!」 鞘が肉に食い込み、内臓はその衝撃に萎縮する。喉に胃の中のものが迫るが、何とかこらえる。しかし、苦悶の表情は晴れることはない。恭也は一度距離をとった。 ≪Schwert form.≫ 長く身を投げ出していたレヴァンティンが、通常の剣の状態に戻る。そしてすぐにシグナムは地を蹴り、恭也へと追いすがる。 恭也はシグナムに向けて飛針を投げる。しかし気にする風もなく、シグナムはそれを剣で弾いた。そして恭也へとレヴァンティンを突き出した状態でもう一度地を踏んだ瞬間。 「!?」 途端に手にしたレヴァンティンの自重が増したかのように剣を重く感じ、シグナムは思わず足を止めた。 「ふぅ……」 恭也の息をつく声。その彼の手元から光る線が一本シグナムへと伸び、その線がレヴァンティンを絡め取っていた。 飛針と並ぶ御神の暗器、鋼糸。文字通り鋼の糸であるそれは、ちょっとやそっとで切れることはない。 シグナムは力を込めるが、鋼糸はいまだ切れない。今度は思い切り力と魔力を込め、鋼糸はようやくレヴァンティンから外れた。 リズムを狂わされたシグナムは、再び構え直す。その間に、恭也はもう息を整えていた。ダメージが抜けたわけではないだろうが、それはあまり大きなアドバンテージにはなりそうになかった。 ぐっと黙り、シグナムはある決意と共に恭也を見据える。 (実力に大きな差はない。ここは、やはり短期決戦か……) まだ、あれを出していない。レヴァンティンのもうひとつの姿。自身が誇る、最強の燃ゆる隼。 (ボーゲンフォルム……いけるか……) 視線はまったく動かすことなく、シグナムはレヴァンティンの柄を確かめるように強く握った。 恭也は恭也で、シグナムの力量に感嘆していた。 (まさか、薙旋も通じないとは……) 自身がもっとも信頼を寄せる技であっただけに、恭也にとってもそれなりにショックだった。こうも奥義が決定打にならない相手は久しぶりだった。 それも、気を用いて攻撃力を上げているのに、だ。もっともその点は向こうも魔法を使っているので、おあいこかもしれないが。 実力的にはほぼ同等。しかし、力ではあちらのほうが上だ。洋剣は刀とは違い、“叩き斬る”ものである。自然、求められるものは力になる。対して刀はカミソリに例えられるように“斬り抜く”ものである。切った大根が再び繋がるといった技(戻し切り)というものがあるが、それは西洋の叩き斬る剣では不可能な芸当である。 力はシグナム、技は恭也。 そして実力は伯仲している。 (……決着をつけるには、早いほうがいいか) 恐らく、このまま戦っても実力が拮抗している以上、長引くだけだろう。ならば、最強の技をもって、その均衡に差をつければいいだけのこと。 (……どうやら、あちらもそのつもりのようだ) 決意を込めて恭也を見ているシグナム。恭也と同じ考えに至り、必殺の力を溜めているように見える。 (つまり、あちらにも奥の手があるということか……) その考えに至った瞬間、暗器も含めた様々な戦術が頭をよぎるが、ふっと恭也は笑みを漏らした。 (無粋だな。この勝負、正面からの打ち合い以外に、何の意味があるだろうか) ぐっと、黒く光る八景を握りなおす。 頭には、御神の剣士にとっての到達点ともいわれる、その名がある。 ―――御神流斬式、奥義之極み『閃』……――― |
| ―――To Be Continued |