魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story -








≪な、なんだまったく。驚くだろう≫



 なのはたち全員の一斉の叫び声に、オリジンは心底驚いたとばかりに不平を漏らす。

 だが、なのはたちにしてみればそれどころではなかった。

「……オリジン。私たちもそれについては初耳だ。本当に海鳴市なのか?」

≪なんだ、グレアムまで。間違えるわけがない。確かに彼女はそこにいる≫

 オリジンは自信満々にそう答える。

 グレアムは、はぁ、と感心するような息を漏らし、リーゼロッテは、なんともまぁ、とため息交じりの声をこぼした。

 そしてグレアムはなぜか、ふとそのまま顎に手を当てて考え込む。

 なのはたちはお互いの顔を見合わせたりして、挙動不審な動作を繰り返していた。


≪……いったいなんだというんだ。グレアムも、高町たちも≫


 オリジンはすっかり大人しくなってしまった皆に痺れを切らし、誰に問い掛けるでもなくそう声を発する。

 相変わらずなのはたちはお互いに見合わせるだけだ。しかしそれは誰が言おうか、と探り合っているようだった。

 そうこうしているうちに、クロノがはぁ、とため息をついた。

「……みんな、ちょっと信じられない気分なんだ。まったく、海鳴市は呪われてでもいるのか?」

 クロノはもう一つため息を漏らした。

≪? どういうことだ?≫

「ええと……実はですね……」

 今度はなのはが口を開く。




「私、高町なのはがその海鳴市に住んでいまして……」




≪なに……?≫


「……それに、なのはだけじゃなくて私とクロノも。はやてとシグナムたちも海鳴市に住んでるんだ」


≪………………≫

 なのはの後を継いだフェイトの言葉に、さすがのオリジンも言葉をなくす。

≪では……先程のクロノ提督の「呪われている」というのは……?≫

 オリジンは彼にしては珍しい、探るような物言いで疑問を投げかける。

 その質問には、はやてが答えた。


「六年前に、ジュエルシードいうロストロギアが散らばったんが海鳴市。そんでその半年後に闇の書事件が起こったんも海鳴市なんよ」


 そして、今回はオリジンの主の生まれ変わり。

 AAAクラス……またはそれ以上の魔導師が四人、更にその使い魔もしくは騎士が五人、その上過去に二度もロストロギアの事件が起こり、そしてここで問題なのはこの世界が魔法を認めていない世界であるということだ。

 どう考えても異常でしかない。クロノではないが、呪われているという表現はむしろ海鳴市にピッタリくる表現かもしれなかった。



≪………………それは、凄いな≫



 それ以外に言葉がない、といった様子でオリジンは呟くように口にした。

「まったくだ。一度、海鳴市も調べてみようかと思うよ」

 クロノは半ば本気混じりにそう言った。




「―――……しかし、そうなると都合がいいかもしれんな」


 グレアムが考え込む姿勢のままそう呟くと、皆はグレアムに視線を向ける。

 視線を受け止め、グレアムは顎に当てていた手をすっと離した。

「海鳴市はこれ以上ない場所かもしれない。言い訳としては、だが」

 クロノはグレアムの言葉にはっとする。

「……なるほど、確かにそうですね。あそこほどオリジンにとって都合がいい場所はない」

「うむ」

 クロノの言葉にグレアムは頷くが、なのはたちはよくわからない。はやてはうんうんと頷く様子からクロノと同じように判っているようだが。

≪……話が見えん。わかるように言ってくれ≫

 オリジンがそう言うと、クロノとグレアムは頷きあった。



「……つまり、だ。海鳴市はオリジンをその主のもとに留まらせる理由を作るには最高の環境なんだ。……あそこには管理局の提督の僕が住んでいるし、執務官のフェイトもいる」


 提督は管理局の中でも上級管理職だし、執務官は現場最高指揮官である。当然、局からの信頼も厚い。


「『オリジンを監視する任務』を提督自ら……しかも執務官に優秀な捜査官二名までついている。更に言えば本局勤めのリンディ提督もいる。まさにこれ以上ない環境なんだ」



 あ、となのはも今更ながら気付いた。海鳴市がどれだけオリジンにとって恵まれた環境であるのか。

 オリジンの主は現在、海鳴市の子供に生まれ変わっている。そしてオリジンの望みはその彼女のもとに、ずっといること。

 なら、オリジンのことを自分達が監視していることにすればいいのだ。それを管理局の、しかも提督クラスの人間が直々に行うという。更にその場所には執務官と二名の捜査官まで控えている。まさに、言い訳としては最高の環境であった。


 しかし、それでも問題はあった。それも、大きな問題が。


「……けどさぁ。ロストロギアが外にあるなんて、管理局の頭固い連中が許してくれんのかよ?」

 ヴィータの言葉に、クロノはため息をつく。

「そうなんだ。だから、言い訳だと言っただろう」



 ヴィータの言った言葉はまさに大きな問題だった。

 ロストロギアの中でも最古にあたり、その力もS+とオリジンの力はかなり高い。

 そんな一歩間違えれば危険でしかない古代遺産の貸し出しなんて真似を管理局が許すはずがない。

 そのことは判っていたのだろう、クロノも、なのはたちも、ヴィータの言葉に頷くだけだった。


≪……それは仕方のないことだ。だが、海鳴市の利点は役に立つかもしれない。それを中心に考えればいい≫

 オリジンも大して気落ちした風もなく、クロノに呼びかける。

 クロノもそれに頷き、グレアムたちも交えての話し合いが再開された。

 皆でこれからオリジンについてどうするかを話し合う。








 そんな中、なのはとフェイトとはやては、念話でも会話していた。彼女らほどの魔導師になれば、二つ以上の会話の成立などのマルチタスクは当たり前のように習得している。


〈……オリジンさん、何とか助けてあげたいね〉

〈うん……何千年なんて、私たちには想像もつかない時間を、ずっとその約束のためだけに生きてきたんだもんね……〉

 フェイトの言葉に、なのはは、そうだね、と頷いた。


 気が遠くなるほどの悠久を旅してきたオリジン。かつての夜天の書―――リインフォースのように、幸せな旅の終わりが彼に訪れて欲しいと、彼女たちは思っていた。



〈……あの子も、ロストロギアやからこれだけ長い間生きてこれたのになぁ……〉

 はやては感慨深げにそう思う。なのはとフェイトははやての心を想って、そっと彼女の手を握る。

 はやてはそんな二人に優しく微笑んだ。


〈やのに、ロストロギアやから、一緒におられんなんてなぁ……〉

 ロストロギアだから、彼女にもう一度会えるというのに。ロストロギアだから、彼女と一緒にいられない。それは、オリジンにとってどれほど悔しいことなんだろうか。


 はやての念話での言葉に、なのはとフェイトも何も言えずに俯いた。


 リインフォースとの思い出があるはやては、特にオリジンのことを気にかけていた。リインフォースと同じく、長い時を旅してきた存在。そして、その存在ゆえに幸せになれない存在。




 はやては、リインフォースのことを思い出していた。



 オリジンはまさにはやてにとって過去の再現に近かった。かつて幸せにしたいと願ったあの子は、幸せになったが、共にはいられなかった。

 だから、今回は。彼に幸せになって、そのあとも幸せに過ごして欲しかった。ロストロギアだからとか、関係なく。ただ、幸せに。


 彼はオリジンという、ひとつの存在なのだから。

 そうあっていいと、はやてはリインフォースに言ったのだから。


 だから、思うのだ。リインフォースの残してくれた魔道の力で、彼女のような誰かを幸せにしたいと―――



〈………………あれ?〉



 ふと、そんな声を胸のうちで上げる。

 そのはやての変化に、なのはとフェイトが疑問を持って尋ねる。

〈はやてちゃん?〉

〈どうしたの?〉

 その言葉に、当のはやては頭に手を当てながら、う〜んと唸る。

〈んー……なんか大事なこと忘れてるような……〉

 なんやったかなぁ、と呟きながらはやては頭を抱える。なのはとフェイトは完全に悩み始めたはやてを見守りつつ、クロノたちの会話にも耳を傾けていた。








 オリジンも含めたグレアムたちの話し合いは、主にオリジンがその主の元に行った後のことである。クロノと守護騎士たちも管理局側ということだろうか、話し合いに参加していた。

「―――やはり、管理局が納得するような理由が必要だな」

≪もしくは、証拠が必要になってくるな≫

「しかし、僕たちが協力したとしても、限界は出てくる。根拠……証拠なんて夢のまた夢だぞ」

「クロスケ、なんかオリジンの代わりみたいなのとか用意できないのか?」

「ロッテ……管理班の人間がどれだけ優秀かは、君もよく知っているだろう」

「確かに、優秀というか……生真面目なぐらいに仕事熱心だった」

「我々は主はやての供をすることが多いゆえ、管理班というものはよくわからないのだが……そもそもロストロギアの代替物など、あり得るのか?」

≪ロストロギアは失われたがために、ロストロギアだ。その代わりとなるものなど……ないだろうな≫

「じゃあダメじゃねーか」

 その話し合いもこんな感じで、進展といえる進展は特にないと言っても過言ではなかった。


 実際、これといった具体案は何もなかった。


 やはり、一つとはいえロストロギアが管理下から外れる、ということにはそれなりの理由がなくてはならない。というより、そもそもロストロギアを手放すなどありえないのだ。どれだけ理由を作ったところで、無理な話だというのは判った上でこうして話し合っているのだが、やはり何もいい考えが浮かばないことは、それなりに気分を沈ませた。


≪……すまんな。俺が出て行って逃げ続けられればそれでもいいんだが……≫

 そういうわけにもいかんからな、とオリジンは笑う。どこか諦めたような響きもあるその声は、彼が初めて漏らした弱音でもあった。


「逃げるにしても……言いたくはないが、主の生まれ変わりの子が協力的ではない場合もある。……それに、君のリンカーコアの反応は既に管理局にデータとして残っている。魔力を辿れば、すぐに捕まる」

 クロノの言葉はどこまでもその通りの事実だった。だが、それゆえにその言葉は、どうしようもない現状を皆に改めて突きつけるには十分だった。





 しかし、皆が俯きがちになってしまった中で、ただ一人俯かずにいる少女がいた。


 八神はやてである。


 彼女はさっきからずっと考え込んでいたのである。そして、今のクロノの言葉を聞いて、ようやくその答えが出る。

 正確には、彼の言葉の中の、ある一つの単語を聞いて。


〈リンカーコア……〉


 ぽそり、と胸のうちで呟く。

〈―――え?〉

〈はやて……?〉

 なのはとフェイトがその声に気付き、はやてを見やるのとほぼ同時に、はやては突然大きな声をあげた。



「そうや! リンカーコアやん! あ〜、なんで気付かんかったんやろ〜〜」


 はやては唸りながら頭を抱える。対して唐突に声を上げたはやてに、クロノ始めみんなが驚き、目を丸くしてはやてを見つめる。

「はやて、いったい―――」

「なぁなぁ! 要するにオリジンが特に力のない、ただのデバイスやってことになれば問題ないんやろ?」

「あ、ああ……そう出来れば、色々な問題の解決がしやすくなるのは事実だが……」

「よっしゃ!」

 はやては小さくガッツポーズを作ってみせる。問い質そうとしたクロノは、はやてに逆に問い掛けられ、掛ける言葉を失っていた。

 そんな中、オリジンが興奮気味のはやてに話し掛けた。

≪……なにか、案があるのか?≫

 オリジンの言葉に、はやては力強く頷く。

「ん、たぶんオッケーや。ただ私の考えやと、定期的に私がオリジンに会わなあかんけど」

「……どういうことだ?」

 クロノが改めて疑問をぶつけると、はやては一度あいだを置き、こほん、とひとつ咳払いをした。



「……つまりな、私の『蒐集行使』を使うんや」



「蒐集行使って……」

「あの、私たちのリンカーコアを吸収した、あれだよね?」

 フェイトの言葉に、なのはも同意する。それを聞いたはやては、その言葉に頷いた。


 『蒐集行使』―――それは対象の魔力の源、リンカーコアを吸収することで、対象の持つ魔法を己の魔法として使用することの出来る能力である。その他にも、対象の数日から数週間の魔法使用の強制停止、己の魔力の補充、魔法技術の研究……などの使用方法もある。

 主にはやての特別捜査官としての任務では、強制魔法使用停止の意味合いで駆り出されることが多い。あとは、絶滅危惧の魔法生物のリンカーコア吸収による対象のデータを記録保存する、という任務もある。

 最近では蒐集を必要とする任務も多く、もはやはやては管理局にとってなくてはならない存在になりつつあった。


 この場合、フェイトが言ったのは、かつての闇の書事件の際に自身も経験した、ページ蒐集のための蒐集行使である。

 当然、今回もその意味での蒐集だと思ったのだが……。


「ん〜……でもちょいちゃうかな。この場合は単純にオリジンのリンカーコアをちょっと使い物にならんくしたらええねん。蒐集した魔力は、適当に何とかすればええし」


「え……?」


 確かに、そうすればオリジンはしばらくただの知性の高いデバイスでしかない。そうなれば管理局も提督管理下なら許可を出す可能性もなくはない……が、しかし、蒐集行使には一つの欠点があったはずである。



「けど、はやて……蒐集は確か、同じ対象には一度きりじゃなかったっけ?」



 ヴィータがはやてに進言する。それはフェイトを含め、皆の蒐集行使に対する共通認識でもある。

 事件の終了後に知ったことだ。なぜ、ヴィータが闇の書を持っていたにもかかわらずなのはとの戦闘を避けたのか、再びなのはやフェイトのリンカーコアを奪うような行動を微塵もしなかったのか、と。それに対しての答えは、闇の書の蒐集は一人に対して一回だけ、というものだった。

 その原則に従えば、オリジンの再度の蒐集は出来ないはずだった。

 しかし、はやてはヴィータの言葉に人差し指を立て、ちっちっち……と振ってみせた。



「ちゃうよ、ヴィータ。確かに“闇の書のページ蒐集は一人に対して一回きり”や。けど、“蒐集自体には回数制限はない”んやで」



「? 結局どういうことなのさ?」

 アルフが皆の心を代弁する質問をはやてにする。

 はやてはまたひとつ咳払いをした。



「つまりな。闇の書のページを集める目的でない蒐集行使―――単純に魔力吸収の意味合いでの蒐集には一人一回ってゆう制限はのうなるんや。せやから、オリジンに対してリンカーコアが回復すれば……まぁ、回復一歩手前でもええかな。要するに、その状態なら同じ対象にもう一度蒐集行使をすることもできるわけや」



「そうか! つまりオリジンのリンカーコアを奪い、それから回復する手前のリンカーコアを定期的に蒐集すれば―――」

 はっとしたクロノの言葉に、はやては頷く。



「オリジンのリンカーコアは事実上ずっと使い物にならん。要するに、魔法が使えんくなるってことや」



 そうすれば、オリジン自体はただの頭のいい古いデバイスであり、ロストロギアとしての価値はほぼなくなり、ただのテクノロジーの塊でしかない。

 それはすなわちロストロギアとして管理する一つの意義を無くしたことに他ならない。それは、オリジンにとって大きなプラスである。


≪だから、君は俺に定期的に会う必要がある、と言ったのか≫

 こくり、とはやては頷く。

「さいわい、海鳴市は地元やから移動するにしても時間はかからんし、管理局の人間もいっぱい住んどるからな。そんな問題はないやろ」

「けど……本当に管理局が許してくれるかな……」


「その点もたぶん大丈夫や」

 フェイトの不安に、はやては笑顔で答える。

「もし偉い人らが嫌や言うたら特別捜査官の任務ストしたるんや。最近は蒐集の任務も増えてきとってな。けど蒐集は私しか出来んからな。きっと困るで〜」

 心底楽しそうに笑うはやてに、フェイトは苦笑いしか浮かばなかった。

「まぁ、その前にリンディ提督やレティ提督にも協力してもらうつもりやから、その段階で大丈夫やと思うけどな」


 クロノの実母にしてフェイトの養母―――リンディ・ハラオウン提督は、アースラの艦長職を退き、現在は時空管理局本局に勤めている。局の中でも提督として高い地位にいた彼女は、かつてのP・T事件の際も、あの手この手で色々と尽力してなのはとフェイトの決戦をお膳立てしたこともある人物である。

 対してリンディの友人ではやての上官―――レティ・ロウラン提督も腕利きとして知られる本局の提督である。


 あの二人に任せれば、なぜだか何とかなりそうな気がしてくるから不思議だった。



「―――と、いうわけでや」

 はやては改めてオリジンに向き直る。

「オリジンはその子のもとに行ってからも、必ず定期的に私の蒐集を受ける。そして、使えても大したことはないと思うけど、魔法は主の身を守ること以外では絶対に使わない。これからは私らの指示にちゃんと従うこと。……今んトコはこんな感じやけど、どや?」


 はやてがにっと笑って人差し指をオリジンに向ける。

 それに、オリジンは笑いさえ含んだ声で、答えた。

≪どうもこうもない。……どうか、よろしくお願いしたい≫


 その答えに、その場の皆が嬉しそうに微笑んだ。なのはもフェイトもはやても、アルフにヴォルケンリッター、リーゼたちにグレアムとクロノも。


 そして、オリジンも。表情こそないが、何となく嬉しそうに。


 何千年ものあいだ願ってきた事が、ようやく現実味を帯びた望みになってきた。どこまでも、誰よりも一途なオリジンの愛情が、叶う時が訪れようとしているのだ。


 これを喜ばずにいられようか。


 オリジンはその協力を惜しまなかったグレアムたちを見やり、そしてその次に一日とはいえ大きな恩を受けたアースラの皆に視線を移した。

 そして万感の想いで、ありがとう、と誰にも聞こえぬ声で呟いたのだった。



「―――よっしゃ! ほんなら早速リンディ提督に報告せなな。事件の状況と、これから何するかをな」

「ああ、それなら問題ない」

 はやての言葉にクロノが答え、クロノはエイミィを呼び出す。

 空中に浮かぶ魔法陣の中心あたりがモニターのようになり、アースラ艦内のエイミィをそこに映した。

「エイミィ。またどうせリンディ提督は暇な時に事件を見ていたんだろう? 繋いでくれ」

『あちゃ〜……バレてましたか』

「今までも僕の仕事ぶりが気になるとか、フェイトが心配だとか言って、管理局から覗いていたことぐらい、ちゃんと把握してるよ」

 クロノがため息まじりにそう言うと、エイミィが共犯の居心地の悪さゆえか、乾いた笑い声を上げる。

 そしてクロノとは違い、変なところで鈍いフェイトはクロノの言葉に心底驚いていた。

「……あの、クロノ……それ、ホント?」

 無言で頷き、クロノは答えを示す。なのはたちは、リンディさんらしいなぁ、とどこか達観した口調で呟いた。

『んじゃ、繋ぐよ〜。一応私のほうからも現状は簡単に伝えておいたからね』

「ああ、わかった」




 魔法陣にそれまでエイミィが映っていたところに、きらめく緑翠の長い髪を頭の後ろでポニーテールにした美しい女性が映し出された。


 リンディ・ハラオウン提督である。


『は〜い、クロノ。何だか久しぶりねぇ』

「はい。ここのところ、僕は泊まりでしたからね」

『フェイトも、すっかり執務官姿が板についてきたわねぇ』

「あ、ありがとうございます……リンディ提督」


 リンディは明るい声で二人に話し掛け、そして微笑みかける。彼女のその独特な温かい人柄は、彼女が誰からも慕われる大きな要因であった。

『なのはさんにはやてさんたちも、頑張ってくれているみたいね』

「はい、リンディさん」

「お久しぶりです、リンディ提督」

 二人がぺこりとお辞儀をして、アルフとヴォルケンリッターもそれに続くように一礼する。

 それににこりと笑みを浮かべ、次いでリンディはグレアムたちのほうに顔を向けた。

『お久しぶりですね、グレアム提督。リーゼさんたちもお元気そうで』

「ああ……そちらも元気そうで何よりだ」

 グレアムが答え、ロッテはにっと笑い、アリアは穏やかに微笑む。それにリンディは微笑みで返し、最後にオリジンへと視線を向けた。



『……そして、あなたがオリジンさんね。初めまして、時空管理局提督リンディ・ハラオウンです』

≪お初に見える、リンディ提督。……ハラオウンということは、クロノ提督と彼女の……≫

『ええ。母親です』

 柔らかい笑顔で肯定してみせる。その顔はこちらまで幸せになるような幸福感があり、オリジンは言葉を発さず、ただ微笑むように、そうか、とだけ答えた。

「―――それで、リンディさん。ちょっと頼みたいことがあるんですけど……」





 はやてがさっきまで話し合っていたことをリンディに話す。リンディははやての話を静かに聞き、そしてはやてがリンディたちに本局に働きかけて欲しいと伝えると、彼女は目を閉じて考え込んでいたが、しばらくすると、すっと目を開いた。


『……うーん、まぁいいでしょう。わかりました、私のほうからも動いてみます』

「ありがとうございます、リンディさん!」

 なのはが嬉しそうにリンディに笑いかける。

『いいのよ、なのはさん。……なのはさんも頑張ってね』

「え?」

 リンディの突然の励ましの言葉に、なのはは何に対してのものなのか判らず、ぱちくりと目をしばたく。

 そんななのはを一瞥して、リンディはオリジンに向き直る。



≪……恩に着ます、リンディ提督。いつか必ずご恩返しを―――≫


『あら、いいのよそんなことは』

 オリジンの言葉にリンディは心外だとばかりに驚いてみせた。

≪しかし……≫


『人の幸せのための行動に、何か理由がいるのかしら?』


 にっこりと、これ以上ないぐらいの満面の笑み。疑うことなく、人の幸せを願うことは当然のことだと、その笑顔が言っていた。

 オリジンはリンディの言葉と、その美しい笑顔に言葉をなくした。グレアムを始めとして、アースラの皆、そしてリンディの優しさ。決して見返りを求めない純粋な優しさにオリジンは胸を打たれた。



≪―――……本当に、ありがとうございます≫



 だからオリジンは心から頭を下げた。尊敬に値する人物に敬意を表して。そして、自分の想いを汲んでくれたことに、最大限の感謝を込めて。


 オリジンの礼にリンディは笑顔で、どういたしまして、と答えた。





『……さて、と。それならレティにも協力してもらいましょうか。私のほうから連絡入れておくわね』

「あ、お願いします〜」

 もとからそのつもりだったはやては、リンディの申し出を快諾した。

 リンディとレティから本局に働きかけてもらえば、オリジンへの処遇もだいぶ楽になるはずである。なにしろ、二人の影響力はそれはもう凄いの一言に尽きるからである。


『それじゃ、私は失礼するわね。早速手を回してみるわ』

「はい。よろしくお願いします、リンディ提督」

 クロノの言葉にリンディは、ん、と微笑んで答えた。

 そして、ひらひらと手を振るリンディの姿を最後に、通信は切れた。




 あとに残されたのは、現地のメンバーたちである。


「―――よし、これで本局の方への手配も問題ない。あとはリンディ提督からのGOサインを待つだけとなったわけだが……」

「せやけど、色々もう一度確認した方がええやろね」

 クロノの言葉を継いだはやての言葉に、クロノは頷いた。

 そして再び会議が始まる。

 しかし、今回のそれは先程までの重い空気とは違い、とても温かい、希望に満ちた雰囲気が場を包んでいた。




















―――To Be Continued