魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 「―――……こうして、私は闇の書の情報を得る代わりにオリジンに協力することにした。まず彼に古代魔法を少し教わり、条件付の長距離次元転送魔法をかけた。それからも彼とは念話で連絡を取り続けていたよ。さすがは古代の魔法……というべきか、宝蔵の通信妨害も素通りで会話が出来た」 グレアムはちらりとオリジンのほうを見た。 「……そして、ついこの間だ。オリジンから興奮気味に連絡が入ったのは。普段冷静な彼だから、私は訝しんだが……そのとき、彼は一言こう言ったよ―――」 ひとつ間を置いて、グレアムは口にする。 「『見つけた―――!』と」 グレアムは一息つき、これで話は終わりだと言う代わりに、静かに目を閉じた。 オリジンの過去も含めたグレアムの話に、クロノを始めとする皆は、信じられないといった面持ちで呆然としていた。 グレアムが昔、闇の書の主ごと永久凍結して封印することを画策し、そのためにリーゼたちが仮面の男として暗躍していたことは、当時その事件に当たっていたなのはたちにも周知の事実である。はやてたちは最近になって知ったことだが、それはこの際瑣末事だろう。 この場合、問題にすべきは二つである。オリジンの動機と、グレアムの協力。 この中で特に皆が驚いたのは、オリジンの動機であった。 すなわち、人とデバイスの恋愛である。 彼の主クリスと、彼女のデバイスであるオリジン。人ならざる彼を愛し、デバイスとして以上にその想いを注いだクリティアス。また、主である彼女に、それ以上の感情を抱いた人ならざるデバイス、オリジン。 人工の機械であるデバイスとの恋愛など、聞いたことも無い話だった。 だから、判らない。それは本当に彼にとっての動機たりうるのか。そして思う。彼はそこまで彼女のことを愛していたのか、と。 それこそ、何千年という悠久の中、ただ独りで。いつ生まれるとも判らない、生まれないかもしれない、彼女の生まれ変わりを待つほどに。 「―――……オリジンさんは……」 その話を聞いて、なのはは思わず聞きたくなった。それを聞くことは、侮辱だとわかっていながら。失礼であるどころか、無礼でしかないとわかっていながら。それでも、どうしても。 「オリジンさんは……クリティアスさんを、愛していたんですか? そして……クリティアスさんも……」 ただ、彼がデバイスだからという理由で、彼らの愛を疑問に思ってしまった。それが、侮辱でなくて何だと言うのか。 だからなのはは、そんなことを聞いた自分を愚かだと思った。そして、馬鹿だと。それでも、なのはには知りたいことがあった。それは、言葉にしてみれば陳腐なものに過ぎないこと。しかし、なのはにとってはどんな問題よりも難解で、深い意味を持つ命題。 すなわち、愛について。好きとは何なのか、という問題。 なのはは、彼ならば答えてくれるように思ったのだった。彼ならば、自分の問いに、答えを返してくれそうな気がしたのだ。 そしてそう思っていたから、なお自分を恥じた。打算で彼の想いを侮辱した、自分が許せなくて。 ≪……高町、なのはといったか≫ 「……はい」 オリジンに声をかけられ、うつむくなのはに、オリジンは更に声をかける。 ≪では、高町と呼ばせてもらおう。……高町、気にすることはない。君の疑問は至極まっとうなものだ≫ オリジンは、なのはが自分を責めていることを見透かしていた。そして、疑問に持つことは仕方がないと言う。 しかし、なのははそれでは納得できなかった。 「でも、私は……自分の都合で、オリジンさんの想いを……」 オリジンは、下を向くなのはの姿に、ふっと笑みを漏らした。 ≪……昔、俺がまだクリスと在った頃、彼女に聞いたことがある≫ 突然の脈絡のないオリジンの言葉に、なのはは顔を上げて彼を見る。 ≪なぜ俺なのか。俺は、人ではないのだぞ……とな≫ なのはは口を挟むことなくオリジンの話に耳を傾ける。それは、なのはが聞きたいことの根幹でもあった。 ≪そうしたら、彼女は笑って言ったよ≫ 思い出すように笑いながら、オリジンは楽しそうに彼女との記憶を想う。 『私は、あなただから好きになったの。デバイスとか人間とか、そうじゃなくてね。ただ一つ……私の気持ちで、あなたを信じて、あなたを愛しているのよ』 オリジンの記憶の中の彼女は、幸せそうに微笑む。 『それに、あなたの気持ちも信じているわ。気持ちって、伝わるものでしょう? 言葉とか、それだけでも』 ふふっ、と愉快そうに笑ってみせる。 『―――そして、何より……あなたといると、こんなに幸せなんですもの』 彼は、そのときの笑顔を、何よりも美しいと思った―――。 ≪―――別に、愛だったと言うつもりはないんだ≫ オリジンははっきりと言った。 ≪ただ、俺は彼女のことを誰よりも大切だと思い、彼女は俺のことを何よりも大切に想ってくれた……ただ、それだけのことだったのだ≫ それだけだと言い切るオリジンの言葉に、なのはは衝撃を受けた。 いつしかなのはは、好きという気持ちとは何だと考えていた。『愛』という名前が先に来て、その内容は後回しになっていた。 そうではなかったのだ。互いに相手を何よりも大事に想う、その気持ちが『好き』ということなのだ。『愛』とは何だ、ではなく、“そんな気持ち”が『愛』なのだった。 そのことに気付くと、まるで世界が一新されたように、なのはの心は晴れやかになっていた。 そしてそのことに気付かせてくれたオリジンに、なのははひとつ頭を下げた。 「……ごめんなさい、オリジンさん。それから、ありがとうございます……」 クロノたちは突然のなのはの謝罪と感謝に困惑する。しかし、オリジンには伝わっていたようだった。 ≪いいさ。君が何に悩んでいるかは知らないが、助けになったならよかった≫ その言葉に皆なにか察したようにはっとし、何も言わずなのはのことを優しく見つめた。 わからないのは、クロノとグレアムたちだけである。 特にクロノは突然の自分の周りの空気の変化に、戸惑うばかりだった。 「―――ごほんっ! オリジンの動機についてはわかりました。グレアム提督……あなたはなぜオリジンに協力したんですか?」 クロノの咳払いに、なのはたちも表情を変える。事件は確かに進展したが、まだ何も解決していないのだ。 「先程言ったとおりだ。ほんの少しとはいえ、彼の気持ちが判ったからだよ」 クロノの言葉に、グレアムはもう一度同じことを話す。 クロノは納得いかなげな顔をしていたが、それに、とグレアムが続けたので、クロノは再び顔を引き締めた。 「それに―――彼といくらか言葉を交わすうちに、いつしか彼のことを友のように思い始めた。利害ではなく、ただ友を助けたいと思っていた」 グレアムの言葉に、クロノは一層真剣な顔を見せる。 「あなたは、希望辞職という形で管理局を去った。だから、いまだに管理局ではあなたの輝かしい功績が残されている。……もし、今回の件で永久追放にでもなれば、そんな功績も全て、水泡に帰すことになりますよ」 その言葉に、グレアムも真剣に返す。 「過去の栄光に執着がないとは言わん。だが、今回の自分の行動に、私は後悔していない」 グレアムの確固とした言葉に、クロノは黙ってグレアムを見つめ、グレアムもそれを静かに受け止めてクロノを見据える。かつての師弟とはいえ、今では犯罪者とそれを捕まえる立場である。周りの皆はその緊張感あふれる空気に、ごくりとつばを飲み込んだ。 ……どれほどの間そうしていたのか。 クロノが口元に笑みを浮かべたことで、さっきまでの張り詰めた空気は一瞬にして霧散していた。 「―――安心しました。提督が、私利私欲でオリジンを利用していないことがわかって」 さっきまでの厳しい表情は消えうせ、クロノは言葉どおり安心した、という顔でグレアムに笑いかけた。 「私が何も企んでいないという証拠はどこにもない。それでも、安心したと言えるのか?」 はい、とクロノは答える。 「僕は提督の人柄をよく知っています。提督は、いつも何かの為に自分を動かす方ですから。……それに―――」 クロノはちらり、となのはたちに目を向ける。 「僕は本当にいい部下に恵まれました。優秀で、優しい部下達に」 クロノの言葉に、なのはやフェイトは頬を染めて照れる。そんな彼女たちの姿を、グレアムは目を細めて眺めた。 「だから、たとえ提督が何か企んでいたとしても、絶対に阻止してみせます」 クロノは自信を持ってそう答える。クロノの予期せぬ言葉に照れていたなのはやフェイトも、若干照れの残る……しかし、凛々しい顔でクロノの言葉に頷いている。 その顔からは、管理局の人間としての誇りと、彼女たち自身の優しさが感じられた。 その姿は、確かにクロノが言った彼女たちの姿だった。 そんなクロノの言葉に答えたのは、リーゼだった。 「大丈夫だよ、クロスケ。あたしたちは本当にアイツに協力してるだけさ」 「それ以外に、私たちも父様も、何も考えていないよ」 ロッテとアリアは微笑んで、クロノたちにそう答えた。グレアムもそれに続いて、口を開く。 「……私が管理局でやり残したものは、闇の書とオリジンのことだった。闇の書はもうその旅を終えた。あとは、オリジンの願いを叶えるだけだ」 一息つき、グレアムは目を閉じた。そしていくらかもしない後、目を開き、柔らかい笑顔を浮かべて、言った。 「―――私はただ友人に力を貸しているだけだ。何も、それ以外に望むものなどないよ」 グレアムの言葉は、確かに彼の言うとおり証拠がない。だが、信じられるものだと思えた。本当に、ただの手助けなのだと。 それはクロノがグレアムたちを幼い頃から知っている知識からの信頼でもあったし、師弟の中で彼らの人柄に触れた経験でもあった。 (……まぁ、いざとなったら報告書に手を加えるさ) その自分の考えにクロノは心の中で自嘲気味に笑う。いつの間にか自分も彼女らの無茶に感化されているじゃないか、と思って。 「―――提督の言葉、信用します。それに、オリジンのことも」 そして、結局クロノはそう言うのだ。彼の真面目さと、優しさゆえに。もっともそんなことを言えば、彼は顔を真っ赤にして大いに照れるだろうが。 「ありがとう、クロノ……」 グレアムはクロノに頭を垂れる。 ≪俺からも礼を言う。クロノ提督、ありがとう≫ オリジンにまで感謝の言葉を贈られ、クロノは少し頬を赤くする。真面目な彼は、こうしてストレートに感謝されることが苦手なのだった。 グレアムは頭を上げ、そんなクロノを微笑ましく見つめたが、ふっと真顔になった。 「クロノ。頼みがある」 そのグレアムの声音に、クロノを真剣に対応する。 「わかっています。オリジンのことですね」 「ああ……。察しはついていると思うが、彼の主と同じリンカーコアを持つ者は、この地球にいる。その子の元にどうにかオリジンを無事に届け、しかもそのあと管理局から干渉されないようにしなければならない」 それは、オリジンがロストロギアであるゆえの大きな問題だった。ロストロギアだから、管理局の管理下に置かれなければならない。しかし、そうすると彼女の生まれ変わりのもとにはいられない。 オリジンが古代遺産であるからこうして彼女に会うことが出来るのに、古代遺産ゆえに管理される。皮肉な二律背反だった。 「何か、手はないだろうか……」 グレアムの呟きに、なのはたちアースラチームも頭を絞る。しかし出てくるものは唸り声ばかりで、いい知恵はなかなか出てこなかった。 その中、ふとクロノは重要なことを聞いていないことを思い出した。 「……場所は、地球のどこに?」 ≪日本だ≫ クロノの問いには、オリジンが答えた。 ≪正確には、その中でも海鳴市と呼ばれる場所のようだがな≫ 一瞬、シン……と静まり返る。 が。 「「「「ええええぇぇッ!?」」」」 次の瞬間には怒号のような叫び声でリビングは満たされた。 |
| ―――To Be Continued |