魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story -





「……やー、それにしても綺麗に話すよねー、この子」

 通信で送られてくる音声を聞きながら、エイミィは感心するように声をあげた。

「エイミィ、この子はないだろう。僕らの何倍も生きてるんだから」

「そーゆうクロノくんだって、デバイスに生きてるって言うのはおかしいよ」

「そ、それはまぁ……な」

 生きている、という表現は無意識に出てきたものだった。改めて考えると、機械であるデバイス相手に生きているというのも妙な話である。

「……どうも、調子が狂うな」

「だね」

 お互い苦笑して、モニターに視線を戻した。







「―――では、こちらからの質問をさせてもらっていいか?」

≪ああ。もちろんだ≫

 オリジンの答えにシグナムは頷き、なのはを一瞥する。その視線にこくりと頷き、なのははオリジンに向き直った。

「あの……どうして管理局から抜け出したんですか?」

 それはこの事件の根本。つまりは動機である。なにか目的があったからオリジンは管理局から離れたのだ。しかし、今のところ死傷者、物理的被害共にゼロ。事件らしい事件は何も起こっていない。そういったこともあって、今回の事件は全てこの動機にかかっているといっても過言ではない。


 なのはの問いに、オリジンは答えない。聞いてからずっと黙ったままである。その姿はある意味一番デバイスらしいとも言えた。デバイスは機械である。どれだけ高性能なデバイスだって、機械なのである。そして、機械はもともと喋ることは出来ないのだ。

 しかし、オリジンは喋ることが出来る。それも信じられないほど流暢に。そして知能も人間と比べても遜色ないほど抜群に高いという。だというのに答えが返ってこないということは、何か話せない事情であるということなのか。それ以上強く聞くことも出来ず、なのはたちの間に気まずい沈黙が続く。
 だが、いつまでもこのまま黙っているというわけにもいかない。いい加減しびれを切らして声をかけようと思った矢先―――



≪―――……ちょっと、な。約束があったのだ≫



 オリジンはようやく口を開いた。


「やくそく……?」

 なのはが呟く。それにオリジンは頷いた。

≪そうだ。約束だ。そのために、俺は管理局から出なければならなかった≫

 オリジンは力強くそう言い切った。それは何か圧倒されるような声音を持っていて、なのはは思わず言葉に詰まった。

 それは皆も同じだったのか、皆口をつぐみ、一瞬再び場を沈黙が包んだ。

 オリジンもそれ以上話すつもりはないようで、黙ったままである。


「……あの、その約束が何であるかは、教えてもらえないんですか?」

 フェイトが黙ったままでいる皆の口火を切ってオリジンに問い掛ける。一瞬黙した場はそれで再び動き出したようだった。

≪それは……ある程度の考えはある≫

「なら……」

 フェイトが口を開こうとすると、オリジンは早合点するな、と釘をさした。

≪まだ君たちを信用したわけではない。気を悪くしないでくれ≫

「それは気にしてないからええけど……」

 はやてはそうオリジンに言う。確かにそのことを気にしてはいない。が、事件のことを気にしていないと言っているわけではない。はやてたちは時空管理局の人間なのだ。約束があるから、という理由で、いってらっしゃいというわけにはいかない。

 しかし、どうすればいいのかわからないのも事実だった。話してくれなければこっちは何の行動も出来ない。協力も対立も、どちらにしろ目的というものが判らなければ出来ないのだから。


 皆がどうしようかと迷う中、しかしなのはは何かを決めたように顔を引き締め、オリジンを見つめた。




「……なら、どうすればいいですか?」




 なのはの言葉に、皆が驚いてなのはを見やる。

「オリジンさんは、どうして欲しいですか?」

 オリジンは答えない。というより、まったく反応がない。まるで、呆れて物も言えないとでも言うように。

〈なのはちゃん!〉

〈高町、それは上手くない〉

 はやてとシグナムが念話でなのはの行為を諌めた。

 交渉とは常に自分が優位に立っていると思わせることから始まる。こちらが格下だと思われれば相手から不利な条件を突きつけられ、不平等な結果になる。向こうは自分より上だ、と思わせることで有利な条件……最低でも平等な条件で交渉を終える。それが交渉人としての能力の優劣になる。

 しかし、今回のなのはの対応はどうだろう。要求する権利は向こうに渡し、こちらは聞くというスタンスをとっている。これは明らかに交渉としては失敗だ。これでは相手が優位に立ってしまう。重ねて、相手の力や目的はいまだ不明である。この状況下での今の行為は失策と言われても仕方がないものであった。

 それは、なのはにだってわかっているはずなのに。

〈……大丈夫だよ〉

 それでも、なのははそう言った。

〈しかし……〉

 食い下がるシグナムの言葉にも首を振る。安心してくれと言うように。

「大丈夫」

 今度は声に出して、なのはは言った。

「オリジンさんはその約束を大事なものだと思ってる。それに、ちゃんと私たちの質問にも答えてくれた。本当なら、無視しちゃってもよかったのに」

「それはそうだが……」

「答えてくれたってことは、少なくとも私たちと険悪になったらオリジンさんのいう約束を果たすのには困るっていうこと。なら、よっぽど無茶なことは言ってこないよ。それに……」

 一度言葉を切り、なのははオリジンを見据える。

 オリジンは、変わらずそこに浮いている。

「それに、約束があるって言ったオリジンさんは凄く真剣だったし、ね」

 なのはの言い分に、フェイトたちは目を丸くした。

 だが、次の瞬間には諦めたように軽く微笑んでいる。なのはらしい、とずっと彼女のことを見てきたからこそ持ち得る、至極簡単な信頼をもって。






 シグナムは彼女たちと同じようになのはを信頼するほかにこうも思っていた。もしオリジンが無茶な要求をしてきても、いざとなれば戦闘という手がある。好戦家というわけではないが、必要な戦闘ならば逃げるべきではない、という意識は自分だけではなく皆持っているのだ。ならば、戦闘は悪い手ではない。

 もちろんそれが最後の手段であるのは重々承知している。だからこそ、これまでシグナムも戦闘は最終手段となるように対応してきたのだし、さっきなのはを諌めたのもその思いゆえであるのだから。

 しかし、心のどこかでなのはが言うように、たぶんそんなことはないだろうとも思っている。

 シグナムも思っていたのだ。なのはの言葉にもあったように。

 約束がある、と言った時のオリジンは、確かに誇りさえ感じるほど真剣だったのだから。

(私も、甘くなったものだな)

 しかし、嫌な変化ではない。それだけは間違いないと断言できる。そんな変化が自分に……自分たちに訪れようとは思わなかった。この時代で主に出会ってから、自分たちは変わってきている。その変化を、素直に嬉しいと感じるほどに。

 そんな感情を表には出さず微笑で流し、シグナムは主の隣で静かになのはを見つめた。







≪……お前たちは、そんな言葉だけで俺を信用するのか?≫

 オリジンはどこか馬鹿にしたような響きさえ持った声で、そう答えた。

 それにヴィータがむっとして前に出ようとするが、なのはが伸ばした腕に遮られて待ったをかけられる。

 ヴィータも感情的だったことを自覚していたのか、そのまま踏みとどまった。それを見届けて、なのははオリジンに向かい合う。


「私は、言葉だけでオリジンさんを信用したわけではありません」


 なのはははっきりと言い切る。そんなことで、人を信用しないと。信用するためには、言葉よりももっと根幹にあるものを信じなければいけないと、知っているから。

 右手を、己の胸に添える。


「―――気持ちで。オリジンさんの言葉から感じられた気持ちで、信じたんです」


 気持ちは、言葉にしないと伝わらない。それは何も表面的な意味合いだけじゃない。言葉の中に隠された気持ち……表面に表れない気持ちだってある。しかしそれだって伝わりにくいが、言葉の中に確かに存在しているのだ。

≪―――……気持ちで、だと?≫

 オリジンが返すように問う。

 それに、しっかりと答えてみせる。

「はい。そうです」

 微笑んで。それが当たり前だと言うように。

(もっとも、本当に欲しい人からはもらえないんだけど……)

 言葉にもしてくれないから、何も判らない。知りたいと思っているのに。教えて欲しいと願っているのに。

 自分で言って、彼のことを思い出しているのだから世話なかった。だから、今度は苦笑する。アリサが言っていた惚れた弱みというやつは、まったく困ったものだと思えたから。





 オリジンはなのはの答えを聞いて、しばらく黙ったままだった。黙っていると本当にさっきまであんなに喋っていたのが嘘のように思えてくる。外見は本当にただのデバイスにしか見えないのだから。

 それでもオリジンに意思があり、話すことが出来ると知っているから、なのはたちは待った。オリジンが、なのはの言葉に応えるのを。



≪―――……まったく、あいつのようなことを言う≫



「え?」


 それから一分たっただろうか、オリジンはようやく口を開いた。が、何を言ったのか聞き取れず、思わずなのはは問い返した。

≪いや、なんでもない。……それより、俺がどうしたいかだったな≫

 オリジンの言葉に、ぐっと息を呑む。

 皆が身を固くする中、なのはが代表して答える。

「―――はい。教えてくれますか?」

 なのはの言葉に、ああ、と頷いてオリジンは宝玉のある面を上に向けた。

 つられるようになのはたちも上を見る。そこには、青く透き通った空があるだけである。



≪―――……そうだな。ではまず、クロノ・ハラオウン提督にお目通り願おうかな≫



 聞こえてきた言葉に、上に向けていた視線を八人は一斉にオリジンに向ける。そして、声をそろえてこう口にした。



「「「「……は?」」」」


















―――To Be Continued