魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 「全員、現地に到着した模様。モニターに映像出します」 ブゥン、と機械的な稼動音が鈍く響き、艦橋のメインモニターにオリジンから幾分離れた場所にいる八人の姿が映し出される。 モニターの中心をオリジンに移し、モニター越しに目標の側に人影がないことを確かめると、エイミィに付近の探索を命じる。しかし付近にそれらしい反応はなく、どうやらオリジンのみがそこにあるだけらしい。 「ユーノが言うように、今のところ単独行動というのが正解のようだな」 「うん……みたいだね」 なのはたちの数十メートル前に、銀色のデバイスが宙に浮いている。これから始まる事態に即座に対応できるよう、クロノは前のめりにモニターを覗き込んだ。 モニターからは、なのはたちが話し合う声が聞こえてくる―――。 「見えた! あれだね!」 「うん。昨日見た映像と一致する」 「でも……これだけ接近しても、微動だにせぇへんで」 なのはたち八人が目標座標付近に到着する。目標との距離、およそ五十メートル。何かあれば即座に対応できる、余裕を持った距離で一度停止する。 「シャマル、なにか異状はあるか?」 「えっと……何もありません。浮遊状態を維持するのに魔力の消耗はしているようですが……それ以外には、特に」 「そっか……」 はやてはうーん、と考え込む。 相手はこれまでのように魔導師ではない。それどころか人ではない相手である。感じとしては『闇の書事件』に近いものがあるが、闇の書とは違ってオリジンは融合型のデバイスではない。 闇の書のときは最終的にははやてと闇の書の融合によって人対人の戦闘が成り立ったが、オリジンにそれを期待することは出来ないとみていいだろう。 となると、自然と戦闘方法は限られてくる。それに今回命じられたのはオリジンの確保であって破壊ではない。闇の書のように全力で臨む、というわけにも簡単にはいかないのだった。 「……とりあえず、近づいてみようか。インテリジェントデバイスなんだし、あの子と話すことが出来るかもしれないし」 「高町。それは少し危機感を欠いてないか? 未だ向こうの戦力は未知数だ。もう少し慎重にいってもいいと思うが……」 なのはの提案をシグナムが柔らかく諌める。しかしシグナムもなのはの意見に反対しているわけではなかった。ただ、もう少し皆で話し合ってもいいのではと思ったのである。 「別にあたしはそれでいいと思うけどなー。正直、ちまちまやるのは効果的とは思えねーし」 「……お前は、自分が細かいことが出来ないだけだろう」 「うっせーな」 ザフィーラの指摘にむすっとするヴィータ。なのははそんなヴィータの姿に苦笑する。 「けどさー、実際問題ここで話してる段階でも向こうの力はわからないんだからさ。なのはの案もあながち悪くはないと思うんだけど」 「うん……私もアルフに賛成かな。一度対峙してみたほうがわかることもあるし……」 全員の意見が述べられ、みんなが一斉にはやてを見る。 みんなで事件に出向く時、現場での最高権力者は執務官であるフェイトだが、作戦を指揮するのはいつの間にかはやての役になっていた。 捜査官の適性検査の際、はやての適性は問題なく高かった。それに加えてはやては指揮官の適性も高いという結果が出たのだった。そのこともあってか、はやては人をまとめるのが上手い。自然と現場ではまとめ役兼指揮としての立場が定着しているのだった。 「―――ほんなら、なのはちゃんの意見を一回試してみよか。シグナムの言うこともわかるけど、こっちが持ってる情報が少なすぎるからこそ情報収集として一度接触するのは有意義やと思うで」 「はい。私も、高町の意見に反対していたわけではありませんので」 「ん。……まぁ、いざとなったら『蒐集行使』って手もあるしな。浮遊魔法使てるってことはリンカーコアもあるやろうし……」 あんまり使いたくないけど、とはやては付け加える。リインフォースがはやてに残した特殊な力、『蒐集行使』。しかし『闇の書事件』のことを思うと、はやてにとってはそれを使わなければならない特別捜査官としての事件以外では積極的に使いたくない力であった。 「大丈夫だよ、はやて。あたしたちが使わせたりしないって」 「ヴィータの言う通りです。主にそれを使わせることはないと約束します」 ヴィータとシグナムの言葉に、はやては笑顔で頷く。 こんなに優しい子たちが傍にいてくれて、自分は幸せ者だと誇るように。 「ありがとな、ヴィータ、シグナム。……それじゃあ、行こか! あの子の話、聞いてあげんとな!」 「うん! 行くよ、レイジングハート。準備はいい?」 ≪All right my master(大丈夫です、マスター)≫ 「……バルディッシュも」 ≪Yes sir(はい、サー)≫ マスターの言葉に力強く答える二機。その答えに微笑み、なのはとフェイトは小さく視認できる銀のデバイスを見つめる。 「私らも行くで、リインフォース」 ≪はい、マイスターはやて≫ 自分の傍らにあるリインフォースの声にはやては力強く頷く。 「ほんなら、まずは目標への接近・接触を目的にする。各自警戒態勢を維持しつつ柔軟な対応で目標に対処すること。みんな、ええな?」 はやての言葉に、皆決意を持って頷く。 はやてはそれを確認すると、シュベルトクロイツをオリジンに向けて突き出す。 「よっしゃ!“オリジン捕獲大作戦”スタートや!」 「―――……はやては、いつも妙な作戦名を付けているような気がするが」 「確かに。まぁ、可愛らしくていいんじゃない?」 「別に悪いとは言ってないぞ」 クロノは言いつつ前のめりになっていた身体をイスに預け、はやての言う“オリジン捕獲大作戦”の行方を眺める。 しかしその中でクロノはひとつあることを考えていた。それはユーノの話を聞いてから、確実になってきた彼の予想。 オリジン以外の誰かが、協力しているという可能性。 オリジンが単独で行動している、という話はユーノが言うように本当だろう。しかし、腑に落ちない点はあるのだった。 それはあの銀色の魔法陣である。透明な魔力光はオリジンのものだとクロノは考えていた。それは消去法で考えるとそうなる、ということであるが。 実は、銀の魔力光に彼は見覚えがあったからである。 だからこそ、今回の件にはその銀色の魔力の持ち主が関わっている気はしていた。しかし、それを言っても皆が混乱するだけだし、クロノもあまり信じたくはなかった。だからこれまで口に出すことはなかったが……。 (まぁ、エイミィあたりは気付いているかもしれないな) そしてきっと自分の気持ちを汲んだ上で黙っていてくれているに違いない、とクロノはこれまでの経験からそう思った。 良くも悪くもお互い長い付き合いである。クロノはよき相棒としてエイミィのことを他の誰よりも信頼していた。 ちらりとエイミィを見ると、偶然か目が合った。そしてなぜかパチンと片目をつぶってみせる。それにため息で返し、クロノはモニターに視線を戻した。 (―――さて、と。果たして本当に関わっているのかどうか。今は管理局まで来ることは出来ないはずなんだがな) その胸の内での問い掛けになかば確信的な答えを抱きつつ、クロノはオリジンの前に辿り着いた彼女たちの様子を静かに見つめた。 「―――えっと……オリジン、さん……ですよね?」 五十メートルほどあった距離は数メートルあるかないかとなり、肉声も余裕で届く距離になのはたちは移動していた。 目の前には銀の巻貝のようなデバイスがひとつ。真ん中の緑の宝玉が恐らく本体となるのだろうが、なのはにはその宝玉がまるで瞳のようだと感じられた。 なのはが問い掛けると同時に、オリジンはそれまでどこか虚空を向いていた宝玉のある面をすーっとなのはに向ける。 宝玉のついた面を正面と呼ぶのなら、オリジンはなのはに対してぴたりと正面を向いた。 それにわずかに身を硬くするなのはたち。ザフィーラはすぐにでも防御が出来るように魔法陣の準備をし、シャマルは補助が出来るよう既に口の中で簡易バインドの詠唱を始めていた。 オリジンはそれには目を向けず、ただなのはを見つめて、口を開く。 ≪―――……時空管理局の人間か。ひとつ聞きたいんだが、所属艦はどこだ?≫ オリジンの発した言葉になのはたちは思わず呆然としてしまう。それはもちろん警戒を緩めない程度にだが、それでもやはり驚きは隠せなかった。 まずは予想外に流暢に話すこと。とてもデバイスが単体で話しているとは思えない、通信機なんじゃないかと疑いたくなるようなほどだった。事前に人間のように高性能であるとは聞かされていたが、実際に目の前にしてみると、流れるような言葉使いに驚愕を感じる。 そして次に時空管理局について知っている風であること。記録ではオリジンは管理局設立前に封印されたはずである。ならオリジンはそもそも管理局の存在自体知らないはずである。それなのに管理局のことを知っているのは時間的に考えて明らかにおかしい。 皆の間に緊張が走る。 ≪……どうした? 俺はそんなに難しい質問をしたか?≫ オリジンは今度は怪訝そうな声で聞いてくる。 やはり普通のデバイスとは違う。声に感情が乗っていると感じることで、その思いは皆の中で確信に変わった。 「―――あ、えっと……アースラです。アースラの所属です」 なのはが慌てたようにオリジンに答える。オリジンはなのはの答えに、ふむ、と頷いてわずかに下を向いて黙る。デバイスらしからぬ本当に人間らしい仕草だった。 そしてその間になのはの行為に対してヴィータが念話でなのはを叱責する。 〈バカ、なに素直に喋ってんだよ!〉 〈だ、だって……なんか不審がられてたし……〉 なのはも反論するが、その内容が稚拙だと自分でもわかったのだろう。反論の声はどんどん尻すぼみになっていった。 〈ま、まあまあヴィータ。なのはが言わなきゃ話が進まなかったんだし……ね?〉 すかさずフェイトが援護するようにヴィータに話し掛ける。 〈テスタロッサはなのはに甘いんだよ……まぁ、別にもういいけどさ〉 ヴィータはそれで引き下がる気になったのか、念話を切り、ふん、と顔をそらした。 なのははそれに苦笑し、フェイトに念話をつなげる。 〈ごめん、フェイトちゃん。ありがと〉 〈ううん、気にしないで。この中で交渉に向いてるの、たぶん……なのはだと思うし〉 フェイトがそう言うのとほとんど同時に、オリジンが顔をあげた。こう言うと語弊があるが、決して本当に顔があるわけではなく、宝玉のついた面をまた正面に向けたということである。 それを横目に確認したなのはとフェイトは念話を切断してオリジンに視線を戻した。 ≪―――アースラか。予想通りだな≫ 「え?」 オリジンの言う言葉の意味がわからず、なのはたちは首をかしげる。 ≪いやなに、気にしないでくれ。こちらの話だ。……それより、まだ名前を聞いていなかったな。君たちの名はなんという?≫ 「あ、えっと……なのはです。高町なのは」 「フェイト・T・ハラオウンです」 「八神はやてっていいます」 「あたしはフェイトの使い魔、アルフだ」 四人が自己紹介すると、その流れがふと止まる。シグナムが厳しい目でオリジンを見ていた。 ≪そちらの方々は名を教えてはもらえないのか?≫ オリジンの声が空に響く。シグナムは睨み付けるとまではいかないものの、厳しい視線をオリジンに投げかけたままだ。 「……ひとつ、約束してもらいたい。我らが名を明かせば、そちらも我らの質問に答えると」 シグナムはひとつ心配していた。相手に主導権を握られすぎてはいないかと。それを危惧した上でのこの交換条件であった。守護騎士の将として、シグナムはそういった外交感覚とでも言うべき感覚が鋭敏なのだった。 そのシグナムの言葉に、オリジンが答える。 ≪約束しよう。もとからそのつもりだったが、事前に知らせなかった俺にも落ち度はあった。許してくれ≫ オリジンの謙虚な態度にわずかに目を見張りながら、シグナムは気にするな、とだけ答えた。 「剣の騎士シグナム。主はやてに仕える守護騎士ヴォルケンリッターの四人の将だ」 「湖の騎士シャマルです。役どころは参謀ですね」 「鉄槌の騎士ヴィータだ。あたしは遊撃かな」 「盾の守護獣ザフィーラ。名の通り防御担当だ」 ヴォルケンリッターの自己紹介が終わり、これで全員の自己紹介が終わったと皆が思ってオリジンを見ていると、オリジンは、ほう、と驚いた声を出した。 ≪君たちがあの『夜天の魔道書』の子たちか。いや、実際に会うことになるとは露にも思わなかった≫ はやてたちはオリジンのその発言に思わず目を見張る。 「夜天の書を……知ってるんですか?」 ≪ああ。一度だけ会ったことがある。……その子たちに会うことは無かったがな≫ どういうことだろう、となのはたちは怪訝に思った。オリジンは長い間封印されていたはずである。外の情報などを知る術はないはずなのに、封印後に設立されたはずの時空管理局やアースラ、それに夜天の魔道書のことまで知っている。これは、明らかにおかしかった。 ≪……ああ、すまない。話が逸れてしまったな≫ 怪訝に思うなのはたちを横目に、オリジンは仕切りなおすようにそう口にした。 なのはたちも一度疑問に蓋をして、改めてオリジンに向き直る。それを確認してオリジンは再度言葉を発する。 ≪―――先んじての自己紹介、感謝する。俺はオリジン。今はロストロギアと呼ばれる古代の遺産だ。俺の存在は、インテリジェントデバイス……だったか? それと似たようなものだな。俺も主に仕え、その力となり片腕となるために作られた存在だ≫ |
| ―――To Be Continued |