魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 「……なのは、大丈夫?」 フェイトの心配そうな声に反応して、はやても心配げになのはの顔を覗き込む。 二人に挟まれる形で歩いているなのはは、みんなを安心させるようににこっと笑って、 「うん、大丈夫だよ」 と答えた。 そう言われてしまえば、フェイトやはやてには何も言えない。たとえなのはの笑顔が無理をしたものであるとわかっても、何も出来ない。どんなに彼女たちが気を揉んだところで、結局は当人たちの問題なのだから。 それでも、フェイトとはやては何があってもなのはのために行動することを心に決めていた。昨日アリサたちとの別れ際に、なのはに聞こえないように交わされた会話が、その想いを強くする。 『フェイト、なのはのこと守ってあげてね。あの娘、ちょっと考えすぎるかと思ったら、急に無茶なことをしちゃうこともあるから。……だから、フェイトがしっかり守ってあげて』 アリサのその言葉に、フェイトは力強く頷いた。 『はやてちゃん。はやてちゃんも、なのはちゃんを支えてあげてね。もしなのはちゃんが傷ついたりした時は、なのはちゃんを包んであげて。はやてちゃんの優しさは、きっとみんなの救いになるから……』 すずかの言葉に、はやては頷いた。 アリサもすずかも、最後には必ず「私たちはその場でなのはを助けることは出来ないから」と悲しげに、そして寂しげにそう言うのだ。 そのことがフェイトとはやてには重い意味を持って受け止められた。だからこそ、二人はアリサとすずかの想いの分もなのはを支えたいと強く思っているのだ。 なのはも、アリサもすずかも、二人にとって大事な友達だから。 しかし、なのは自身に大丈夫だと釘を刺されては二人には打つ手はなかった。アルフたちもなのはの様子には気付いていたが、そのことを聞くことは躊躇われていた。 なぜなら主であるフェイトやはやてが話さないから。そして、恐らくデリケートな問題なのだろうと慮り、気軽に聞けなかったからである。 それでもやはり心配なものは心配で、フェイトとはやてだけではなくアルフやシグナムたちもなのはのことを気にかけていた。 しかし、その中で唯一なのはに対して気兼ねなく話し掛けることのできる少女がいた。なのはの友達というよりかはライバル。そして大人ではなく子供ながらの素直な心からくる心遣いをもって。 ヴィータがなのはに話しかけた。 「……なぁ、なのは」 「え? なに、ヴィータちゃん」 なのはは六年前には同じぐらいの背だったヴィータを、自然見下ろして話す。背だけを見ればなのははヴィータと頭ふたつは違っていた。 そしてヴィータは彼女なりの考えをもってなのはに問う。 「なんかあったのか? 元気ねーけど」 「え……」 ヴィータのその言葉に、なのははわずかに動揺したように言葉に詰まる。 「!」 〈ヴィータ、あかんて!〉 フェイトが顔をこわばらせ、はやては念話でヴィータを制止する。 対してヴィータははやての言葉の真意をちゃんとわかっている。しかし、ヴィータは己が主に疑問をもってこう返す。 〈はやて……なんで?〉 〈そ、それは……〉 ヴィータの問いにはやてが答えあぐねていると、その間になのはが口を開いた。 「うん……まぁ、ちょっとね」 ちょっと困ったような顔で苦笑してなのはは答える。 ヴィータもはやての制止の理由はわかっている。恐らくなにかなのはにとってつらいことがあり、それについて言及してほしくないのだろうということは、ヴィータにも量り知ることができた。 それでも、ヴィータはどうしてもなのはに話し掛けずにはいられなかった。 シグナムにとっての好敵手がフェイトであるように、ヴィータにとっての好敵手とはなのはである。和解してからも模擬戦闘として何度も手合わせし、なのはと接してきた。ヴィータにとってなのはとは「強敵」と書いて「とも」と読む……それに近い関係なのだった。 その自分と渡り合うライバルであるなのはが元気のない、情けない顔を見せている。そのことがヴィータはどうしても気に入らないのだった。 それはヴィータの外見に似合った子供っぽい、自分の優しさを認めることに対しての反抗的な感情だった。 気に入らないのではなく、気になって仕方がないから苛々する。結局のところ、ヴィータはなのはのことを心配しているだけなのだった。 ただ、みんなのように気遣いから見守るのではなく。気になってしまうから踏み込んで、みんなの気持ちを教えてやろうと思っただけ。 「あんま元気ない姿を見せんなよ。みんな心配しちまうだろうが」 ヴィータの言葉に、なのはは周囲を見回す。 そこには、心配そうに自分を見つめるみんなの姿があった。フェイトも、はやても、アルフも、シグナムも、シャマルも、ザフィーラも。皆が心配しているのに、どうしたらいいのかわからない、といった面持ちでいた。 なのははその顔をさせているのが自分だと思うと、申し訳なくなった。それでぐっと下を向いてしまう。 そこに、再びヴィータの声が投げかかられた。 「みんな、力になりたくてもなれないんだよ。心配してるのに、お前があんなこと言うから」 言われて、なのははハッとした。何かをしてあげたいのに何もできない、という思いでいるみんなの悔しそうな顔を。そして、その原因を。 なのはが言った「大丈夫だよ」という言葉。冷静に考えてみれば、馬鹿なことを言ったと思う。 大丈夫じゃない様子の人が大丈夫と言ったって、安心なんてできるわけがない。むしろなのはが同じ立場だったら、力を貸すことを拒絶されたように思わないだろうか。力を貸したくても貸せない悔しさを感じなかっただろうか。 それは心配してくれる人に対する、冒涜にも等しい行為であるようになのはには思えた。 心配してくれているのに、その人たちの力を信じていないから、力を貸してもらわない、と。自分にその気がなくても、そう思えた。 そう思うと、なのははこれまでにない罪悪感にも似た想いを感じずにはいられなかった。こんなに自分のことを考えてくれる仲間に、自分が少しも応えていないことを自覚して。 なのはは軽く目を閉じて、そしてゆっくりと顔を伏せる。それはまるで謝るかのような仕草だった。 しかし、なのははわかっている。自分がすべきことは、謝ることではないと。謝ることも大事だが、それよりももっとしなければならないことがあると。 だからなのはは、顔をあげた。自分が顔を下に向けている場合ではない。心配してもらっているなら、ちゃんとそれに対しての礼儀があると示すために。 「―――ごめんね、みんな。心配してくれてありがとう」 なのはの言葉にフェイトとはやては気にしなくていい、と首を横に振った。そんな二人に、なのはは微笑む。 「ちょっと、色々あって今は元気ないかもしれないけど……でも、みんなにこんなに心配してもらってるんだもん。ちゃんとしなきゃね」 「おい、あたしが言いたいのは―――」 「うん、わかってるよヴィータちゃん。……だから、ちゃんとできるまで、みんなに助けてもらうこともあると思うけど……そのときは、よろしくお願いします」 なのははみんなに向かって頭を下げた。しっかり自分の気持ちが伝わるように、と願って。 心配してくれることがどれだけ嬉しくて、でもどれだけ申し訳ないか。それでも助けてくれると思ってくれているみんなのことを、どれだけありがたく思っているか。 しっかりと、伝わるように。 ふっと、はやてが笑った。 「もぉええんよ、なのはちゃん」 はやての言葉が頭を下げたなのはにかけられ、なのははゆっくりと顔をあげた。 「私らは例えなのはちゃんが嫌がったって助ける気なんやから、そんなお願いせんでもえんやで」 はやては微笑む。それに続くようにフェイトも柔らかい声でなのはに話し掛ける。 「なのはのことは、みんな大切に思ってる。だから、なのはを助けるのにそんなお願いはいらないよ。……私たちが、なのはを助けたいんだ」 「そうそう。なのはは自分のことを気にしてればいいの。サポートはアタシらがちゃんとやるって!」 「皆、心配している。しかし友を気遣い、助けるのは当たり前のことだ。気にしなくていい」 「私たちは、私たちの大事な友達を助けたいと思ってるだけなんですから」 「仲間は、助け合うものだ。だから、礼も頼みもいらん」 アルフ、シグナム、シャマルにザフィーラ。みんなの言葉に、なのはは胸が熱くなった。こんな風に自分のことを想ってくれる仲間がいる。自分のことを助けたいと言ってくれる友達がいる。 そのあまりの嬉しさと幸福感に、なのはは胸が詰まって言葉が出なかった。 言いたいことは山ほどあった。けれど、言いたいこと全部を言うほどにはなのはに余裕はなかった。ともすれば涙が出そうなほどに、みんなの想いが嬉しかったから。それを押しとどめることでなのはは精一杯だった。 だから、口に出せた言葉は一つだけ。それでも、心の中の万感の想いをその言葉に込めて。少しでも、その想いがみんなに伝わるように願って。 「―――ありがとう……」 その想いの全てを、言の葉にのせた。 その言葉に、みんなは嬉しそうに微笑む。 その笑顔を見て、なのはは思った。きっと、抱え込んだ悩みや不安はみんなで分け合えるものなんだ、と。アリサやすずか、フェイトにはやて、そしてアルフに守護騎士のみんな。みんなが傍で支えていてくれるから、つらい気持ちも優しく包まれて、不安を薄めてくれるんだろう、と。 今度こそしっかりと顔を上げ、なのはは微笑む。そこに、さっきまでの憂いの表情は微塵もなかった。 「心配してくれてありがとう、ヴィータちゃん」 みんなの気持ちに気付くきっかけをくれた少女に、なのはは笑顔で感謝の言葉を述べる。 「なッ―――!」 しかし当事者たる少女はなのはの言葉に顔を真っ赤に染めた。 「か、勘違いすんなよ! お前を心配したんじゃなくて、その……はやてのことが心配だったからだからな!」 「にゃはは。うん、ありがとうね」 「う、だ、だから―――」 真っ赤になって反論するヴィータと、それでも感謝の言葉を取り消そうとはしないなのはを微笑ましく見つめている一同。 転送装置は、もうすぐそこに見えていた―――。 |
| ―――To Be Continued |