魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 現在、アースラは時空間を航行中である。 オリジンの現在位置は、封印宝蔵でそれが放った魔力をもとにした分析により、すでに判明している。あの透明な魔力も、銀色の魔力も、ある時空に存在している。つまり、同じ場所にいるのである。魔力とは指紋のようなもの。残留魔力をもとにその持ち主の位置を把握することは、基本的な初動調査のひとつである。 が、さすがにそんな調査で居場所が判明するだろうとは誰も思っていなかっただけに、その調査結果の是非には賛否両論あった。信じるべきか、疑うべきか。なにしろモノがモノだけに罠の可能性も十分にあるのである。 そもそも盗んだ痕跡すら残されたまま、ということが既に異常だった。盗人としては落第どころか素人以下である。誰であろうと、特別な状況下でない限りは盗みに入った跡は極力消そうとする。そのほうが見つかりにくくなるし、なにより時間稼ぎになる。 それなのに、それをしないと思ったら、こうして見つけてくれと言わんばかりに現在位置が割り出せている。正直、信じられる部分なんてひとつもないのであった。 しかし、可能性は可能性。1%であろうとゼロではない。 ということで、こうしてアースラが先行調査として出向くこととなったのである。もっとも、既に現地での戦闘許可も下りているので、事実上の先鋒隊だが。 しかし、アースラとしては―――いや、時空管理局としても出来ることならば戦闘行為にまで及ぶことは避けたかった。いま向かっている場所は、戦闘を行なう際にひどく気を遣わなければならない、デリケートな場所だからである。 時空間を抜け、モニターに黒い空と煌めく星々が映し出される。そしてその暗闇の中、目の前にはひとつの大きな星があり、その星こそが今回の目的地。 なのははぎゅっと愛杖、レイジングハートを握り締める。目の前の、雄大な惑星を見つめて。 そこにあるのは青い青い星。魔法とは無縁の世界、太陽系第三惑星―――地球である。 「―――しかし、魔法の存在を認知していない世界への干渉は、六年ぶりだぞ」 クロノは艦長席から目の前に広がる青い惑星を見つつ、ため息をついた。 「ってことは、夜天の書の事件から一度もなかったの?」 なのはは今エイミィの隣にいる。自然見上げる形でなのははクロノに問いかけた。 「ああ。ついでにいえば、六年前の前は二十三年前にまた別の時空でだった。だから驚いてるんだ。同じ時空で、しかも六年程度でまた事件が起こっているんだから」 やれやれ、と軽く肩をすくめるジェスチャーをする。 なのはは今度はフェイトたちに問いかける。 「フェイトちゃんたちも今までそういった事件はなかったの?」 「うん」 「私らもなかったよ」 フェイトたちの答えを聞いて、今回のような事態が本当に稀有なことなんだとなのはは改めて思い知らされた気分だった。 ちなみに、いまなのはがフェイトたちに確認を取ったのには理由がある。なのははアースラのスタッフの中では一番の新参者だからである。 教導官という特別な資格を持つなのはは、フェイトが捜査官試験に受かってアースラに配属された頃、まだ教導隊に所属している研修生だったのだ。それからしばらくしてなのはは教導官の資格を取り、すぐあとにフェイトは執務官試験に合格した。そしてなのはは教導官として本局に勤務することが多くなったが、フェイトはすぐにアースラに配属されている。 はやての場合は少し特殊で、はやては捜査官といっても正式には特別捜査官である。本当の上司はクロノ提督ではなくレティ提督。 しかし、ここのところはロストロギア関連の事件はアースラが初動調査も兼ねることがあるので、レアスキルを持つはやては現在アースラの暫定スタッフとしてアースラに乗船しているのである。だから、はやてはなのはについでの新人となるが、それでもなのはよりは数ヶ月先にアースラにいるのだから、なのはよりアースラの事情に詳しいことに違いはない。 教導官であるなのはは自分が研修中だった頃のアースラの任務の内容を詳しく知らない。もっともフェイトたちから話を聞くことはあったが、当然ながら情報の量は大したものではなかった。現在では余裕も出てきて捜査官も兼任し、こうしてアースラの任務にも参加できるようになってきているが、長い間アースラに関わることはなかったのである。 ゆえに、今のように自分がいなかった時にそんな事件がなかったか、という確認を取ることがあるわけである。 「それにしても、グレアム氏、なのは、はやて……か。こうもこの世界で高い魔力値の人間が相次いで発見されると、管理局としては早くこの世界も魔法を認知して欲しいと思うよ」 「にゃはは……まだまだ私たちの世界では魔法はファンタジーですからねー」 なのはは苦笑してクロノの言葉に答える。 「わかってる。ちょっと言ってみただけさ」 クロノはかすかに笑って、腕を頭の後ろで組んで上を見上げた。と、エイミィがモニターをひとつ開き、クロノも再びもとの姿勢に戻る。 「クロノくん、目標の位置特定完了。転送座標も確認済み。もういつでもOK!……なんだけど……」 「なにか問題があるのか?」 尻すぼみになっていくエイミィの言葉に、クロノが疑問を抱いて聞いてみる。 それにエイミィはうーんと唸って、 「それがさー、向こうが全然微動だにしないんだよねー。まるでこっちが来るのを待ってるみたいに」 と納得いかない様子でモニターの調査結果画面を見つめる。 クロノも手元にモニターを開いて確認するが、確かにアースラがこの時空に現れた辺りから少しも動いていない。もちろん座標の数字を見ると、ということだが不審には違いなかった。 一度クロノは考え込むように艦長席に背中を埋め、しばらくして再び重心を前に移した。 「エイミィ、無限書庫につないでくれ」 「はーいっと」 いつも通りにクロノが指示を出し、エイミィがそれに応える。見慣れた光景だからこそ、誰もいちいちそれを確認したりはしない。 だから、無限書庫と聞いた時になのはの身体がびくりと震えたことは、なのはを心配げに見ているフェイトとはやてしか気付かなかった。 『クロノ?』 「ユーノ。そっちはどうだ。なにかわかったか?」 ちらりとユーノはなのはに視線を移す。しかし、なのははその視線から逃れるように目を逸らした。 その姿を、ユーノは当たり前だと納得した。が、やはりなのはが目を合わせてくれないということには想像以上の衝撃を感じた。 「ユーノ、聞いているのか」 『―――……え、あ、ああ。……やっぱり情報のなさが半端じゃないよ。オリジン自体ミッドチルダが長い間秘匿扱いにしていたから、近代どころか古代の資料だって少ないんだ』 検索魔法を使いながら、クロノの質問に答える。 「そうか……」 予想通りであったが、やはり情報の量はひどく少ないようだ。まぁ、それでもあの日記のおかげでだいぶオリジン自体のことはわかっているのだが。 『だけどひとつ判ったこともあるんだ』 ふっと、ユーノの手元に一冊の本が引き寄せられる。 『これはこの無限書庫の中でもかなり古い時代の研究文献なんだけど、この中にひとつ気になる記述あったんだ』 読むよ、と断ってユーノはその分厚い装丁の本のページを開く。 『―――デバイスはそれぞれ主に従い、その行動と日常、研究をサポートすることを主にしている。……だが、彼女の造ったあの銀のデバイスは異常だ。主に口答えをする点でさえ無いとは言わないものの珍しいというのに、アレは独立して指示なしで行動も出来る。命令で縛れるとはいえ、彼女は一体何を考えているのか―――』 そこまで読んでユーノは本を閉じた。そしてモニターの前で目を見張っているクロノに向き直る。 『……年代的に詳しいことはわからないけど、この銀のデバイスがオリジンである可能性が高いみたいだ。それで、この書面通りだとすると、オリジンは独立行動をすることもできるらしい。しかも、主の指示なしで。―――でも、それならひとつ可能性ができるだろ?』 「……まさか誰かが持ち去ったのではなく、オリジンが単独で行動している、というのか?」 驚くクロノの言葉にユーノは頷く。 『そのまさかだよ。もちろん可能性のひとつだけど。その、彼女っていうオリジンの主ももう生きていないだろうし。……でもそう考えれば色々説明がつくこともある。例えば―――』 「紛失時の痕跡か」 確かにデバイス単体で行なったことなら、事後処理をしようにも細かいことはできない。大まかな対処なら魔法で何とかなるだろうが、それでも限界はある。必ず人の手でなければ処理できない事柄も出てくることになる。 ユーノは頷く。 「……しかし、それではもうひとつの魔力の持ち主が存在する理由がなくなってしまうぞ」 クロノがそう指摘すると、ユーノは言葉に詰まってしまう。 『そ、それは……あ、あくまで可能性の話だから』 クロノは頬杖をついて、ユーノを眺めている。ユーノは妙に恥ずかしくなって、誤魔化すようにごほん、とひとつ咳をした。 『……まぁ、でもそれぐらいかな。あとは、彼はとても高性能な上にしかも独立行動が出来るということを念頭に置いて、気をつけてくれ、としか言えないけど……』 ぴく、とクロノの眉がわずかに揺れる。いまのユーノの言い方で気になるところがあった。 「待て、ユーノ。彼とは誰のことだ」 『ああ、オリジンのことだよ。どうやらデバイス内の性質から判断すると男性に近い性格をしているらしい』 日記に書いてあっただろ、と言ってユーノは書庫に戻されたばかりの日記を手元に持ってきてそのページを広げて見せる。 そこには確かに「……口調はまるで男のようで、彼はこうも言った……」という記述があった。 クロノはため息をつく。 「……こっちのデバイスは、性別なんてないんだがな」 『はは……まぁ、古代遺産なんだし。僕たちが理解できないこともあるよ』 違いない、とクロノは笑った。 「ああ、ありがとうユーノ。また何か判ったら連絡してくれ」 『ああ。その……いや、クロノたちも、気をつけて』 「それはもちろんだが……」 『そ、それじゃあ!』 プツン、と通信が切れる。あとには何か言いかけたままやめてしまったユーノの態度を怪訝に思うクロノがいるだけだった。 「……まぁいい。ユーノの話は聞いたな。なのは、フェイト、アルフ、はやて、ヴォルケン、行ってくれるか」 「う、うん」 「はい」 「おう」 「了解や」 「了解した」 「つーか、略して言うなよ」 最後はヴィータの言である。 八人はブリッジを出て転送装置に向かう。が、なのははぼうっとしたようにその場に留まったままである。 クロノはそれを不審に思った。それはいつも明るい彼女からは程遠い姿だと思えたからである。クロノはエイミィと顔を見合わせるが、エイミィも首を横に振るだけである。 とりあえず、本人に聞いてみるかと思い直してクロノはなのはに声をかけることにした。 「なの―――」 「なのは!」 しかし声が出掛かったところでフェイトがやって来て、クロノの声はかき消された。 「なのはちゃん、ほら行こ?」 フェイトに続いてはやてもやって来て、なのはの背中を押すようにブリッジから出て行く。 その光景をずっと見つめていたクロノとエイミィが再び顔を見合わせる。 「……なにかあったのか?」 「さあ……」 二人はただブリッジから廊下へと通じる扉を見つめ続けた。 |
| ―――To Be Continued |