魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - あのあと、私はそのまますずかちゃんの家に向かった。いまはすずかちゃんの家の近くを歩いているところ。 ユーノくんの言葉に、私はなにを感じたのか。失望だったのか、驚きだったのか、悲しみだったのか。それはわからないけど。 でも、私は、ユーノくんの言葉にこう返していた。 「……そう、なんだ」 それから、なにも話すことなく私はその場をあとにした。だって、なにも話すことがなかったし、たぶん……話せなかったから。 言って欲しい言葉は、きっともらえないんだと思ったから。 そう思ったら、胸が締め付けられるように痛んで、その場にいられなかった。ユーノくんを見ていることが辛くて、痛くて、出来なかった。 振り返りもしなかった私のことを、ユーノくんはどう思ったんだろう。嫌われた、だろうか。 ふるふると首を振って、その考えを打ち消す。 嫌われる、だなんてバカなこと。ユーノくんがそんな人じゃないことはわかっているはずなのに。 そう。わかっている、はずなのに。 「……でも、つらいよ」 欲しい言葉は、もらえなかったのだから。 * 「なのは……なにかあったの?」 すずかちゃんの家に着いて、呼び鈴を鳴らすとアリサちゃんが出てきた。出てきて私の顔を見た途端にそんなことを言われたものだから、私も驚いてしまう。 「え? な、なんで?」 「だって、なのはの顔……」 「顔?」 ぺたぺたと自分の顔を撫でてみる。別段、変わったところはないと思う。 「ああもう、そうじゃなくて! 元気がないっていうか、落ち込んでるからどうしたのかってこと!」 なぜか怒り出したアリサちゃんの言葉にどきっとしながらも、私は精一杯笑顔を浮かべる。 「そ、そんな落ち込んでなんかないよ〜。ぜんぜん、何でもないって」 そんな私に、アリサちゃんはひとつため息をついて後ろ頭をかく。 なんだか「あ〜、これだからなのはは……」と言われている気がして、苦笑いしか浮かばない。 「はぁ……とにかく、話聞かせてよ。そんなんじゃ心配だわ」 アリサちゃんにがっしりと手を握られ、私はなすがままにすずかちゃんの家の中に連れて行かれた。 「なのは…?」 「なのはちゃん」 「なのはちゃん、どないしたの一体?」 アリサちゃんと一緒に入ってきた私を見て、楽しそうにお話していた三人の顔が一瞬で心配そうに変わる。 それが私にとっては何よりも堪えて、申し訳なかった。 「に、にゃはは……。みんな、遅れてゴメンね」 私はさっきと同じように精一杯の笑顔を浮かべる。心配させたくなかったから。みんなの反応で、自分どれだけわかりやすい顔をしているかもよくわかったから。 「……アリサ、なにがあったの?」 「あたしもわからないわ。ここに来たときにはもう、こんな風だったから……」 こんな風だなんて、アリサちゃんもひどいと思う。 「もしかして、ユーノくんと何かあったんか?」 びくっと、無意識に身体が反応してしまった。これじゃあバレバレだなぁとすぐに思った。ちらりと見ると、案の定みんななにか悟った顔をしている。 「なのはちゃん……話して、くれる?」 すずかちゃんが、遠慮がちにそう聞いてくる。 すずかちゃんは、いつも私たちを一歩引いて見守っていてくれる優しい娘。私たちが行き過ぎないよう、間違えないよう、悩みすぎないよう、後ろから私たちを見てくれている娘。今もこうして、聞いていいことなのか、そうでないのか。そしてそれが私にとって良いことなのかを真剣に考えて、少しでも相手のためになろうとしてくれている。 だから、だろうか。 すずかちゃんの優しさを感じた瞬間、私は不意に泣きたくなった。今の気持ちを感情に任せて吐露して、泣いてしまいたかった。 けど、そうしてはいけないとも思った。だって、泣いてしまえば、そこで認めたことになると思えたから。 私の想いが、もうユーノくんに繋がることはないと。 なんの根拠もなく、なんの裏づけもなく、そう思えてしまったから。 だから、泣くことは出来なかった。そのかわり、それを抑えるように私は目を閉じて下を向いた。そうすれば、涙がこぼれることはないと言わんばかりに。 それから数分してからだろうか。私の両頬を包み込むように誰かの手が当てられた。 目を開けると、そこには困った顔で微笑むフェイトちゃんの姿があった。 「―――なのは」 フェイトちゃんが、落ち着いた声で話しかけてきてくれる。 「話して……くれる?」 私は、こくりと頷き 「うん……」 と、呟いた。 それから私がさっきあったことを、公園の一件も含めてみんなに話し始めると、みんな黙って真剣に聞いてくれた。自分の気持ちとかを話すのはかなり恥ずかしかったけれど、それでもみんな茶化すこともなく。 しかし話がアースラでのついさっきの話になり、そして話し終わると、それまで黙って聞いてくれていたアリサちゃんが立ち上がって怒鳴った。 「あんのバカ―――ッ!! 意気地なしにもほどがあるわッ!!」 「あ、アリサちゃんっ……」 テーブルに片足を立てて拳を握りこんでいるアリサちゃんを、すずかちゃんがなだめに入る。 そんないつもの光景に、思わず頬が緩んだ。 「……でも、アリサちゃんが言うことも一理あるで」 「うん。ユーノのとった行動は、いただけないね」 はやてちゃんも、比較的おとなしい子のフェイトちゃんも明らかに怒っている口調でユーノくんを責める態勢である。 「に、にゃはは……みんな、落ち着いてよ。ね?」 こうまで極端な反応があると、逆に私のほうが落ち着いてきてしまう。 しかし、そんな私にアリサちゃんが反論する。 「なに言ってるのよ! これが落ち着いていられるもんですかッ!」 握りこんだ拳を顔の前に持ってくると、拳がふるふると震えているのがわかる。今にも「鉄拳制裁!」とか言い出しそうなぐらいに怒ってくれるほど自分のことを大事に思ってくれていることは嬉しかったが、それとこれとは別である。 アリサちゃんに限らずみんなが怒っている相手は、まがりなりにも、私―――高町なのはが好きな人なのだから。 「ま、まぁまぁ。ユーノくんだけに責任があるわけじゃないよ。……きっと、私にもあるんだと思うし……」 言葉を伝えられない、原因は。 そんな私の態度に何か感じるものがあったのか、アリサちゃんははぁ、とため息をついてソファにどかっと座った。 「……惚れた弱みかぁ」 そんな呟きが聞こえたけど、恥ずかしいので聞かなかったことにした。 「……でも、私がユーノくんを好きだってことには、みんな驚かないんだね」 私は本当に不思議に思ってそう言った。……のだが、私の言葉にみんなは鳩が豆鉄砲をくらったようにキョトンとして。次の瞬間には、苦笑していた。 「それは、もちろん」 「バレバレやったしねー」 「うん、確かに……」 「見ていられなかったわよ」 四人の目が、まさか今更そんなことを聞かれるとは、と語っていた。 火がつくように顔が熱くなる。いまの自分の顔が真っ赤になっていることがわかって、私はみんなから顔を逸らした。 そんな私の姿を見て、みんながこらえきれないといったように声をあげて笑う。正直ちょっとむっときたが、いまなにか言っても無駄なように思えて、私は黙って笑われることにした。恥ずかしさで死ねるかもしれない、と思うほどの恥ずかしさだった。 それからしばらく笑われたあと、不意にアリサちゃんが真面目な顔になった。 「……でもね、なのは。今回のことは、たぶんユーノが悪いとあたしは思う」 その顔は本当に真剣で、私はさっきのように口を挟めなかった。 「なのはは、その公園で告白しようとしたんでしょ? 自分の気持ちをユーノにさ。結局うまくいかなかったけど、そうなんでしょ?」 少し迷ってから、私は頷いた。 私は、確かに伝えようとした。自分の気持ちを。きっと、誰よりもユーノを特別に想っていることを。それを伝えることを告白と言うのなら、きっとあれはそうだった。 その私の答えに、アリサちゃんは頷いて続ける。 「それで、さっきユーノはなのはのことを待ってて、ユーノが言おうとしたんでしょ? だったら、ユーノがしっかり言うのが筋ってもんよ。なのははきちんと伝えようとしていて、ユーノはなのはが言おうとしていたことを、最終的には横から取ったことになるんだから」 「………………」 アリサちゃんの言いたいことはなんとなくだが、わかる。 つまり、私が言おうとしていたということの上に重ねるようにして、ユーノくんがあとから言おうとした。だから、ユーノくんは責任を持って言う義務がある、ということだろう。 ちょっと無理矢理な気もするけど、否定できないのも事実だった。 「まぁ、なのはに悪いところがあるとすれば、そのときにちゃんと伝えなかったことね。……それでも、いつかは同じ問題に当たった気はするけど」 「同じ問題って……?」 「だから、ユーノがなのはに自分の気持ちを伝えるってことよ。結局ユーノに勇気がなかったってことは、そこまでの決心ができてないってことでしょ? だから、きっといつかその問題が現われてたわ。それが、いまになっただけで」 アリサちゃんの言うことは、正解のような気がした。 確かにあのまま……もし付き合い始めていたとしたら、きっとアリサちゃんの言うように遅かれ早かれ気持ちがずれていったかもしれない。 私がユーノくんのことを好きで、たとえユーノくんも私を好きだとしても。想いは言葉にしないと、相手に伝わらないから。 よく言葉にしなくても通じ合えるというけど、私はそのことは最初に言葉で伝え合った人たちだけに適用されることだと思っている。だから、言葉は必要なのだ。それがなければ、人はわかりあうことは出来ないんだから。 だから、答えを述べるような気持ちで私は言う。 「……言葉を伝えるってことは、すごく大切なことなんだね」 その私の言葉に皆がうなずき、そしてゆっくりとフェイトちゃんが私に近づいて、そっと床に置かれた私の手を握った。 「……なのは。私は、それがどんなに人を救うか、知ってる。だから、なのは。伝えたい想いは言葉にしないといけない。それは、ユーノにも言えることだけど……」 フェイトちゃんの言葉の重みは、きっと誰よりも私がよくわかっている。あのとき、「友達になろう」と伝えたのは、ほかならぬ私だったのだから。 「うん。ありがとうフェイトちゃん」 「うん」 微笑む。さっきみたいに無理をした笑顔じゃなくて、心からの笑顔で。そして、その笑顔に、フェイトちゃんが微笑んで応えてくれることが嬉しかった。 「なのはちゃん、頑張ってね。なにがあっても、私たちはなのはちゃんの味方だから」 「うん。なのはちゃん、ユーノくんがあんま情けなかったら、引いてみるのも手やで」 「に、にゃはは……、うん」 すずかの言葉に素直に頷き、はやての言葉には苦笑を浮かべる。それでも、二人の自分を思っての言葉は、心にしみた。 「頑張ってね、なのは。キツイこと言っちゃったかもしれないけど、あたしだって応援してるんだからね」 「うん。ありがとう、アリサちゃん」 アリサちゃんが言う言葉は、相手のことを思っているからこその言葉だとちゃんとわかっている。思っているからこそ、一生懸命で、ちょっとキツイともとれるような言い方になってしまうのだ。しかし、それはアリサちゃんなりの優しさの裏返しである。 こんなにいい友達を持って、幸せだと思う。こんなに自分のことを想ってくれている。こんなに自分たちのことを案じてくれている。つらくなくなったわけではないけれど、それでも前に進むための強さをくれた。それは紛れもなく私の友達のおかげだった。 大丈夫、と思えた。なぜだかはわからないけど、自分は大丈夫だと。みんなの優しさに触れたからだろうか。きっとそうだと思うと私は胸が温かくなるのを感じた。 ぎゅっと両手を胸の前で握り、私はその温かさに心の底から感謝した。 ― その後 ― 「……でも、アリサのお話にはちょっと驚いた」 「うん……アリサちゃん、しっかりした考えを持ってたから。その……れ、恋愛に対して」 「せやなぁ。ひょっとして、アリサちゃんも誰かに恋しとるとか?」 「ッな……! そ、そんなわけないでしょッ!!」 「……に、にゃはは」 |
| ―――To Be Continued |