魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story -



「クロノ! 何があったの?」
「なんや物凄い切迫した声やったけど……」

 アースラの会議室にフェイトとアルフ、はやてとヴォルケンリッターが飛び込むようにやって来る。そこには既に、クロノ、エイミィ、なのは、ユーノ、アースラのスタッフといった面々が揃っていた。
 クロノが上座に座り、そのひとつ手前にエイミィが座っている。あとはなのはたちが着席していて、フェイトたちも急いで席に着いた。

「一体どうしたんだい、クロノ」
 アルフが皆を代表するように質問する。
 それに対してクロノは仰々しく頷く。

「皆揃ったようだ。さっそく今回呼び出してまで来てもらった理由を伝える」

 クロノがそう言うと、エイミィが手元のコンソールを操作する。と、空中にひとつの機械のようなものの画像が浮かび上がった。


 銀一色で彩られた、こぶしよりも一回り大きいぐらいのサイズ。形状は例えるならアンモナイトの化石に近い。その巻貝のような渦の中心には美しい緑の宝玉が据えられている。


「これ……デバイス?」

「そうだ。これは現在“封印宝蔵”と呼ばれる局内のロストロギア保管庫に保存されているはずのロストロギア―――名を『オリジン』というものだ」
 なのはの問いにクロノが答える。クロノは更に続ける。


「そして、現在確認されている中で最も古いデバイスであり、インテリジェントデバイスを含めて現存する全てのデバイスの親とも言えるものだ」


「え!?」
「デバイスって、もとはロストロギアやったんか!?」
 フェイトとはやてが声を上げて驚く。しかし驚いているのは二人だけではなく、その場にいる全員だった。

 その時ふとはやてはあることを思いついて、シグナムたちに向き直った。

「……なぁ、シグナムらは私らよりかは昔も知ってるやろ? みんなは聞いたことないん?」
「少なくとも、私は聞いたことがありません」
「私もです。ベルカもミッドチルダと同じで、デバイスは人が作るものでしたし……」
「あたしもだ。そんな話は聞いたこともねー」
「俺も、まったく聞いたことがない」

 ヴォルケンリッターの解答は予想通りではあったのか、はやてはそれ以上聞くことはなかった。しかし、シグナムはひとつ腑に落ちない点に気付いた。

「クロノ艦長、質問をお許し願えるか」
「ああ。なんだ?」
「感謝する。……ひとつ気になることがあった。古くより存在している我らが知らぬことを、なぜあなた方は知っているのだ? ロストロギアと共にあった我らよりその時代……またはそれ以前の時代に精通しているということは、客観的に考えて少し妙だ」

 シグナムの言葉にはっとして皆の視線がクロノに集まる。クロノはそれにも頷いて応えた。

「それについては追い追い説明する。いまはとりあえず『オリジン』の説明よりも先に現状を説明したい」

「……了解した。場を乱してすまなかった」

 シグナムが納得したのを確認すると、クロノはエイミィに顔を向けた。

「エイミィ」
「ほいほいっと」
 気の抜けるようなエイミィの声と共に、ひとつの映像が空中で再生された。

「これは今から三十分前の“封印宝蔵”の映像。これから事件が起こるから、よっく見ててね」

 エイミィの言葉に皆の注目がその映像に集まる。
 封印宝蔵の前に、衛兵とみられる局員が二人いる。その二人が武装局員であるのは、やはり流れ出ている魔力とやらへの対策も含めての対処だろう。

 映像が開始されてから一分。何も起こらない。なんだ、と皆が一瞬気を抜こうとした時。

「ここからだよ」

 エイミィの言葉が合図となって、封印宝蔵から視覚化できるほどの魔力が光の柱となって勢いよく空に伸びた―――が、その光の柱、視覚できることはできるのだが非常にわかりづらい。

 人にはそれぞれの魔力光の色というものがある。なのはは桜色、フェイトは金、はやては白、というような。この映像で見るその魔力光の色は……透明だった。かすかに起こっている電気反応で魔力が流れ出ているとわかる。それだけだった。

 衛兵が一人異状を知らせるために封印宝蔵を離れていく。残った一人は中に入ろうとアンロックの魔法を扉にかけようとして―――


「あ!?」


 なのはは思わず声を出した。

 目の前の映像に写されている封印宝蔵。その屋根の上に描かれた銀色の魔法陣。それが発生した次の瞬間。流れ出ていた魔力はウソのように消えていた。あとには、呆然とした様子の衛兵が立っているだけである。

 しばらくして先ほどの衛兵が呼んだのだろう、武装局員の一団が封印宝蔵に突入していく姿が流れた。そこで、映像は終わった。

 会議室を、沈黙が支配していた。


「―――……今のは、転送魔法?」

 その沈黙を破り、ユーノが口を開いた。自身も強力な結界魔導師である彼だからこそ、いまの魔法陣の性質についても即座にわかったのだろう。

「……そう言われれば、確かにそうだ。アタシたちの使う転送魔法によく似ていた」
「ええ。私も、そう思いました」
 アルフとシャマルがそれに続く。それに頷き、エイミィが説明する。

「管理局のほうでも転送魔法ってことで結論が出てる。どこに移動したのか、誰が転送したのか、それはまだわかってないんだけど……」

「それに、あの透明な魔力光も気になる。透明ということは、つまり色がないということだ。誰しもあるはずの魔力の色がない。透明であることがその主の色だとしても、それはあまり考えられないことだ。本来存在する色の中に、透明という色は存在しない」

 クロノが魔力光についての意見を述べる。それについて言及する者は誰もいなかった。漠然とした意見ではあったが、彼以上に誰も現状を理解していないのだから、その意見に自論を述べられる者は誰もいなかった。

「……それで、アースラはこれからどうするの?」

 フェイトがクロノに問う。クロノはまず現状を説明する、と言った。ということはつまり、これから自分たちがすることは既に決定済みということに他ならない。
 彼がとても優れた艦長であることをフェイトはよく知っていた。

「実は、あの封印宝蔵を調べた結果、さっき見せたロストロギア『オリジン』が紛失していることがわかった。そこで、今回の事件にそのオリジンの紛失が関わっていると上層部は判断した」

「実際オリジン紛失からこっち、封印宝蔵の様子は事件発生以前と変わらない状態に戻っているの。その点からもオリジンが関係している可能性は高いってわけ」

「で、だ。我々の今回の任務はオリジンの確保、及び持ち出した人間の特定。必要ならばその場でその人物を拘束することだ。そのための戦闘行為の許可も出されている」

 クロノは重々しくそう告げた。

「……それは、今から行くんですか?」

 なのはが遠慮がちに質問する。
 それにエイミィが苦笑で応える。

「さすがにこれからすぐってわけじゃないよ。まださっき言われたばかりで、アースラの準備も整ってないしね。でも、明日には行くことになると思う」

「そうですか……」
 それを聞いてほっと息をつく。どうやら家族やアリサたちに連絡する時間はありそうだった。

「ああ。とりあえず今日のところはみんな休んでもらおうと思う。乗員も、細かい調整は明日でも問題はないだろう」

 その言葉に張り詰めていた空気がわずかに緩む。実のところ、いきなり今からの強行軍なのかと思っていたのは、なのはだけではなかったのだ。


 しばらくそうして気を緩めていると、シグナムの凛とした声が室内に響いた。

「……それで、クロノ艦長。さきほどの件なのですが……」

 緩んでいた空気が再び張り詰めていく。

 ロストロギア『オリジン』についての詳細。また、情報の確実性の確認。いずれも任務をこなす上では必ず必要になる事柄である。

「……ああ。その前にひとつ、ヴォルケンリッターの皆に確認したいことがある。あのかつての闇の書―――夜天の書が完成したのは、ベルカで間違いないな?」
「……ああ、そうだけど」

「それはどれぐらい前のことだ? 管理局の記録では、管理局設立当初には既に確認がされているが……」

「やっぱり夜天の書って、結構前からあったんやなぁ」

 古代の遺産であることはわかっていたが、改めて聞くとやはりため息が漏れる。それほどの悠久の時の中を存在していたということが、夜天の書最後の主であるはやてにはことさら大きな意味を持って感じられた。

「はい、主はやて。夜天の書の原型は既にベルカが滅ぶ直前に完成しています。……もっとも、度重なる悪意ある主たちの手によって魔道書としての形態はだいぶ変質してしまいましたが……」

「―――うん、そうやね……」

 思わずはやては胸の前のペンダントに触れる。はやてのデバイス、リインフォース。夜天の書の意思であったリインフォースが消滅した際に、彼女が残した彼女の欠片。はやてはペンダントとして手元に残された欠片を、新しいデバイスの素体に選び、改めてリインフォースの名を与えたのだった。

 いまの話を聞いてかつてのリインフォースを思い出したのか、はやてはぎゅっと手で包み込むようにリインフォースを握った。

「しかし、それがどうしたというのだ?」

 盾の守護獣ザフィーラがクロノの言わんとするところがわからず、口を開く。他の皆も同様だった。ヴォルケンリッターだけでなく、その場の全員がクロノの質問の意味を掴みかねていた。

「……いや、守護騎士四人が知らない理由を確認しただけだ。ベルカ崩壊直前ならば、知らなくても無理はない、か」

 ひとつ頷き、クロノは再び顔を上げる。

「我々がオリジンがデバイスの親であると断言できるのにはもちろん理由がある。ベルカにもミッドチルダにもデバイスは昔から存在するが……最初にデバイスを製作したのは、ミッドチルダの技術者なんだ」

 皆が驚きに目を見張る中、クロノはこう続けた。



                            *



 かつて、まだベルカとミッドチルダがともに存在していた頃。その頃から既に、双方の魔法に対する意見の衝突があった。ミッドチルダは万能型を、ベルカは攻撃特化型を推進して。相容れない考えを持っていたのだから、当然のようにお互いは対立していた。

 ―――ミッドチルダがオリジンを発掘したのは、ちょうどそんなときだった。

 古代の遺産であるオリジンをすぐにミッドチルダは内密に研究し始めた。対立していたベルカを出し抜く意味が強かったのだろう、研究は莫大な援助の下で行なわれた。

 そうして研究を続けるうちに、突然オリジンが喋りだすという出来事が起こった。当時の研究者は驚き、生命体であるのかと疑いもした。しかし、その可能性はオリジン自らが否定し、オリジンは自らのことを主の端末―――デバイスであると言ったという。

 調べると、デバイスとはマスターの補助を主な目的とした魔力端末であるという。オリジンの話を参考に、研究者たちは早速デバイスの開発に取り組んだ。

 オリジンはまるで人間のように話す機械であったらしく、ただの道具に意思は必要なしと考えた当時の人々は、製作されていくデバイスにオリジンには存在した意思を付与させることはなかった。

 これが現在でいうストレージデバイスである。

 そのデバイスの完成にミッドチルダは沸いた。ベルカに勝る道具を手に入れたのだ、と。

 しかしベルカはミッドチルダに諜報員を忍ばせ、ミッドチルダの研究資料を盗んだ。そうして、ベルカもデバイスの開発に成功していった。

 ミッドチルダはオリジンの存在だけは徹底して研究資料のどこにも記載していなかったので、ベルカにそれが伝わることはなかった。しかし、知性をもつデバイスの考えはまとめてあったので、ヴォルケンリッターが持つデバイスたちはそれを元に作られたと思われる。

 そうしたことがあって、ミッドチルダはオリジンを封印した。ある程度の結果は得られていたのだ。そのまま放置しておいてベルカに奪われることを避ける処置だった。

 そうしてしばらくすると、ベルカが意思のあるデバイスを製作した。ベルカとの戦闘によってその有利性を理解したミッドチルダは、ベルカに習ってインテリジェントデバイスの製作を行なった。

 こうして、両世界間で二種のデバイスが誕生した。

 その後ベルカの文明は後退し、ミッドチルダは栄えていった。デバイスの知識はミッドチルダを中心に貿易を通して世界間に広がり、現在のように魔導師はデバイスを持つということが定着していった。

 しばらくすると時空管理局が設立され、オリジンを始めとする古代遺産は管理局に移された。

 それからもデバイスの需要は増し、ストレージ、インテリジェント共に現在全ての魔導師がそれらまたはそのどちらかを持つまでに至っている。



                            *



「ミッドチルダの後世にオリジンの話が伝わっているのは、当時の研究者が残した日記があったからだ。それによって、時空管理局設立当初からミッドチルダに存在していたロストロギアがどういったものであるのか、知ることができた」

「日記はまだもう少し続いてるんだけど、当然それ以外の日常のこととかも書いてあるから、要所要所だけをまとめたレポートを作ってみたんだ。あとはそっちを見てくれるかな?」

 言って、エイミィは書類の束を取り出し、みんなに渡す。

 そのレポートにはこう書かれていた。



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  ■ロストロギア『オリジン』についてのレポート■


 オリジンはこれまで発見されたロストロギアの中でも最古のものとされている。

 その正体は「古代のインテリジェントデバイス」である。

 古代においては魔力の増大、それに伴っての更なる技術の向上。その上、その結果による自らの進化(無限書庫の資料ではよく「自身では辿り着けぬ場所への到達」という記述を目にする。その目的地がどこを指すかは不明)を目的としてデバイスを製作したと思われる。

 ゆえにオリジンの自主性、知識、知恵はほぼ人間と同等といえるまでに高性能である。

 この発見によって、発見元であるミッドチルダではそれまで続いていたベルカとの対立にも何らかの決着がつけられると考えられた。そして、オリジンを元にしたデバイス(これが現在のデバイスの元である)が開発された。

 しかし当時はデバイスが意思を持つことに有意性を感じられなかったこともあり、研究は一時ここで凍結した。

 その後ベルカが技術を盗み、彼らはミッドチルダの研究レポートを基に意思を持つデバイスを製作した。そしてベルカとの戦闘の中で、デバイスが意思を持つということはマスターにとって更なるプラスになるとミッドチルダでも考えられるようになり、デバイス研究は再開された。

 が、人間性までをも兼ね備えたオリジンの高い知性は再現させられるものではなかった。

 よっていくらか劣化させ、応答・連絡・戦術補佐及び危険察知を基本に組み込んだミッドチルダ式の「インテリジェントデバイス」が完成した。


  〜以降より、現在の視点〜

 高町なのは捜査官兼戦技教導官のデバイス『レイジングハート』のように会話までするような設定は、レイジングハートを含めてどのインテリジェントデバイスにも未だに設定されたことはないが、実際には会話を行なうデバイスが多数確認されている。

 元であるオリジンの何らかのプログラムを受け継いでいると思われるが、詳しくは判っていない。

 結論としてオリジンとは、現存するすべてのインテリジェントデバイスの生みの親である。そして、それらが持っている会話等を行なう諸機能は、古代の技術に付随してのものと思われる。


  ■オリジンの性能について■


 オリジン自身の特殊能力としては、魔力の貯蔵が出来ることが確認されている。

 というのも既にオリジンの中に魔力が溜められていることが確認されていたので、それによっての推測的結果にすぎない。

 ちなみに、その貯蔵してある魔力の量は膨大。魔力自体もS+の魔力であったらしい。

 その他の能力については未だわかっていない。





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「なのはちゃん、勝手に名前使っちゃってごめんね〜」

「い、いえ、それはいいのですが……」
 なのはは改めてレポートを読み直す。オリジンについての説明、さっきのクロノの話。その中でもなのはが特に気になったのが、彼女の愛機レイジングハートを使ったくだりだった。

「レイジングハート、確かに最近はよく話してくれるようになってきてますけど……」

「なのはは昨日、レイジングハートに皮肉を言われた、と言っていただろう。本来、日常会話までこなす性能は設定されていないんだ。もちろん、主の信頼に応える、と感じる心もだ。人間の心というものは、いまだに人間の手で創ることはできないもののひとつだからな」

「……でも、なのはのレイジングハートにも、私のバルディッシュにも心はあるよ。簡単な会話ならバルディッシュも出来るし、はやてのリインフォースもそうだと思うけど……」

≪Yes sir(はい、サー)≫

 クロノの言葉にフェイトが意見を述べ、バルディッシュがそれに頷く。その姿は心があるようにしか思えない、自然な反応だった。

「ああ。確かに心はあると僕も思う。僕のデュランダルを見ていてもそう思うぐらいだ。……だが、心を創るという技術は現代において存在し得ないものだ。ゆえに、この技術はロストロギア―――特にデバイスの元となったオリジンから伝わったものだと考えられるんだ」

「なるほどなぁ……そういう意味でもオリジンはこの子らの親なわけやね」
 手の中のリインフォースを見ながらはやては呟く。

「その通りだ。―――……とりあえず、オリジンについての説明はこれで納得してもらえたか?」

「はい。クロノ艦長」
 シグナムの答えに頷き、クロノは改めて皆を見渡した。

「では、これより本艦はロストロギア『オリジン』紛失事件の対処に向かう。出発は明日とするので、今日はそれぞれ休息を取り明日の準備を行なうこと。捜査官、執務官は8:30までにアースラに集合。それ以外の者は7:30に集合とする。―――何か質問、意見はあるか?」

 誰も口を開く者はいない。皆一様に力強い瞳でクロノのことを見つめていた。

「―――では、以上とする。解散!」














―――To Be Continued