魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story -




「―――そっか、また事件があったんだ」
「うん。詳しくは話せないけどね」

 昼休み。
 昨日、クロノから聞いた話を目の前の友人たち―――アリサ・バニングスと月村すずかに話した。もちろん一般人に話せることではないから、『また事件があるみたいだ』という表面だけを話したに過ぎないが。
 それでも、目の前の二人は真剣に聞いてくれる。なのはたちは、そのたびに彼女たちの友達であることを嬉しく思うのだった。

「……まだ、詳しいことはわかっていないみたいだけど」
「それでも、たぶん近いうちに学校休むこともあるやろうから。せやから、またそのときは頼めるかな?」

 フェイトとはやても二人に親しげに話しかける。なのはを含めて五人。彼女らはとても仲のいい、親友とも呼べる間柄だった。
 そして、二人は六年前の『闇の書事件』において巻き込まれたことから、なのはとフェイト、はやてから説明を受けていた。
 つまり、魔法というものの存在。なのはたちが魔導師であり、それを有する時空間の管理を生業とする仕事のことを。そしてなのはたちがそこに所属しているため、呼び出しがあれば魔導師として彼女たちが行かなければならないことを。
 それ以降、アリサたちは学校でのフォローを担当するようになっていた。自然と、彼女たちには必要だろうと思って。なのはたちもそんな心配りを嬉しく感じ、学校でのことはアリサとすずかに頼んでしまおう、というのが三人の出した結論だった。
 ゆえに、こうして五人は気の置けない友人として、学校で楽しく過ごしている。

「ん〜……。まぁ、いいか。ノートとかは任せといて。ちゃんと取っといてあげるし、あとで教えてあげるから」
「うん。それからいつも通り翠屋のお手伝いも、私たちがやっておくね」
「ごめんね〜、すずかちゃん」
 なのはは手を合わせてすずかを拝む。それに苦笑してすずかは首を振った。

 翠屋はなのはの両親が経営する喫茶店である。自家製のケーキが美味しいと評判で、学校帰りの学生や、OLの人たちが足繁く通っているのだった。
 なのはも小さい頃からお手伝いとして店を助けてきた。それはいまでも変わらず続いていることだったが、こうして行けなくなったときはアリサとすずかがヘルプとして入ってくれるのだった。
 同じように事情を知る高町家もそのことは了解済みで、戦力として快く受け入れてくれていた。
 すずかに至ってはおっとりとした外見からは想像も出来ないほど効率よく、しかも正確に仕事をこなすので、母桃子から正式な店員として働かないかと誘われているぐらいである。

「翠屋の手伝い……すずかを見てると、あたしは向かないんじゃないかと思えてくるのよね」
 断っておくが、アリサも役に立っている。ただ、どちらかというとすずかのほうが圧倒的に向いているというだけだった。
「そんな。私はアリサちゃんたちみたいに勉強が出来ないから、そっちで頑張ってるだけだよ」
「……に、にゃはは。要するに、バランスが取れてるってことだよ。きっと」
 なのはがまとめて、二人は納得したようだった。
 学年で常にトップグループに位置しているアリサと、仕事では高い能力を発揮するすずか。結局のところ、二人はそれぞれの分野でそれぞれにしか出来ないことをして、助け合っているということだった。

「ふぅ……。まぁ、いいけどね。それで、まだその事件は本決まりじゃないんでしょ? だったら、しばらくは普通に学校に通えるの?」
「そやね。昨日の帰り、正式に事件に対して警戒しつつ待機ってことになったから。ウチらはまだ招集されるまでは自由にできるよ」
「うん。それまでは、いつも通り学校生活を楽しむつもりだから」
 はやてとフェイトは楽しそうに笑って答える。
「うん。やっぱり、学生は学生らしく学校生活を楽しまなきゃ!」
 なのはも快活にそう答え、五人は互いに笑いあった。




 放課後になると、五人はいつも通り一緒に帰ろうと昇降口に向かった。五人で一緒に登校して、同じようにみんなで帰る。それはいつからか定着していた五人の間の了解事項だった。
 それに従い、今日も五人揃って教室を出て、下駄箱の扉を開ける。

「……あれ?」
「……あ、私も」
 と、なのはとフェイトが小さく声を出した。
 その声に引き寄せられて、アリサとすずかとはやてが二人に近付く。
「―――今日はなのはとフェイトかー」
「そうやって納得できるぐらいだっていうのが怖いね……」
「ここしばらくは大人しかったんやけどなぁ」
 その言葉になのはとフェイトがバツの悪そうな顔で曖昧に笑う。

 二人の手に握られているのは、一通ずつの手紙だった。

「まったく。わざわざ女子棟まで来る勇気があるなら、こんな女々しいことしてないで告白しろってのよ」
「あ、アリサちゃん。それはそれできっと困るよ……」
 愚痴るアリサにすずかも否定しづらい顔で、それでもアリサを諌めた。すずかだって告白すればいいのに、とまでは言えないが、一ヶ月に五通も十通もラブレターが届けば愚痴りたくなるアリサの気持ちもわかるというものだった。
 なにしろラブレターはなのはとフェイトの二人だけでなく、アリサにすずかにはやて……五人全員がもらっているのだから。

「なのはちゃん、フェイトちゃん。それは、いつも通りにするん?」
 はやての問いに二人は頷く。
「にゃはは……一応、会って断るよ」
「私も。付き合うってこと、考えたことないから……」
「……うん。やっぱり、そうやよね」
 ただでさえ新しい事件が起きようとしているのだ。今回は特にタイミングが悪すぎる。もちろん、タイミングがよければOKするというわけでもないが。

 そこでふと、それまで不機嫌そうにしていたアリサがにやりと笑った。その視線は一直線になのはに向けられている。なのはは嫌な予感がしながらも、アリサに聞いた。
「……あ、アリサちゃん。どうしたの?」
 それに待ってましたとばかりにアリサはなのはににじり寄っていく。
「いや〜、なのはが断るのはやっぱり別の理由もあるんだろうなぁ、と思いまして」
「? ……別の理由って?」
 鈍いなのはとは違い、察しのついた周りはなにやら微笑ましい視線でなのはとアリサを見守っている。
 そして、みんなの微笑ましい視線に込められている意味を、アリサが口にする。

「だから〜、なのはにはユーノがいるもんねってこと!」

「………………」
 なのははしばらく呆けて。
「……ぁ」
 今その意味に気づいた、と言わんばかりに顔を真っ赤に染めた。
「あ、あ、アリサちゃん! ゆ、ユーノくんはそんなのじゃ―――」
「今更遅いわよ。ちょくちょく会ってるの、みんな知ってるんだから」
 その言葉にバッとフェイトたちを振り返る。
 そこにはなぜか照れたように微笑む三人の姿があった。
「ぅ……」
 照れるのはなのはのほうだった。確かに六年前から何度か、アリサたちもユーノと会ったことはあり、面識はある。だけど、まさかこんな最近のことまでアリサたちに知られているなんて。そうならないためにも本局のほうで会うようにしていたのに……―――と、なのははハタと気付いた。
「………………」
 アリサとすずかは本局に行くことなんて出来ない。なのにそのアリサがこうして知っているということは。

 誰かが情報をリークしているに違いない、と。

「……フェイトちゃん。はやてちゃん」
「……う」
「あ、あはは……」
 明らかになのはから目を逸らす二人。……獅子身中の虫、とはよく言ったものだった。

「まぁまぁ。仲良くしてるならいいことよ! ユーノってばちょっと頼りない感じがするけど、いいヤツだし」
「うぅ……」
 にやにやと嫌らしい笑いを一向に納めないアリサに辟易していると、唯一この中で止めてくれそうなすずかが口を開いた。

「も、もうアリサちゃん」
「す、すずかちゃーん」
 これぞ天の助けとばかりになのははすずかに、情けない声を上げる。

「大切なのは、なのはちゃんとユーノくんの気持ちなんだから。私たちが口を出すことじゃないよ」

「………………」
 ……いや。そのフォローはちょっと問題がある気がするような。

 なのははそう思った微妙な顔のまま固まり、アリサはこれまでにないぐらい楽しそうににやっと笑った。
「そうよね〜、大事なのは二人の気持ちよね。うんうん、すずかもいいこと言うわ〜」
「あの、アリサちゃん? もうそろそろいいと思うんだけど……」
「ダメ」
 なのはの願いは即却下とあいなった。
「それじゃあ、なのはぁ。なのははユーノのことどう思ってるのよ〜。ね、ここだけの話で」
 心底意地の悪い微笑みのまま、アリサは更になのはににじり寄ってくる。
 周りを見回しても誰も助けてくれる様子はない。すずかはごめん、と手を合わせて謝っている。フェイトとはやては止めようとしているようだが、好奇心もあってかあまり本気ではないように見える。
「あ、あはは……」
 なのはは妙に結託し始めた友人たちに苦笑を浮かべ、これからどうしたものか、と考え始めた。














―――To Be Continued