魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 「なんだか久しぶりだね。アースラのみんなが揃うの」 「そうだね。最近はクロノも忙しいみたいで、エイミィさんもクロノについて飛び回ってるみたいだし」 なのはとユーノは局内の廊下を話しながら歩いていた。 いまのなのはの姿は先ほどの白い衣装ではなく、ベージュのブレザーと濃い茶のスカート、そして胸には赤いリボンという私立聖祥大付属中学校の制服姿である。さっきまでは杖としてなのはの手の中に納まっていたレイジングハートも、スタンバイ状態の赤い宝石のペンダントになってなのはの首に下がっていた。 「クロノくん、スピード出世なんだって。リンディさんが、さすが私の息子!って自慢気に話してくれたもん」 「はは、その分じゃフェイトのこともリンディさんは自慢してそうだ」 「うん、ユーノくん正解! フェイトちゃんが執務官試験に合格したときのリンディさんのテンションは、ちょっと異常だったかな……」 あはは、となのははそのときのことを思い出して苦笑をもらした。その日からしばらくの間、遊びに行くたびに嬉しそうに話してくれるものだから、なのはたちは断ることも出来ず。フェイトにいたっては自慢される当人なので、真っ赤になって俯くばかりだった。 「ちょっと、残念かな。僕もパーティーの日ぐらい行ければよかったんだけど……」 ユーノは本当に残念そうに眉を寄せた。 そのフェイトの執務官試験合格のお祝いパーティの日、ユーノは外せない用事が入ってしまっていて、どうしても行くことができなかったのであった。 なのはやフェイトたちもそのことにはちゃんと納得している。が、それでもである。ユーノの仕事が忙しいことはわかっているが、来て欲しいと思わないわけはない。 「来れたらよかったのにね。やっぱりユーノくんがいてくれると嬉しいもん」 「え!?」 なのはの言葉にユーノは思わず歩みをピタリと止めた。 突然立ち止まったユーノを訝しみながら、なのはも同じように立ち止まる。 「どうしたの、ユーノくん?」 「あ、い、いや……なんでもない」 再び歩き始めたユーノに怪訝な顔のままなのはも追いつき、隣に並ぶ。いつしかこの距離が定位置になっていることを、最近のユーノは意識しだしていた。いや、意識自体はもうずっと前からしていたが、真剣に考えるようになったのは、きっとここ最近のことだ。 だからこそ、なのはのさっきみたいな一言も、ことさら気になってしまう。 (他意は、ないんだろうなぁ……) 横で歩くなのははもういつもの顔だ。さっきの発言がなにか他の意味を持って発せられた言葉とは思えなかった。 なのはに聞こえないように小さくため息をつく。 この間もエイミィに、なのはちゃんとの進展はどう?と聞かれたばかりだが、そのとき答えたようにまったくもって進展なんてしていないのだった。 (先は長いなぁ……) ユーノはもうひとつ、ため息をついた。 戦艦アースラ。ロストロギア捜索を主な任務としている、時空管理局管轄のL型艦船である。これまで多くの実績を残し、そのせいか最近ではロストロギア関連事件で真っ先に出動を命じられるのがこのアースラであった。 現艦長はクロノ・ハラオウン。前艦長リンディ・ハラオウンの息子であり、若干二十歳で艦長職におさまるほど優秀な魔導師だった。 そんな彼は、いまアースラ艦内の食堂と呼べる場所でコーヒーを飲んでいる。その隣には快活そうな顔立ちのクロノよりは若干年上であろうと推測される女性。エイミィ・リミエッタがジュースの氷をストローでつついていた。 そしてそんな二人に向かい合うように座っているのが、美しい金の髪を腰の辺りで編みこんでまとめている少女、フェイト・T・ハラオウン。その隣には濃い茶の髪を短く切りそろえて大きな髪留めで前髪を留めている少女、八神はやてがいた。そして更に二人の後ろでは、フェイトの使い魔アルフとはやての守護騎士ヴォルケンリッターの四人が控えるように立っていた。 エイミィは現在アースラの管制司令。フェイトは執務官、はやては捜査官としてともにアースラに所属している。 六年前、事件の関係者であったフェイトと、ほぼ同時期に起こったもうひとつの事件の当事者はやては、時空管理局に勤めるということになったとき、希望としてアースラ所属を望んだのだった。 それは当時まだ艦長だったリンディさんの尽力もあって聞き届けられ、こうして現在アースラお抱えの魔導師としてクロノの下で働くことになったのだった。 さて、そんな四人…いや、アルフとはやての守護騎士を含めて九人は現在談笑しつつ人を待っている。待ち合わせの時間をすぎて五分。ふたりともそういった時間には厳しい性格だから、こうして遅刻してくるなんてことは、比較的珍しいことである。 「ごめんなさい。少し遅れちゃいましたー」 不意に食堂の扉が開かれ、姿を現したのはなのはとユーノである。二人の姿を認め、九人は話を止め、二人を迎える。 「久しぶりだ、なのは、ユーノ。君たちの活躍は僕も聞いている」 クロノはそう言うと視線をなのはに向けた。 「―――特になのはは局員たちから頼りにされているらしいな。このあいだ準武装局員の人に会ったんだが、高町教導官についてとてもよく話してくれた」 クロノの言葉になのはは顔が熱くなるのを感じた。よく知っている人間から“高町教導官”と役職名を呼ばれることがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。 「く、クロノくん。えっと〜…高町教導官なんて言われると、すごく恥ずかしいんですが……」 なのははそう抵抗するが、クロノはそれを楽しそうに眺めるばかりだった。そこに今度はエイミィの声が響く。 「そうそう。なのはちゃんは人気者なんだから。ユーノくんも気をつけないとトンビに油揚げさらわれちゃうよ〜」 「な! え、エイミィさん!」 ユーノもなのはに負けじと赤くなる。対してなのはは話についていけていないのか、顔には疑問符が浮かんでいた。 「トンビに油揚げ……?」 「な、なのは! なんでもない、なんでもないから!」 ユーノに言われ、ますますワケが判らないといった風情のなのは。そしてそんな様子を眺めて抑えきれないように笑いをこぼす目の前の九人。 「……?」 なのはは尚わからないといった顔をして首をかしげた。 「なのは」 「なのはちゃん」 フェイトとはやてがなのはを呼ぶ。なのはは今の話題などなかったような顔で二人に向き直った。 「なに、二人とも?」 「はよこっち来て座って、座って。せっかく久しぶりにみんな揃ったんやから」 「そうだよ、なのは。なのはの話、聞かせてほしい」 二人は楽しそうに笑って、なのはを誘う。それに笑顔で応え、ユーノとともに席につく。ユーノはエイミィの隣。なのははフェイトの隣。ちょうど三人と三人が向かい合う形になった。 「さて、近況報告といきますか!」 エイミィは目を輝かせてユーノに身体を寄せる。ユーノはそれを獲物を狙う猫みたいだ、と思った。そうして、エイミィが身を寄せてきた分、離れる。 「な、なんですか」 とぼけてみせるユーノにエイミィは楽しそうに訊ねる。 「なにって、もちろん二人の関係に最近変化がなかったかなーってことを聞いてるんだけど〜?」 ユーノはぐっ、と小さく声を漏らした。いつかのように携帯電話を通じてならともかく、本人を目の前にしてするような話ではない。 なんとか話題を変えようと、ユーノはクロノに話を振った。 「そ、それより! クロノはここのところ忙しくしてたみたいだけど、何かあったのか?」 「ん? ……まぁいいか。ここは乗ってやろう」 必死といった形相のユーノに気を遣って、クロノはここ最近の忙しさの原因を話し始めた。 「もともと話すつもりだった。アースラのスタッフとして聞いてくれ。……ここのところ、ロストロギアの封印施設の魔力値が異常に上昇しているという報告があって、そのことで色々と調べていたんだ」 エイミィもさっきまで笑っていた顔を引き締め、真面目な顔で頷いてクロノのあとを引き継ぐように言葉を続ける。 「封印施設自体、封印維持のためにもともと大きく魔力を振り分けてあるんだけど、それでも説明できないぐらいに周辺……特に内部の濃度が半端じゃないの。しかも単純な魔力じゃなくて、魔導師が中で魔力を放っている、なんてそんな奇妙な検査結果も出てるから余計に混乱しちゃって……」 「本当に中に魔導師の誰かがいるってことはないんですか?」 なのはの疑問にエイミィは首を振る。 「それはないよ。念のためAAAクラスの魔導師が中を調べてみたんだけど、どこにもそんな人物は見当たらなかった。なのに、相変わらず魔力は流れ続けてる。厄介なことに、発生源が封印施設のどのロストロギアなのか判らないようにサーチ系の魔法に反応するプロテクトまでかけてあったし……」 「……しかも、その流れ出る魔力を魔導師ランクに例えると……S+クラスだそうだ」 「“S+”って……?」 フェイトの質問に、エイミィはことのほか真剣な顔で答えた。 「……Sクラスより上なのは確かだけど判断できない、ってこと。ひょっとしたら、Sかもしれないし、SSSかもしれない」 それにはさすがにその場に居た全員が言葉を失った。 なのはとフェイト、それにクロノ、はやての魔導師ランクがAAA。AAAクラスでさえ時空管理局において5%に満たないほど稀なのだ。Sクラス魔導師は時空管理局のトップ集団に三人ほどいるだけだと言われている。もっともあらゆる時空を探せばもちろんもっといるだろう。しかし、それでも見つかる可能性は3%にも満たないのがSクラス魔導師である。 しかも更にその上と言われればそれはもはや論外であり、畏怖の対象だ。見つかる可能性はきっと1%に満たない。それどころか0.1%もないかもしれない。 S以上は努力の及ばない才能の世界なのだ。 「本当にそんなことが起こってるんですか? うちらそんな話聞いたことありませんけど……」 その言葉にエイミィは頷いた。 「はやてちゃんたちが知らないのも無理はないよ。このことは緘口令しかれてるから。知ってるのは時空管理局上層部のジイさんたちとアースラのスタッフぐらい」 「エイミィ」 「はいはい、ジイさんはなかったですよー」 反省の色の見られない相棒に、まったく、と呆れて見せてからクロノはみんなに向き直った。 「まぁ出来れば最後に話そうと思っていたんだが、ユーノがどうしてもというので話した。アースラスタッフとして、胸に留めておいてくれると助かる。もしものときは君たちにも付き合ってもらうと思うからな」 クロノの言葉に一瞬ムッとしたユーノだったが、何も言えずただ頷いた。 他の一同も同じようにクロノの言に頷く。 「いまさら水臭いよ、クロノくん。ロストロギアの事件なら、私たちが何とかしなくちゃ」 「……それに、私たちはアースラ所属だよ」 「そやそや。うちらかて艦長さんの決めたことやったら、きっちり仕事してみせるよ。な、みんな」 「はい。クロノ艦長には我らとて恩義がある。主と共に我らも力を出すことを惜しんだりはしません」 「そうそう。今更仕事放棄ってわけにもいかねーしな」 「協力できることなら、助力は惜しみません」 「ああ」 「まぁ、そういうわけだ。クロノはフェイトの兄貴なんだから、あたしだってクロノを助けたいに決まってる」 なのは、フェイト、はやて、ヴォルケンリッター、アルフ。全員が同じ想いで、クロノを助けると決めていた。クロノにとって彼女らが仲間であるように、彼女らにとってもクロノは大切な仲間だった。 皆の真っ直ぐな想いに感謝しつつ、クロノは照れ臭くなって顔を逸らした。それでも、礼は言わなければとその体勢のまま礼を言う。 「……すまない。助かる」 「も〜、クロノくんったら照れちゃって〜」 「照れてない!」 エイミィとクロノのいつも通りのやりとりに、和やかな空気があたりに満ちる。まるで真綿でくるまれているような、温かくて心地よい居場所。 ――出会ってから六年。気づけばこうしてみんな笑っている。フェイトも、はやても、守護騎士たちも。いくつもの出来事を越えて、こうして笑みを交し合う。 それはとても大切な時間だとなのはは思う。 だが…… (いくら私でも、あそこまで言われてわからないほど鈍くはないんだよね……) エイミィの言葉、みんなの反応。ユーノとのことを言っていることは、なのはもちゃんとわかっていた。ただ、自分の気持ちが曖昧な上に、どう反応すればいいのかわからないから、誤魔化しているだけで。 なのはの想い、ユーノの想い。二人の想いがどんな種類のもので、どれほどの強さのものなのか。それを知ることはなのはやユーノにとって重要だとは思うが――― (……いまは、事件もあるもんね) クロノが言っていた事件。それがあるうちはまだ、関係を変化させたくないな、となのはは思った。 現実は常にその通りには進んでくれない、と月並な台詞を思い出しながら。 |
| ―――To Be Continued |