魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - オリジン紛失事件終結後、管理局は未曾有の忙しさに見舞われていた。 なにしろオリジンは管理局設立当初から存在した最古のロストロギア。上層部が仮にもそれの他所への移動を許可したとはいえ、その事実は大きな衝撃を与えた。 データと書類の修正、ロストロギア・オリジンへの対応の見直し、改正。監視任務の正式な辞令、それに伴う諸々の手続き……と挙げればキリがないほどに。 ことは遺失物管理班とアースラだけに留まることは当然なく、管理局の多くの部署を巻き込んで今回の事件への対応が行われていた。 その中のひとつ。ギル・グレアム元時空管理局提督の正式な除名と権利剥奪、魔法使用の禁止命令。これも、事件に付随する事項として管理局内を驚愕に陥れた。 名高い提督の除名。それまでの功績をなくすばかりか、魔法使用の禁止。これで表面上とはいえグレアムはただの一般人ということになった。 オリジンについては、管理局が認めた以上とくにこれからの干渉はないだろう。あとははやての定期蒐集と、オリジンの監視。それとオリジンを狙ってくる者の監視または排除という任務だけである。 これはほぼすべてをアースラが担当するので問題はないだろう。 ロストロギア・オリジンに関する事件は、こうして確実に終息へと向かっていた。 そして、オリジン紛失事件終結より、二日後―――。 海鳴市、高町家。 そこの一室。 一人の少女がベッドに腰掛け、クッションをお腹に抱き、右手に握った携帯電話をじっと、ただひたすら見つめていた。 「う〜〜〜……」 唸っているのはその少女。高町なのはは、まさしく今、彼女の人生においてもこれまでなかっただろう緊張感を持って相対していた。 自らの所有する携帯電話と。 おそるおそる、といった感じで携帯を開く。内蔵されたライトが点灯され、ディスプレイが明るく照らし出された。 そこから二、三の動作を踏んで、画面が切り替わる。その画面を見て、再びなのはは小さく唸った。 『電話帳 ゆ行 ユーノ・スクライア』 字を見るだけでなのはは顔から火が出る思いだった。 自分がこれからしようとしていることを考えると、それも当然だろうと思う。お兄ちゃんも忍さんと付き合う前ってこうだったんだろうか、と考えて、その考えを打ち消すように頭を振った。 (つ、付き合うなんて……) それだけでも耳が熱を持ったように感じられる。なのはは今時では珍しいとされる、純情な少女であったようだ。 ……現状を見る限り、純情というよりは奥手のほうが近いかもしれないが。 ひとつ、落ち着くために深呼吸をする。 吸って、吐いて、なのはは決意した想いそのままに、ぐっと通話ボタンを押した。 コール音が耳に届く。 一度目のコール。 心臓がバクバクと騒いでいる。口を開けば飛び出してきそうだ。鼓動が電話越しでも伝わってしまいそうな錯覚さえ覚えてしまう。 二度目のコール音。 そこで、音が途切れた。 『は、はい……』 聞き慣れた、耳心地のいい声が電話から聞こえてくる。 それに一瞬息が止まるものの、瞬時に気持ちを落ち着かせ、なのはは携帯電話を持つ手にわずかに力を込めた。 「も、もしもし、ユーノくん……?」 ユーノ・スクライアは優秀な人間である。 幼いころより生業としていた遺跡発掘により得た豊富な知識と、機転。知識を踏まえた自らの理論。そして、齢十にして無限書庫の管理を任されたという実績。 無限書庫の司書として、ユーノは大きな功績を残している。 彼の考案した探索魔法の応用魔法。それによる無限書庫の完全データベース化である。 もちろん本当にすべてをデータにしたわけではない。ただすべての本を整理し、区分けし、普通の図書館のように魔法による検索で探せるようにしたのだ。 これにより、それまで『一冊の本のために人生を棒に振る気はない』とまで言わしめた無限書庫は、数分から数十分でほしい本が見つかるほどになった。 五年の歳月を費やした彼の苦労は、こうして目に見える形で報われたのである。 ちなみにユーノはこの功績を評価され、特別管理局表彰を受け、初代司書としてその名誉を残すことになった。 それはともかくとして、ユーノはそれほどまでに優秀な人間なのである。 だが、同じ職場に勤める彼の部下たちは、最近になって彼の異常を感じていた。 まず、落ち着きがなくそわそわとしているかと思えば、突然ぴたりと静止する。そしてしばらくすると頭を抱えて唸りだす。その姿は心配する以前に、ぶっちゃけ不気味だった。 かと思うと、次の瞬間には唐突に落ち込む。その落ち込みっぷりたるや、思わず「早まらないでください!」と声をかけた職員がいたほどであった。 完璧な情緒不安定だった。 自らの上司が苦しんでいる! ということで、部下たちは彼を休ませる決意をした。 まず交代制で残業を組み、一人当たりの作業時間を多くとるようにした。そして休み時間も書庫内で食事をとるようにし、担当の人間が食事をしている間はほかの人間が必ず作業をしているようにした。 そういったことを繰り返し、なんとか一日の休日を捻出した彼らは、即座にユーノにそのお休みを提供した。 はじめは面食らい、君たちに悪いと言って断っていたユーノだったが、真剣な表情で自分を気遣ってくれている皆の気持ちを無碍にすることは出来ず、お休みを受けることにした。 その答えに彼らは満足し、口々にユーノを励まして作業に戻っていった。 無限書庫の管理人、ユーノ・スクライアは、彼らの中で親しみやすく優しい上司として、人望ある人物なのだった。 そうして、現在。 休日の自室で、ユーノはベッドに寝転んでいた。 「はぁ……」 碧の瞳を悩ましげに揺らし、どこを見るでもなくただぼーっと天井を見上げている。 栗色の長い髪は今は解かれ、ベッドに散らばっている。 生来の童顔と女の子らしい顔も相まってか、憂いを帯びたその表情は、まるで恋する乙女の典型とでも言うべき姿だった。 本人が聞いたら、烈火のごとく否定するのだろうが。 「はぁ……」 今日何度目になるかわからないため息をつき、ユーノは思考にダイブする。 結局は自分の弱さがこの事態を招いているのだ、ということはわかっている。自分の、一番嫌いな部分。理論的に、結果を重要視してしまう自分の思考。 相手の答えがわからない、という問題だからこその、それは弱さだった。 それゆえの、あのときの言葉。 彼女の言葉を押しのけてまで言おうとした気持ちなのに、出てきたのは曖昧な一言だった。 それが、なのはを傷つけた。なにより、自分のせいで彼女が傷ついたということが何よりつらかった。 だから、悩んだ。どうすればいいのかと。彼女は、どう思っただろうかと。 そして、リンディに会い、相談に乗ってもらい、気がついた。 『なぜなのはに告白したいと思うのか』 その、原初の気持ちに。 悩む必要などなかった。ただそれだけでよかったのだ。その気持ちがあるだけで、きっと何でもできるはずなのだ。 そう思えるほどの強い気持ち。なのはのことが誰よりも愛しいという、たったひとつの無垢な想い。 すべてはそれだけ。 "好きと言ってほしいから告白する"んじゃない。"好きだから告白する"のだ。 そのことを、履き違えてはいけなかったのだと気がついた。 気がついて、そう、気がついたのだけど……。 「はぁ……」 なんというか……機会がなかった。 事件は終わり、事後処理を残すのみとなった。 しかしその忙しいこと忙しいこと。なんとか部下の皆が一日の休みを捻出してくれたものの、本来ならこうして休むなんてできる状況ではないのだ。 だというのに、こうして休みをもらって、自分はずっと横になっている。 まるで不貞寝してるみたいだ、とユーノは自分を苦笑した。 そして、再び天井を見つめて、ぽつりと言葉が漏れた。 「なのはに、会ってみようか……」 声に出して、はっとユーノは口に手をやった。 完全に無意識に口をついて出た一言だった。そのことに彼自身が動揺していた。 なのはに会ってみようか、というそれだけの言葉。だが、それがまるで探していた解答だったかのように、すとんと胸に落ちた。 そうだ、機会はあった。皆がくれた一日の休み。今日を使って、なのはに会おう。何が何でも絶対に会おう。そして、伝えるのだ。あのときに言えなかった自分の気持ちを―――。 その答えにユーノは満足したように微笑んだ。決意をみなぎらせる瞳は、先程までのように揺れてはいない。 素早くベッドから起き上がり、枕もとの紐で髪を束ねる。服装は部屋着のままだがこれはあとでいいだろう。 今はただ、なのはに連絡を取ることが第一だった。 と―――、 プルルルル……。 「!」 呼び出し音がたった今手に取ろうとしていた携帯電話から響いた。サブディスプレイに表示された名前をつい凝視してしまう。 『高町なのは』 それはまさしく、彼女の名前だった。 気をしっかり持つ。さっき決意したそのままに、強く。 意を決し、ユーノは携帯を開いた。 プルル……、 「は、はい……」 それでもちょっとどもってしまうのは、ユーノらしいところだった。 『も、もしもし、ユーノくん……?』 「うん……久しぶり、なのは……」 |
| ―――To Be Continued |