魔法少女リリカルなのはA’s+ - After Story - 事件発覚から二週間と三日。午前九時、戦艦アースラ艦内。 「―――オリジンの話をもとに、すでに彼女の情報は確認した」 会議室。 なのはたち全員が長机に着席し、クロノが立ち上がって開口一番そう言った。 「名前は芳野なな。現在生後一ヶ月の少女だ。家族構成は父と母と姉の四人家族。リンカーコアの存在は未確認。そのあたりはそのうちオリジンのほうから教えてもらえると助かる」 ちらりとオリジンに目を移す。 ≪ああ。任せてくれ≫ オリジンの答えに頷き、クロノはさらに続ける。 「住所なども既に判明しているが、大雑把に言うとはやての家となのはの家を直線状に結んだ真ん中あたりの場所だ」 あの辺りか、と二人は胸のうちで海鳴の地図を思い浮かべる。二人の家の中間ということは、はやての家から遠く離れているわけではないということだ。 これではやてが定期的に蒐集をするにも、距離的にやりやすくなった。 「…………では、今日の本題だ」 クロノの真剣な声音に、なのはたちの顔にも緊張が走る。 いよいよ、今日。 「オリジンを、その子のもとに送る」 「方法はどうするんですか?」 なのはが挙手をしてクロノに質問する。 それにクロノはひとつ頷き答えた。 「ああ、一応考えはある。……はやての手に闇の書が存在したことと、まあ似たようなものかな」 その答えに、尋ねたなのはも、名を出されたはやてを含めたフェイトたちも困惑を浮かべる。 「はやてちゃんの……?」 「闇の書があったことって……」 なのはたちの疑問を受け、クロノは言葉を続けた。 「闇の書……夜天の書は、はやてが物心ついたときからあったと聞いている。そして、その存在に気がついたときには、もう両親は傍にいなかったとも……」 若干の遠慮を含んだ声がクロノからはやてにかけられる。その言葉に、はやては首肯して答える。 「……うん、そうや。私が夜天の書の存在に気ぃついたとき、もう両親はおらんくて、グレアムおじさんが色々よくしてくれはってたから」 はやてに両親はいない。加えて、親族と呼べるものも。 天涯孤独―――よく聞くがしかし遠いその言葉は、まさにはやての境遇を端的に表した言葉でもあった。頼れるのは顔も知らない、父の友人を自称する遠方の他人だけ。夜天の主となった当時、幼いはやてが妙に達観しているように感じられるのも、恐らくその辺りが原因だろう。 無論、現在はヴォルケンリッターという家族もでき、天涯孤独という言葉が当てはまらない、幸せな日々を送っているが。 はやての言を聞き、やはり、とクロノは呟いた。 「はやてが夜天の書に気がつかなかったのは、気付かないように細工されていたからだ。意識阻害の魔法……とでも言おうか。ある程度の時期が来るまで、その存在は伏せられていたようだ」 主に、はやての意識の中に闇の書の存在が入ることの無いように。 それが、闇の書の主選定に必要だったからか、それともいきなり大仰なハードカバーの本が鎮座していたら、家人が疑問に思う心配があったからか、それはわからないが、とクロノは付け加えた。 「今回はその夜天の書でも行われていた一種の意識操作をする。要するに"そこにあっても不思議ではない"と彼らに思わせるんだ」 かつて闇の書が最初、はやての意識の外にあったように。 今回はオリジンの存在が、あってもおかしくないものという意識を無意識に認識する魔法をかける、ということだ。そうすれば、無理なく彼女―――芳野ななの家庭に入り込み、定着することが出来る。 ―――オリジンが望むように、彼女のもとにいることができる。 「……とりあえず、今のとことはその方向でいくつもりだが……何か反対意見や付けたしがあればここで言ってくれ」 クロノの言葉に少し顔を見合わせ思案するものの、意見は何も無かった。これが、オリジンにとってよい選択だと、みんなが思っていた。 「では、決まりだな。この方向でいく。……オリジン、君もそれでいいか?」 最終確認としてクロノはオリジンに尋ねる。やるべきすべてを終えてから彼に意見を求めるところが、いかにもクロノらしかった。 ≪……ああ。ありがとう≫ いつの間にか自然と口にするようになった感謝の言葉に、オリジン自体驚きながら、しかし、そう返す。 「礼の言葉は、全部終わった後にしてくれ」 微笑とともにクロノはそう返し、ほかの皆も笑顔でオリジンを見やる。彼らにとってオリジンはもはや他人ではなく仲間であり、助けるべき友人だった。 オリジンはその存在を稀有たらしめる白銀に煌く古器の中で、彼らの姿を心に刻み付けた。何物にも代えがたい味方―――唯一無二の仲間たちを。 ふっと笑みが漏れる。クリスの手によって生み出されて幾千年。そのうち、九百年以上をオリジンはただ一人で過ごしてきた。ただ一人で、胸に抱いた想いだけを友にして……。 それがいま、たくさんの人に囲まれ、こんなにも優しい気持ちで時を過ごしている。 不意に思ったのだ。一体なぜ自分はこんなにも変わったのかと。 答えは、と考えてみるが、なんてことはない。ただ普通に自分以外の誰かと一緒にいて、彼らを頼ってみただけだった。ただそれだけで、自分は今の心地よい自分になったのだ。 だから彼は嬉しかった。変われたことが、そう思えるようになったことが、何よりも。 ただの機械と言われても仕方のない自分に、存在の理由を与えてくれた人達。 クリス、グレアム、高町、アースラの皆……。 外見からは想像も出来ないほどに渦巻いた感情をしっかりと受け止め、オリジンは深く彼らという得がたい存在に頭を垂れた。 ただただ、自分の感じた想いを表すために。 「……では早速、行動に移ろう。意識阻害の魔法は、シャマルが出来る。現地に向かうのは、シャマル、はやて、なのは、僕、フェイト、そして当然だがオリジン。この六人だ。他の者はここに待機していてくれ」 「はい」 「ああ」 「……」 「わかったよ」 シグナムとヴィータが答え、ザフィーラは黙って首肯し、アルフも了解の意を伝える。 その答えに頷きを返し、クロノは手元のコンソールを操作する。 低い電子音と共に、長机の中心に一枚の画像が映し出される。それはなのはたちにとっては見慣れたもの―――海鳴の地図だった。 「場所は海鳴のここだ。そして……」 クロノが再びコンソールに手を伸ばすと、更にもう一枚画像が表示される。 「この家がその芳野家となる」 そこには、ごく普通の一軒家が映っていた。斜め上空から捉えた写真で見る限りでは、比較的新しく建てられた物件らしく、陽光を弾く壁が美しく光を返している。 どうやら越してきたばかりの家族らしかった。 「ふわ〜……ホントに近いところにあるんだね」 「ホンマやなぁ」 地図を見ていたなのはとはやてが声を上げる。 そこはさっき聞いたとおり、なのはの家とはやての家のおよそ中間。お互いの家から歩いていっても、十分とかからない距離にあった。 「ああ。まぁ、近いに越したことはないさ。これからのことを考えればな」 クロノの言葉にはやては頷いた。 これから、はやてが蒐集を行なうには、確かに近くて損ということはない。 「……それでは、実行に移そうか。オリジンも、いいか?」 ≪ああ、行こう。長年の我が願いを果たしに―――≫ オリジンの決意とも取れる言に皆は一様に力強く頷く。あとはこの場所へ向かうだけ。それだけで、オリジンの全ては報われる。 「では行こう。あそこが、君の旅の終着点だ」 |
| ―――To Be Continued |