Muv-Luv Truth Episode 『オルタネイティヴ計画』
それは始め、BETAに対する調査から始まった。 オルタネイティヴ1はBETAに対する調査全般。こちらはほぼ無結果に終わった。 オルタネイティヴ2はBETAの生態調査。結果、BETAが人類と同じ炭素系生命体であることが判明。 オルタネイティヴ3では人工ESP発現体によるリーディングとプロジェクションによるコミュニケーション。結果、BETAは人類を生命体として認識していないことが判明した。 そして、オルタネイティヴ4はそれまでの計画を踏襲して夕呼が提案したもので、BETAに対する諜報活動とそれによって最終的にBETAに対して講和あるいは駆逐することを掲げた計画である。 そのキーとなるのが『00ユニット』。 BETAはかねてより人間よりも機械に興味を示していたことが分かっていた。それを踏まえ、00ユニットに興味を持たせる。あわよくば00ユニットを生命体と認識すれば儲けもの、という考えだ。 生体反応ゼロ、生物的根拠ゼロの00ユニット。 しかし、たとえBETAから情報を得られたとしてもそれを人間に伝えるには人間の思考が必要である。それゆえの人型であり、カガミスミカであった。 武は夕呼に尋ねた。なぜ純夏がいるのかと。 夕呼は詳細を語る。 ここ横浜基地はかつては横浜ハイヴと呼ばれたBETAの住処であったこと。 そして、ここを制圧した時、ハイヴの中を調査していると、その数何百本にものぼる数の不気味に光るシリンダーが天井から床までつながっていたこと。 その中には人間の脳が収められており、当時そこに住んでいた人たちが捕虜となってBETAのなにがしかの研究のために解剖されたのだと。 そして、その中で唯一生きていることが確認された脳があり、それが鑑純夏だった。 ではなぜ脳だけになっていたのに純夏だということがわかったかというと、それは霞の能力によるものである。 霞はオルタネイティヴ3の成果である人工ESP発現体だったのだ。つまり、リーディングで純夏の脳の思考を読み取り、それが鑑純夏であるということを明らかにしたのだ。 「俺は正直、頭に血が上ったよ。純夏を利用していることが何より許せなかった。……でも、先生が俺に拳銃を渡して言ったんだ「許せないならあたしを撃て」ってな」 「………………」 「その時の先生は、本当にそう思っていたんだ。俺になら殺されてもいいって。あの先生がだぜ? 俺はそれで逆に冷静になった。先生は人類にとって必要な存在だ。殺すなんてできない。それに、00ユニットだって、純夏は純夏だと思った。純夏は生きてる。そう思うようにしたんだ」 「タケルちゃん……」 「結果的には、純夏を利用することを俺も納得したってことだ。……夕呼先生を責められないよな……」 「そう、だね。でも……きっと、そのわたしだってタケルちゃんを責めないよ。たぶん、だけど……」 「――そう……だな。そう思う、俺も」 純夏はBETAへの復讐心に囚われていたこともあり、武はその人間性を取り戻すという新たな任務を請け負った。 それと同時に、副司令直属部隊であるA-01への配属も決定された。 A-01は207訓練小隊に所属した者が組み込まれる特殊任務部隊だ。オルタネイティヴ4遂行のために様々な任務を負う部隊だが、もう一つの顔がある。それは、00ユニットの素体候補者であるということだ。これを知るのは夕呼と霞、そして武だけだったが。 前線に任務で赴いていたという嘘の設定が武にはされており、そんな武が無事に帰還したことを元207Bの仲間は喜んでくれた。 そして、A-01の面々とも次第に打ちとけ、一つの隊として伊隅みちる大尉のもと速瀬水月中尉、宗像美冴中尉、涼宮遥中尉、風間祷子少尉、柏木晴子少尉、涼宮茜少尉、そして207BのみんなでA-01こと“伊隅ヴァルキリーズ”は動き出すことになる。 『甲21号作戦』――佐渡島ハイヴへの侵攻が決定されたのである。 「純夏はそれまでにはかなり人間性を取り戻していたし、XG-70っていう荷電粒子砲とラザフォード場……まあ、要するにすげー攻撃力ととんでもねー防御力を持った兵器もあった。それでそれに純夏を乗せて佐渡島ハイヴを制圧、純夏のリーディングで情報を得るって作戦だったんだ」 「……タケルちゃん、いまわたしのことちょっとバカにしなかった?」 「いや、別に。……え、えーっとだな。それでそれは結構うまく行ってたんだ。けど、途中で状況が変わった。純夏が突然気絶したんだ。俺は純夏を連れて佐渡島を離脱、伊隅大尉はXG-70を自律運用させようとしたんだが、BETAが俺達を狙うように展開を始めた。さらに日本本州にもBETAが向かっていることがわかって……伊隅大尉はXG-70を自爆させた」 「………………」 「XG-70……凄之皇弐型の動力はG弾20発分の威力があった。佐渡島はハイヴごと地図から消えたよ。伊隅大尉とそれを守るようにしていた柏木少尉は味方の撤退を成し遂げた。そして、柏木はBETAに殺され、大尉は自爆した」 「………………」 「柏木は気さくで、一歩引いて周り見てた奴でさ。頼りになる奴だった。伊隅大尉は……俺にとって凄く大事な人だった。俺を厳しく叱ってくれたこともあったし、諭してくれたこともあった。大尉のおかげで俺は自分の立脚点を定かにすることが出来たと思う。尊敬していたし、まだまだ教えを乞いたいと思える人だったよ」 「そう、なんだ……。タケルちゃんがそこまで言うんだから、本当に凄い人だったんだね」 「ああ……本当に凄い人だった」 『甲21号作戦』が終わり、純夏はさらに人間性を乗り戻した。そして純夏が突然気絶した理由も発覚。武が戦闘中、突然身に覚えのない記憶のフラッシュバックを起こしたことだった。 その内容がなぜか207の仲間と、そういう行為をしている記憶であったため、武のことを見ていた純夏は嫉妬や悲しみ、不安などに襲われて負担がかかったということだった。 そして、純夏はだんだんと武のことを避けるようになる。武がプレゼントしたサンタウサギの人形も返そうとするぐらいだった。 武は純夏と話し合い、拒絶されたが、仲間に励まされて再び純夏と向き合った。 そうして純夏の抱える悩みを知り、それすらも武は純夏の一部にすぎないと受け入れた時、二人はようやく結ばれることになったのである。 しかし、その幸せも長くは続かなかった。 横浜基地が突然大量のBETAに奇襲を受けたのである。 「しかも、それまでBETAは戦術なんかは使うことがなかったのに、その時のBETAは明確な作戦行為として横浜基地を襲撃していた。俺たちA-01は速瀬中尉を隊長として横浜基地の最深部にある、ハイヴの心臓ともいえるもの――『反応炉』を守る任務を負った。 BETAは反応炉でエネルギーを補給するらしいことはわかっていたからな。佐渡島ハイヴがなくなったことで、こっちに来たってわけだ」 「でも……なんでその反応炉があったの? もともとそのハイヴだったのかもしれないけどさ、そこを制圧して基地をつくったんでしょ?」 「夕呼先生が言うには研究のため、だな。それと、00ユニットの身体を流れるODLっていう人間の血液みたいなものがあってな。それは72時間に一度浄化させる必要があるんだが……その作業はその反応炉でしかできないことだったんだ」 「そうなんだ……」 「俺たちは次回のハイヴ攻略戦の要となる予定の凄之皇四型を守るという任務もあった。まあ要するにBETAの深部への侵攻を止めればよかったわけだが……そんな俺たちに夕呼先生から新たな任務が入った。 反応炉を止める。涼宮中尉が向かうから、護衛と何かあった時のために同行しろってな」 武と水月が一番その任務に適しているということで、二人は最深部の反応炉に向かい、それ以外の面々と冥夜の護衛として年内までは横浜基地にいるはずだった月詠中尉率いる帝国斯衛部隊は凄之皇四型の警護につくことになった。 武と水月は下に向かい、遥が管制室で作業をしているあいだ周りの警戒を続けていた。 その時、武が管制室がある研究棟にBETAが侵入した跡を発見。 しかし時すでに遅く、遥はBETAに殺されてしまう。逆上した武が管制室に銃口を向けるが、水月がそれを叱りつけ止める。 武は親友同士だった水月のほうが辛いはずだ、と自分を抑える。 そして今後の対応を乞おうとするが、通信は死亡。水月の独断により、反応炉を破壊することを決意する。そして衛士が自爆するための爆弾であるS-11を設置して反応炉を離れようとする。 しかし、S-11の遠隔操作が効かない。BETAがS-11の起動に関する部分だけを食べていることに気がつき、水月は残ることを選んだ。 武は何とか一緒に行くように説得しようとするが、水月の決意は固かった。逆に諭され、武は何も出来ない自分を心底悔しく思いながら凄之皇四型のもとへ向かう。 水月は反応炉の破壊に成功。しかし、水月が帰ってくることはなかった。 また凄之皇の警護でも、涼宮茜が負傷、風間少尉と宗像中尉が重傷となり、ついに残るA-01のメンバーはかつての207Bのみんなだけになってしまった。 横浜基地の被害も甚大。人員の損害も約半数が死亡または行方不明という悲惨なものになった。 「そのあと、夕呼先生の口からすぐに次の作戦が発表された。BETAの本拠地ともいうべきオリジナルハイヴ――そこを30時間後に攻略する、と」 「そ、そんなすぐに?」 「ああ。純夏からもたらされた情報があったんだ。BETAの情報伝播モデルはオリジナルハイヴを頂点とした箒型で、そこさえ落とせば人類に大きな勝機が見えるってな」 「……それだけ? 本当に?」 「……いや、まだある。ODLの浄化のことは話しただろ? それで、純夏は定期的に反応炉に触れていた。そして、反応炉は各ハイヴに存在する心臓部だ。純夏は、浄化作業を受けている時、気がついてしまったんだ」 「………………」 「自分を通じて、自分が知った情報や知識がオリジナルハイヴに流れていることに」 「っ! ……じ、じゃあわたしは……」 「……そうだ。無意識のうちに、人類の情報を流していたことになる」 それゆえに急を要する必要があると判断して、その作戦は立案された。 凄之皇四型に純夏と武、そして補佐として霞。月詠中尉たちから託された武御雷には冥夜、千鶴、綾峰、珠瀬、美琴が乗り、オリジナルハイヴ「甲1号」における『あ号標的』の破壊・攻略作戦――『桜花作戦』がついに発動する。 もし失敗すれば即オルタネイティヴ5に移行という責任を負いながら、武たちは軌道上に打ち上げられ、そして多くの犠牲を払いながらもオリジナルハイヴ突入に成功する。 主広間まで進んだ武たちだったが、その圧倒的なまでのBETAの量に苦戦を強いられる。 そして、ついに仲間たちがその命を犠牲にする。 まずは千鶴と綾峰が、主広間にこれ以上敵が入ってこないようにその入り口を崩落させるためにS-11を使って自爆した。 次に珠瀬が、『あ号標的』がある最奥まで続く横坑の開閉を司るBETAの脳に当たる部分に亀裂を入れた直後、突撃級の波に呑み込まれた。 そして美琴がその亀裂にナイフを突き立てて脳を破壊したが、大量の電流が流れ、命を落とした。 冥夜は彼女らがすることを武が知れば、助けに戻ろうとするだろうと考え、何があっても決して武にその情報を流さなかった。 仲間たちに武のサポートを任された冥夜は、凄之皇を先に行かせ、後続のBETAを殲滅し始める。 一足先に武たちはオリジナルハイヴの中央部――『あ号標的』の間に到達する。 破壊しようと攻撃したところ、『あ号標的』から触手のようなものが伸びて攻撃を受け、しかもそれがラザフォード場を突破したことに武は驚愕する。 そして凄之皇のエネルギーが吸い取られ始め、しかも純夏と霞が突然変調をきたし、武は慌てる。が、それがある程度収まった時、武は衝撃的な事実へつながる体験をすることになる。 「『あ号標的』は、純夏を通じ、霞を翻訳機として、俺と会話をしてきたんだ」 「え!?」 「『上位存在』だって自分のことを言っていた。そして、俺はあっちに質問した。なぜ人類を攻撃し戦いを仕掛けた。なぜ人類を殺し、命を奪うことをする。俺たちは生命体だ……ってな。最初は“攻撃”とか“戦い”とかって言葉の意味がわかってなかったりして会話になってなかったけど、次第に会話が成立して答えを返してきた」 「……なんて、言ってたの?」 「……『上位存在は存在に対して重大災害の防止策を実施した』」 上位存在とは『あ号標的』。存在とは通常のBETAのことだ。 人類を生命体として認めていない上位存在は、つまり台風や地震などの災害対策として人類に対して攻撃――いや、“対策”を行ったにすぎない、と言ったのだ。 武は頭が沸騰したように血が上ったが、それでも頭を冷やして一つずつ質問を重ねる。 ――お前は何の目的で地球に来た? ――資源の回収。そしてそれを上位存在を送り出した惑星に送る。 その資源とは人類のこと。上位存在は人類のことを自らと同じ『被創造物』だと語った。 そして、『創造主』こそが生命体であり、上位存在は自分たちのことを生命体ではなく『創造主』によって送られる資源回収機械のようなものであると認識していることを。 そして、『珪素を基質とし、自己形成、自己増殖する散逸構造』――珪素系生命体こそが唯一の生命体だと認識していたのだ。 だからこそ、自らと同じ炭素系生命体である人類は『被創造物』であり、生命体として認識されなかったのだ。 それから武は人間が生命体だと認めさせることが出来ればこの戦争も終わると考え、何とか上位存在に人類は生命体だと認めさせようとした。 が、炭素が生命体にまで進化することはあり得ない、としてかたくなにそのことを認めない。 「その時、上位存在は言った。『上位存在はオレに問う。人類が自然発生した生命体であるという根拠の提示を求む』」 「オレに問うって……?」 「俺のことだよ。俺は自分のことを『オレ』って表現していたから、あいつは俺のことをそう認識したんだ」 「そう、なんだ……。それで、どうなったの?」 「……兵士級BETAに再利用される最新の標本を提供するから、それで証明しろ、と……」 「さい、りよう……?」 「そうだ。研究されていた人間は兵士級BETAとして再利用されていた。そして、提供された最新の標本は……ッ!」 ぎりっ、と武の歯が強い音を立てる。 たぶん、初めて見る武の顔に純夏は無意識に握った手に力を込めた。 「……殺された、たまだったんだ……!」 「――え……」 無残な姿になったたまを見た瞬間、頭の中が真っ赤になって暴走しかけた武だったが、冥夜の乗る紫の武御雷が現れたことでそれは抑えられた。 そして冥夜が『あ号標的』を押さえているうちに、武は凄之皇のエネルギーと奪われた制御の回復に努めるが、ようとして進まない。 そうしているうちに、武は冥夜が自分のために仲間の死を誤魔化していたことを知る。自分が信用されていないことに武は愕然としたが、しかし自分を省みて自分の甘さを自覚したことでそれも納得した。 そして純夏に語りかけ、エネルギーと制御の回復を図っているうちに、ついに冥夜の機体が敵の触手に貫かれ、満身創痍となってしまった。 武は純夏に語りかける。純夏のことを。人類のことを。仲間たちのことを。純夏に任せる、と。 すると突然エネルギーが回復。『あ号標的』から再び触手が伸びるが、それは何故か弾くことに成功した。 そして荷電粒子砲を発射しようとするが、発射口には冥夜が張り付けられていた。 これでは、撃てない。 何とか助けようとする武だったが、それは冥夜自身によって阻まれた。 冥夜は既に触手によって浸食されており、絶望的な状況となっていたのだ。 『――せめて、最期は……愛する者の手で……――』 そう告げ、武の手によって討たれることを望む冥夜。 武は震える手でトリガーを握り、冥夜の名を声が潰れるほどに叫びながらトリガーを押した。 発射される荷電粒子砲。消滅する『あ号標的』。 そして自動的にハイヴの天井を壊し、シャトルが凄之皇から飛び出し、武たちを脱出させる。 たった三人だけを乗せた、広すぎるシャトルが――。 「……俺たちは、自動操縦で横浜基地に帰った。外から聞こえてくる歓声に驚いたよ。霞のほうが先に起きてたらしくて、霞は今の状況なんかを俺に教えてくれた。そして、純夏のことを聞いた時――」 「………………」 「純夏は……もう、死んでしまったことを知ったんだ……」 「………………っ」 霞は語ってくれた。 どれだけ純夏が武のことを想っていたかを。 どれだけ武と過ごした時間を大切に想っていたかを。 そして、霞は不自然に言葉を切る。 武は、霞に言う。教えてくれ。 霞は言う。知らないほうが、いいこともあります。 それでも、武は知らなければならない。もう決して、逃げないと決めたのだから。 そして霞は、すべての真実を語り始める――。 「1999年の明星作戦。横浜ハイヴの奥底で、純夏は脳の姿で生きていた。その時、ハイヴ制圧のために落とされた二発の新型爆弾――G弾。 その時に発生した高重力の影響と反応炉が共鳴して、時空に歪みが生まれたんだ」 「うん…………」 「そこを通して、『あっちの世界』と『元の世界』が一時的につながった。そして純夏が無意識に考えていたある思考が、俺を呼び寄せ、俺を『因果導体』にしたんだ」 「そっ――!」 「『タケルちゃんに逢いたい』」 「――ッ!」 「そうして俺は『あっちの世界』に召喚され、そこで生きることになった。207隊の誰かと付き合ったこともあった。けど、その状態で死ぬと、俺はまた10月22日に帰っていたんだ。 記憶を消されて。純夏に辿り着かなかったから、な」 「そ、んな……」 「けど、今回は純夏に気がついた。それに、純夏のことを誰よりも深く愛した。そのことで純夏は満たされて、蓋をしていたすべての記憶を取り戻し、自分が無意識に何をしていたのかを知ってしまったらしい」 「………………」 「霞は言っていたよ。純夏はそれを知ってからずっと悩んでいたって。わたしがタケルちゃんやみんなを不幸にしてるって。 ……最初、さ。純夏の奴ひとりで出撃しようとしてたんだぜ。それも、だからだったんだって霞は言ってた」 「………………」 「俺を、ループから解放するために。みんなに、償いをするために。だから、自分を犠牲にしようとしたんだって。だから、速瀬中尉に反応炉を確実に壊せるポイントを教えて、もうODLの浄化を出来なくしてたり、したんだって」 「………っ………ぃ」 「俺は、それで確かに因果導体じゃなくなって、この世界にいる。……けどさ、死ぬことなかったじゃないかよ。なんで、そんなふうに考えるんだよ。……俺が、悲しまないとでも、思ったのかよ……」 「……め……っ…ぃ」 「俺は、純夏と一緒に生きたかった。ずっと一緒にいるって、約束したんだ。どんな純夏だって愛してるって、誓ったんだ。……だってのに、俺は戻って来ちまった」 「た……る、ちゃ……」 「……わかってただろうに、ありがとうとか、言いやがって……。……お前のかける負担なんか、慣れてるっつーんだよ……」 「た、ける……ちゃん……」 「……これで、全部だよ。……長々と話して、悪かったな……」 「たけるちゃあん……ッ!」 話し終わり、これまでのことを思い返したためか項垂れるようにうつむく武に、純夏は勢いよく抱きついた。 当然武はそんなこと予想しているはずもなく、物理法則に従って身体が後ろに倒れる。 するとそこにはベッドがあるわけで、武はベッドの木枠部分に思う存分頭を打った。 「だッ――!?」 「う゛ぅぅぅ〜、だげるぢゃ〜ん」 身体を鍛えていてもいなくても、頭への刺激はどうしようもない。 武はぐわんぐわんいっている頭はひとまず置いておいて、この原因をつくった存在へと視線を向ける。 「おい純夏! いきなり――」 「ご……ん、なさぃ……!」 「……え?」 「ご、めんなさい……ごめんなさい……!」 「お、おい……いったい何なんだよ……」 泣きながら抱きつかれ、かと思えばいきなり謝られる。 突然の出来事に、武は純夏が一体なぜこんなに自分に対して謝っているのか咄嗟に判断することが出来なかった。 それでも何とか落ち着けようと、純夏の肩を掴んで自分の胸からそっと離す。 ついでに自分も体勢を直して純夏に向き合うような形をとった。 「……なあ、純夏。どうしたんだよ。俺の話したことが原因なんだろ?」 さすがにタイミングから見ても、自分がした話が原因だろうことは武とてわかる。 だから涙をぬぐってやりながらそう尋ねているのだが、その行為も一向に泣きやまないのであまり効果が出ているとは言い難かった。 しかしある程度は落ち着くことが出来たのか、だんだんと涙はおさまってきた。 そして、ぽつぽつと口を開き始める。 「だ……って……」 「うん?」 「わ、たしの……せいで……たけるちゃんが……」 「………………」 「わたしの、せいで……」 そういうことか。 武はようやく純夏がなぜこんなに辛そうな顔をして落ち込んでいるのか得心がいった。 少し考えればわかることだった。純夏の性格では、たとえそれが自分とは違う自分であると言っても納得しないに違いない。 武とてその点はわかる。武は純夏のことはすべての世界の純夏をひっくるめて『鑑純夏』だと認識している。だからこそ、それが別の世界の純夏であっても純夏に違いない以上、自分は鑑純夏を愛していると断言できたのだ。 純夏も今、すべての世界の自分は自分だと考えているのだろう。 だから、こうして武に対して責任と申し訳なさを感じてしまっているのだ。 「………………」 とはいえ、それは別に純夏の罪ではない。 そもそもはBETAが根本の原因だ。それに、心の中にある負の感情は誰しも持っているものだ。霞が言っていたように、それが見えるか見えないか、見えやすいかどうかの差があるだけだ。 たまたま純夏は、その感情だけで自分の思い通りにいくところにいただけだ。 しかも、それとて意識してではない。完全な無意識下でのことだ。 それを責められるわけもない。 それに、である。 何よりこいつは、俺の気持ちを考えてない。 「なあ、純夏」 「……ぅ……なに……?」 「俺はさ、嬉しかったんだよ」 「……え……?」 そう、嬉しかったのだ。 純夏が自分を『あの世界』に呼び寄せたと聞いた時。その時は確かに驚いたし、ショックも受けたものだった。 けれど、時間がたてばたつほどに武は逆に自惚れていったのだ。 自分は、純夏にそれほどまでに愛されていたのだ、と。 どれだけ辛い目に遭おうが、どれだけ悲しみに暮れようが、純夏と共にいるゴールに辿り着くためだったなら、納得できる。 それなら、と思える。 まあ、愚痴くらいはこぼしたかもしれないが、それでも純夏と一緒にいることが幸せだと思えるから、そう考えられたのだ。 それは確かに辛かったし、人生を呪ったりもした。 それでも、それは武自身の人生だった。 純夏が手を加えたとかは関係なく、“それ”が自身の人生だったのだ。 逆に純夏がまったく関係していないことのほうが、武にとっては辛い。 だからこそ、純夏が武を因果導体にしてどうこうしたというのは今さらそこまで大きく気にしていないことなのだ。 それはどう捉えたって結局、純夏は武を求めていた、ということなのだから。 「……それに、『あっちの世界』のお前が苦しんでいたなら、助けられてよかった。俺はそう思ってる。だから、お前が気にすることはない」 「た、ける、ちゃん……」 「こんな状況で言うのもなんだけどな……。向こうの純夏とした、約束。『全部の世界の純夏は、俺のものだって決めた。どの世界の純夏だって俺は愛する』ってなことを、俺は純夏に誓ったんだ」 「え……?」 武にとって幼いころからずっと一緒にいた、もはや自身の半分となっている存在。 それは例え元の世界であっても、あっちの世界であっても、変わらない。 純夏がいないと、武はどうしてもダメなのだ。 「――純夏。俺は、お前のことが好きだ」 「――タケル、ちゃん……」 そして、武にとってそうであるように、純夏にとってもそれは変わらない。 鑑純夏にとって白銀武とは己の半身であり、何よりも愛しい大切な存在なのだ。 「わ、たしも……」 涙をぬぐい、純夏は顔をあげる。 せめて、精一杯の笑顔でその答えを告げるために。 「わたしも、タケルちゃんのことが大好き――!」 言葉と同時に純夏の目から再び涙がこぼれおちる。 武は指でその涙をすくい、そしてゆっくりと純夏を抱き寄せた。 今度こそ離れることがないように、ぎゅっとその心地よい温かさを感じながら――。 武の話が終わり、純夏も泣きやんだ時。 ふと時計を見れば、もう八時を回っていた。 二人は大慌てで準備をしなければと焦り、武はすぐに家に戻ろうとする。 しかし、純夏は一緒にいてほしいと濡れた瞳で懇願してきた。 それに一瞬従おうと思ってしまった武を責めるなかれ。武に非はない。男とはすべからくそういう生き物であるからだ。 しかし、さすがに学校に遅刻はまずい、とことさら時間に厳しい軍隊で生活してきた武は思う。 そうして妥協案として玄関まで純夏が見送りに来ることになった。 家は隣だし、時間もないということはわかりきっていたが、武もそれを止める気はなかった。 これ以上時間を無駄にしたくない、という考えもあったが、それよりも優先される思いがあったのだ。 ようするに、武とて似たような気持ちでいたということである。 「じゃ、待ってろよ。すぐに準備して来るから、一緒に学校行こうぜ」 「うん……。わかった」 まだ幾分かしおらしい純夏は、武には新鮮に映るが、しかしどうしようもない違和感も感じてしまう。 仕方ない、と武は主観的には久しぶりに純夏にアレを見舞うことにした。 「とりゃっ!」 「いッ……たいじゃない、タケルちゃん!」 スパーン、といい音を鳴らして武の手は純夏の頭をはたくことに成功した。 文句をつけてくる純夏に武はにっと笑って言う。 「ばーか、お前が落ち込んでるからだろ。お前は明るすぎるぐらいがちょうどいいんだよ。これで少しはいつもの純夏に戻ってくれよ」 「あ……、うん。そう、だね。よーし!」 むんっ、と気合をいれる純夏に武はいつも通りに笑いかける。 「そうそう、そうやっとけよ。しおらしい純夏なんて似合わねえったらない」 「なんだとー! もう……ありがと、タケルちゃん」 「気にすんな、俺とお前の仲だろ。んじゃ、あとでな」 「うん!」 ようやくしっかり笑った純夏に見送られながら、武は純夏の家から出る。 純夏もドアから顔をのぞかせて隣の家に向かう武を見送る。 そして、ほぼ同時に武の家の扉がひとりでに開く。 いや、当然開けた人物はいるのだが、外からはそれが見えない。 つまり中から誰かが開けたということで、それが誰なのかは……すぐに明らかになることとなった。 「……ん? なんだタケル、そこにいたのか。隣を見たらもぬけの殻だったからな、今の今まで探していたんだぞ」 武たちも通う白陵柊の制服を着た同年と思われる少女が、武の家の中から現れたのだ。 「わ、わすれてた……」 思わず武がそう口にするのと同時に、背後の気配が爆発的に高まる。 振り返れば純夏がいる――。 ごくり、と武の喉が鳴った。 「……ねえ、タケルちゃん」 「は、はいっ!」 「……あの人、どう見てもタケルちゃんの家から出てきたよね……?」 「い、いやそれ「タケルちゃん」……」 どうやらこちらの弁明を聞く気はないらしい、と武は悟った。 「隣を見たら、もぬけの殻って……どういうこと?」 「………………」 結局聞く気はないくせに……、と思いつつも一応は最後の抵抗を試みてみる。 「私にもわかりません」 ぶちっ! 確実に何かが切れる音がした、と武はのちに語る。 「たぁけるちゃんのぉ〜……」 そういえば、これ食らうのも久しぶりだなぁ。 武はもはや観念したのか、のんきにもそんなことを考えていた。 「バァァァァァカァァァァァア〜〜〜〜ッ!!」 「エアバーーーーーーーーーーック!!」 ――おとぎばなしは、ここでおわり。 これは、あるおとこのことおんなのこのおはなし。 とてもちいさな、とてもおおきな、とてもたいせつな あいとゆうきの、おとぎばなし――
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| ――To Be Continued |
| ※元はここまでの中編だったので、終わり方が完結っぽいですが、一応続きます。 |