Fate/stay night 〜理想の果て〜 ――Side Rin Tosaka―― 「ああぁぁー、もう! なんでアンタは早く言わないのよ、そういうことを!」 「ふむ……てっきり君は知っていて放っておいているのだと思っていた。状況を考えれば、もう一度殺しに行くということは予想できることだからな。 ……しかし、よもやうっかり忘れていたとは」 ぐ、そう言われると言い訳のしようも無い。 遠坂に根付く呪い"うっかり"のせいだけにする気は無いが、私は完全にそのことを失念していたのだ。 殺したはずの人間が生きていて、一人で行動している。なら、再度殺そうとするのは当たり前だ。 その程度のこと考慮した上で助けたのだろう、というアーチャーの言外の言葉もまったくもって耳に痛い。 「とりあえず、今は彼の安全の確保が最優先! せっかく貴重な宝石使って助けたのに、また死なれたら勿体ないわ!」 なにしろあれは間違いなく私の切り札となるはずだった宝石なのだ。それを使って助けたのだから、生きてくれなくては私としても困る。 というか、無駄に宝石浪費したなんてことにしてたまるか。 「やれやれ、だから無視するべきだったのだよ、あの程度のことは。これは戦争だ。その甘さはいつか命取りになるぞ、凛」 厳しい顔で、叱責するように射抜く目。 ……これにも、言い訳はできない。 これはアーチャーの言うとおり戦争。たったひとつの万能の願望機―――聖杯を巡る魔術師同士の殺し合いなのだ。 一般人が被害をこうむる、なんてことはざらにあること。いちいち気にしていたら仕方が無いし、それは魔術師としての在り方ではない。 だが―――。 「……わかってるわよ。こんなの、心の贅肉だって。けど、彼は助けたかったの。安心して。こんなこと、二度としない。今回のことは特例よ」 魔術師の遠坂凛は間違っている、と思っている。けれど、私は間違ったことをしたとは思っていない。 そりゃ、ちょっとは勿体ないとか、バカなことやってるな、とは思ったけど。 だけど、後悔はしていない。 遠坂凛として、私は私のしたいことをしただけなのだから。 「なら、いい。……ときに、凛。彼を助けたい、と言ったが……君はその人物と恋仲なのかね?」 「なッ―――!?」 な、なにいきなり言ってんだコイツは―――ッ!? 「そ、そんなわけないでしょうっ! なんの関係も無いわよ! そんなことより、大きなお屋敷! ちゃんと補足してるんでしょうね!?」 ああ、くそ、絶対私の顔いま赤くなってる。 この程度で本来なら動揺なんてするはずも無いのだが、まさかコイツの口からいきなりそんなことを聞かれるとは思わなかったのだ。 予想外のことだっただけに、思いっきり動揺してしまった。 ちらりとアーチャーのほうを見ると、私の様子を見て皮肉気に口の端を歪めて笑ってみせる。 ……からかいやがったな、コノヤロウ。 「なに、少々気になっただけで、君がそう言うのなら気にすまい。ところで―――」 ふ、と真剣な表情になるアーチャー。 その顔は、前方へと向けられている。 「ランサーは辿り着いたようだ。一箇所に留まり、一定の範囲から出ていない」 「! 急ぎましょう!」 速度を上げる。 もう余裕なんて無い。魔術師であっても敵わない英霊相手に一般人が勝てるわけなんて無い。早く行かなければ間に合わない。 ぐっと足に力を込めて地を蹴ったところで、わずかにアーチャーの眉が寄せられた。 一瞬の後―――、 視認できるほどの魔力の奔流が現れた。 「こ、これ―――!」 覚えがある。同じような現象を、私はつい最近体験したばかりだ。 これは―――、 「サーヴァントの召喚か……。く、凛。どうやら正式に聖杯戦争が始まったようだ。気を引き締めろ。心の準備は万端か?」 「―――ええ、アーチャー。行きましょう。私たちなら、誰が相手であろうと負けるはずが無いわ」 「ああ、その通りだ、マスター。私達が組んで、負けるなど有り得んよ」 最強のマスターに最強のサーヴァント。なら、負ける道理はどこにも無い。 今はただ、あの光が放たれた場所へと向かうだけだ。 ――Side out――
「それで、あー……お前たちは一体なんなんだ?」 頭に手をやって現状を整理しながら言葉を搾り出す士郎。 いきなり殺され、帰ったらもう一度殺されそうになり、しかし突然現れた二人によって事なきを得た。 通常の人間ならば現実逃避していてもおかしくない現実だが、こうして真剣に考え込んでしまうのは彼の人の好さゆえか。 そのことにわずかに苦笑しながら、アライバーは答える。 「何を言うんだ、マスター。君が我々を呼んだんだろう?」 どこか楽しそうに笑いながらそう答える。 それに士郎は、余計に困惑したような表情を浮かべる。 「アライバー。そこまでにしておきなさい。どうやら彼は正規のマスターではないようだ。恐らく、突発的なことだったのでしょう」 セイバーがアライバーを嗜めるように言うと、アライバーはハイハイと言って肩をすくめた。 「ま、ますたー? さっきから言ってるけど、何のことなんだ、それ?」 混乱から抜けられない士郎にセイバーが説明をしようと一歩出るが、アライバーがそこに口を挟む。 「ちょっと待て、セイバー。俺はさっき彼に挨拶を済ませたが、君はまだだろう。ついでにここでやっておいたらどうだ?」 言われて、一度も自分が彼に自己紹介をしていないということに気がついたのか、明らかにしまったという顔をしてから、セイバーはすっと直立し、右手の拳を胸に添えた。 「失礼しました、マスター。サーヴァント・セイバー。召喚に応じ参上しました。これより我が剣は貴方の運命と共に在る。此処に、契約は完了しました。よろしくお願いします、マスター」 「え、ちょっと、契約ってなんの……」 ことか、と聞こうとしたところで、左手に強い痛みを感じて士郎は思わず眉をしかめた。 胸の高さまで左手を持ってくると、手の甲の場所に赤く輝く奇妙な紋様が浮かんでいた。しばらく輝きを放っていたそれは、唐突にふっと輝きを失った。 「な、これは……?」 「それは令呪と呼ばれるものです、マスター。それこそがこの聖杯戦争への参加権の証でもあります」 セイバーがそう答えると、士郎はまたしても顔にクエスチョンマークを浮かべて、明らかに理解していない表情になった。 それを見たアライバーは嘆息し、仕方が無いなと思いながら口を開く。 「マスター。まずは一度簡単でもいいから頭の中で整理したらどうだ。それから言いたいことを言えばいいだろう」 そう言われて、ようやく士郎は平静を取り戻したのか、静かに考え込む。 じっとこれまでのことを思い起こしているのか、士郎は真剣な目つきで思案しているのだが、どうにもわからない情報ばかりで考え込むことさえも困難だった。 しばし待ち、その口が開かれ、言葉が紡がれる。 「……俺は、士郎。衛宮士郎っていうんだ」 「「は?」」 考え込んで、突然名前を告げられて、セイバーもアライバーも思わず呆然とした。 「あー……いや、そうじゃなくて」 それはそうだろう。ここでいきなり自己紹介をされても文脈からの推量さえできない。 「……つまり、マスター。君は名前で呼んでほしいということなのか?」 アライバーが問うと、士郎は、海外旅行で初めて現地の人に英語が通じた時のような、ほっとした表情を浮かべて、そうだ、と頷いた。 (なんていうか……俺ってこんなんだったんだなぁ) どことなく哀愁を感じてしまうアライバーだった。 「では、シロウと呼ばせてもらいましょう」 「俺も。それでいいか?」 「あ、ああ。それで―――」 士郎が何か言いかけたところで、ぴく、とセイバーの肩が震え、表情も険しいものへと変わる。 アライバーも同じく雰囲気が変わる。 (来たか、アーチャー……) まるで先ほどのランサーとの戦いの時のような張り詰めた空気が周囲に満ち、士郎がさらに狼狽し始める。 「な、どうしたんだ?」 「シロウ。塀の外に敵がいます。迎撃に出ますので、こちらでお待ちを」 塀のほうを見やったまま、セイバーは士郎へと語りかけた。 敵ってなんの……、と言いかけた士郎には答えず、セイバーはアライバーにも声をかけた。 「アライバー」 「なんだ、セイバー」 「今は貴方を信用します。シロウの安全を確保してください」 「任された」 その返事を聞くや否や、セイバーは大きく跳躍し、塀の外へと身を躍らせた。 それをぽかん、と見送っていた士郎は、はっと我に返って咄嗟にセイバーを追おうとする。 「待った」 足に力を込めたところで、アライバーに肩をつかまれて走り出せなくなる。 士郎は非難するように背後のアライバーに向き直った。 「なんで止めるんだ!」 噛み付かんばかりの勢いで睨んでくる士郎の姿に、アライバーも真剣に答える。 「頼まれたからだ。セイバーに君の事を任された。信頼を裏切るわけにはいかない」 「だからって―――!」 納得できないと怒鳴る士郎に、まぁ待て、とアライバーは念を押し、肩から手を離した。 士郎は身体ごとアライバーに向き合い、彼の顔を正面から見据えた。 決意を込めた強い眼で。 (正義の味方か……。理想を貫いた先としては、途中で諦めてほしいがね……) 誰にも知られず、どこにも残らず。 世界そのものから存在が無いとされることほど、人間としての悲しみはあるまい。 好きの反対は嫌いではなく無関心であるという。ならば自分は究極の無関心だろう。世界にすら忘れ去られた、存在していない存在なのだから。 世界の内側に属する彼らには、世界の外の自分は認識し得ない。干渉しても、結局は何も無かったことになる。たとえば写真を撮ったとしても、その写真から姿が消える。 愛し、愛された者と出逢っても、愛し合った記憶も、成した子供でさえ矛盾として修正された。 何も残せない。記憶にすら残らない、孤独。 そんなものを味わわせたくはない。 特に目的も無く干渉した世界のはずだったが、存外、自分にもまだ人間らしさが残っていたらしい。 (全てを救う正義の味方……目指させるわけにはいかない) 今はまだ時期尚早だが、時間をかけてでも納得してもらおう。違う理想を目指してもいいし、ただ諦めるだけでもいい。 衛宮士郎の未来を、こんなふうにしないために。 ともあれ、今はまだ聖杯戦争の初期段階。 「君は俺のマスターだ」 今はまだ、そこまで凝り固まらなくてもいいだろう。 「マスターの命令には、俺は絶対に従おう」 にやり、と笑う。 それに士郎は何を言いたいのか判らない顔をして。 「士郎。命令を。セイバーを止めて来い、と」 今のこの身はサーヴァント。ならば、マスターのために動くのは当然というものだろう。 「くっ……!」 凛は突然目の前に現れた蒼銀のサーヴァントに向かって宝石を投じる。 遠坂の血筋は宝石魔術の家である。祖には魔道元帥宝石のゼルレッチを持つ、宝石魔術の大家。その技術は魔術師の中でも指折りで、それは当然ながら現当主である遠坂凛にも当てはまる。 詠唱を三節踏まえる魔術を、宝石にこめて第一工程で四つ投擲。 たとえサーヴァントであろうと傷をつけるぐらいは可能な高魔術。どれほど小さな隙だろうと、隙さえ作れば活路は開ける。 なにしろアーチャーは規格外の接近戦の戦闘力を持っている。ならばこれで態勢の立て直しを図るには十分である。 しかし、そんな凛の思惑をまるで無にする行動をセイバーはとる。 その魔弾と化した魔術の中に自ら突進したのだ。 馬鹿な、と思いながらも嫌な予感がして凛は一歩後ろに下がる。 そして、信じられない光景を目の当たりにする―――。 「なっ……!?」 セイバーは並みの魔術師であれば一撃で再起不能にまで追い込む魔弾を四つ、全てその身に受け、全て弾き消してしまったのだ。 (そんな、なんて対魔力―――!) 自分が持つ攻撃手段の中でも高位に属する攻撃が、全て完全に無力化された。 一瞬愕然とする凛だが、戦闘中にその一瞬はこの上も無い隙になる。 それを逃すはずも無く、セイバーが凛へと肉薄する。 「凛―――!」 かばうようにアーチャーが実体化して凛を下がらせるが、 「がっ……!」 セイバーの不可視の剣をその身に受けてしまう。 後ろに跳んで間合いの外に出ようと試みるが、一度己の間合いに入った獲物を逃すほどセイバーも愚かではない。 ほぼ同時にそれに追いすがり、剣を上段に振り上げる。 「……ッ!」 ダメか、と凛が思わず最後の瞬間に備えて身を硬くする。 アーチャーも負わされた傷が深いのか、回避行動が取れていない。 本格的にここまでか、と諦めかけたところに、 「ストップだ、セイバー」 ガキン! いやに機械的な金属音とともに、一本の剣を手にした銀髪の男が現れてセイバーの剣を防いでいた。 攻撃を止められ、セイバーはすっと後ろに下がる。 それを見届けて、セイバーの剣を受け止めたアライバーは手に持った剣を構えず、だらんと下ろした。 真紅の手甲で固められた右手に握られるその剣に、凛は思わず目を奪われた。 銀一色。刀身から柄に至るまで全てが白銀で彩られた西洋剣。ただ一箇所、鍔の部分に左右対称に赤い線が一本ずつ引かれているところが、唯一の装飾だった。 鍔がわずかに柄側に反っていなければ、それはただの美しい十字架のように感じられたかもしれない。 は、と見とれていた自分に気づき、凛は一度だけ目を閉じることで気持ちを切り替える。 その場には、向かい合って立つ銀の男と蒼い少女。 下ろした剣を見て戦う意思が無いことを読み取ったものの、警戒したままセイバーはアライバーを見据える。 「何のつもりです、アライバー」 まったく力を抜くことなく問い掛けてくるセイバーに肩をすくめ、 「なに、と言われてもな。俺はただマスターの命令に従っただけだ。君を止めろ、ってね」 あくまでこちらは軽く、アライバーは質問に答えた。 それと同時に屋敷の門から士郎が駆けつけてくる。 「そうだ、セイバー。やめてくれ」 先ほどまでの戸惑っていた表情など微塵も感じさせない真剣な表情で、士郎はセイバーに向き合った。 それを見て、セイバーが詰め寄る。 「シロウ、何を考えているのです! 今ならば、確実に敵を一人減らせたものを!」 鬼気迫る勢いでセイバーに責められながら、士郎は決して引かない。 むしろ決然とした瞳で、セイバーを見つめ返した。 「ダメだ、セイバー。俺は、誰かを殺すことなんて認められない。……それに、俺は何の事情もわかってないんだ。なら先に説明してほしい。それが筋ってもんじゃないのか」 士郎の口から出た正論にセイバーはぐっと押し黙る。 そして、きっとアライバーを八つ当たりのように睨み付けた。 「……貴方も、同じ意見ですか」 「おいおい、俺に当たるな。……まぁ、無闇に人を殺すべきではないっていうのは賛成かな」 アライバーの言葉にわずかに驚きながらも、セイバーはひとつため息をついて、わかりました、と呟いて剣を下ろした。 それにあからさまにほっとした表情になる士郎と、納得していないかのように小さく呟いたセイバーを見て苦笑するアライバー。 緊張した空気が和らぎ、ようやく静かな夜の空気が戻る。 そこに、凛とした声が響く。 「今晩は、衛宮君。助けてくれて、感謝するわ」 闇の中でも映える長い黒髪を両側で結わいツインテールにしている少女―――遠坂凛は、赤い服を月明かりに照らしながら士郎の視界へと姿を現した。 「な、え? ……と、とおさかっ!?」 それに対して士郎はいっそ見事なほどに動揺した。 助けるということに集中していて、その助ける人物が誰なのかは確認していなかったらしい。 そんな士郎の対応に、凛は怪訝な顔をした。 「別にそこまで驚く必要は無いでしょう? まぁ、この土地の管理魔術師である私に見つかったことがマズイのはわかるけど……」 「ま、魔術師? 遠坂も魔術師だったのか!?」 今度は本気で驚いたようで、士郎は最大の驚愕を顔に浮かべる。 それを見て、凛の顔は呆気に、次に怒りに。そして最後に、もはや鬼としか例えようのない憤怒の表情になって士郎を睨み付けた。 「ひっ……!」 驚愕から怯えた表情へと移行する士郎。思わず声が漏れてしまったのは、そこまで凛の迫力が凄まじいということだろうか。 「そう……そういうわけね、貴方……」 ゴゴゴゴ、とか聞こえてきそうな雰囲気のまま呟く。 「アーチャー、ちょっと霊体化してて。傷も癒さないといけないでしょう?」 「ふむ……。それはいいのだが、なぜだ? ここにはサーヴァントがいる。危険だとは思わないのかね?」 傷を負っているなどとは感じさせない、いつも通りの落ち着いた態度でアーチャーは凛に答える。 それに、凛も表向き冷静に対応する。 「大丈夫よ。どうやらあっちのマスターに攻撃の意思はないようだし、そもそも二対一なんだから、こっちが圧倒的に不利。なら、相手の手に乗ってみるのもひとつの手。どちらにせよ、こっちは不利なんだから」 「……そこまで理解しているのなら、結構なんだがね。ときに、凛」 「なによ」 ・ ・ ・ ・ あくまで表向き冷静な己がマスターに向かって、弓兵は一言忠告した。 「熱くなるな」 そしてその一言を最後に、アーチャーはすーっと夜気に溶けて消えた。 「えぇ!? き、消えた?」 またしても驚きの表情で固まる士郎に、魔眼のごとき双眸で怒りを向けるものの、弓兵の忠告を思い出したのか、それとも目の前の男に何を言っても無駄だと悟ったのか。 とにかく凛はため息をひとつついて、気を落ち着かせた。 「……それで、衛宮君。中に入れてくれないかしら? 助けてくれたお礼に、今の状況の説明ぐらいしてあげるわ」 言うが早いか、凛はすたすたと士郎の横を抜けて門をくぐる。それを見送りそうになりながらも、士郎は気を取り戻して凛に声をかける。 「ち、ちょっと待て、遠坂! いったい―――」 止めようとする士郎だが、ぽん、と肩に手を置かれる。 その手をたどって視線を上げていくと、そこにはアライバーの落ち着いた表情があった。 「せっかく説明してくれるっていうんだ。聞いといて損は無いと思うぞ、士郎」 アライバーがそう言うと、士郎は、わかった、と頷いた。 次いで、近づいてきていたセイバーにも顔を向ける。 「セイバー、君もそれでいいか?」 セイバーは明らかに納得いかない、という不満げな顔のまま、 「……シロウがいいと言うのなら、私はそれに従います」 と誰がどう見ても嫌々に首を縦に振った。 苦笑し、アライバーは自分の胸ほどの高さにあるセイバーの頭に、ぽん、と手を置いた。 それにセイバーは即座に反応し、 「何をするんですか!」 と怒り心頭といった様子で手を払った。 「いやなに、置きやすい位置にあったから。それぐらいの身長の君が悪い」 「何をふざけたことを言っているのです!」 本気で怒っているらしいセイバーを前に、アライバーはにやにやと面白そうに笑っていなしている。 それがまたセイバーの気を逆撫でするのだろうが、それすらもアライバーの手のひらの上の出来事のようで、それを見て士郎ははぁ、とため息をひとつ。 「ちょっと、何してるのよ!」 玄関の前で怒鳴る凛の姿を認め、士郎は立ち止まっていた足を再び動かす。 背後の喧騒を聞き流しながら、呟くような一言が口から漏れた。 「ここ、俺の家なんだけどなぁ……」 ――Side Archer―― アーチャーは霊体化した状態から、じっと観察していた。 自らの記憶にも存在しないイレギュラーサーヴァント、アライバー。 そもそも聖杯戦争のシステム上、二体同時召喚というものはありえない。なぜなら召喚すべき英霊とは聖杯の支援なしに人に御せるものではなく、システムによって召喚できるのは一体と決まっているからだ。 これは、英霊という人間とは比べ物にならない霊格を有した存在を持つ上で、それ以上の負担はマスターが耐えられないという意味もある。 だというのに、彼は存在している。 しかも、衛宮士郎という未熟者のマスターのもとで。 高位の魔術師であっても到底耐えられない負荷に、あの衛宮士郎が耐えられるわけが無い。他でもない、自分だからこそそう確信できる。 存在しえない者が存在している、この矛盾。 (……それだけでは、ない) 直感、とでもいおうか。 私はもはや衛宮士郎を殺すつもりは無い。どこかの私が得た答え。それを知った私も、その考えに同意だからだ。 しかし、これは、かつての私が経験したどの私の憎しみよりも、強い反感を感じる。 そう、確実なのは、ただひとつ。 (私とあの男は、何があろうと相容れない……) 奴が何者かなどどうでもいい。隙あらば、その心臓を射抜くまでだ。 ――Side out―― |
| ――― To Be Continued |