Fate/stay night 〜理想の果て〜 「殺されて、たまるかぁ―――っ!!」 目の前に迫る赤き魔槍に恐怖しながらも、決して死んでなるものかと叫ぶ一人の少年。 その少年の左手の甲がわずかに赤く輝き、瞬間、土蔵の中を蒼い魔力と紅い魔力の奔流が襲う! ギイイィィィン……! 蒼い光の中から飛び出したナニカが、少年に迫っていた槍を弾き返す。その事実に槍の所持者―――青い槍兵は驚愕もあらわに口をつく。 「本気か……! 七人目のサーヴァントだとっ!」 今の状況は不利と悟ったのか、小さな舌打ちを残して槍兵は土蔵を飛び出していく。 そうして、後に残ったのは月光きらめく幻想的な光景。 胸を血に濡らし、地面に腰をつきながらも、一心に目の前の存在を見上げる少年。 金の髪、銀の鎧、蒼のドレスを身に纏った現実感の無い美しさを持つ少女。じっと少年を見下ろすその姿でさえ、まるで一枚の絵画のように完成されていた。 「―――問おう」 声さえもまるで涼風のように澄んでいて……、 「貴方が、私のマスターか」 少年―――衛宮士郎は、その少女の存在すべてに見惚れてしまっていた。 だから。 「あー……もしもし?」 お伽話から抜け出たかのような一場面に、気の抜けた声が響く。 「俺にとっても、君がマスターでいいのかな?」 だから、彼の存在に気がつかなかったのも無理からぬことだろう。
「―――ッ! 貴様っ!」 その存在を認めた蒼い少女が咄嗟に距離をとり、警戒心むき出しで手に持ったモノを正眼に構える。 「おいおい、そんなにいきり立つなよセイバー。同じマスターに呼ばれた仲間だろうが」 対して眼にかかるほどの銀髪に白い肌、赤い瞳の長身。黒の下地に、紅の胸当てとガントレットで武装を固めた男は、苦笑して返した。 「なっ! なぜ私がセイバーだと―――」 「剣、持ってるだろ。見えなくしてるみたいで、ひどく見にくいけど」 その言葉に驚きの表情を浮かべるセイバー。 そんなセイバーを横目に、男は士郎に向き直った。 「はじめまして、マスター。サーヴァント・アライバー、召喚に応じ参上した。これより我が存在は君の運命と共に在る。よろしく頼む、マスター」 「え……マ、スター?」 呆然としてたった今言われた言葉を反芻してみる士郎だが、その考えは周りによって中断させられることになる。 「なっ―――! 貴方が彼のサーヴァントだとっ!?」 「だから、貴方も、だって。君も彼に呼ばれたんだろう? ラインは確かに確認できる。微量だが、魔力も感じられる」 「むっ……確かに、本当に微量だが流れてきている。それに、貴方の存在も感じます。マスターを通じて擬似的なラインが形成されているようですね」 「そういうこと。二人同時召喚なんてしたらしいね、このマスターは。……ところで、さっきの男、たぶんランサーだろうけど、放っといていいのか?」 「っ! それを早く言いなさいっ!」 紅銀の男アライバーに言われ、蒼の少女セイバーは鎧を着込んでいるとは信じられない速さで土蔵を飛び出していく。 アライバーはそれを見届けてやれやれと肩を落として見せると、いまだに現状を飲み込めていない己が主に向き直った。 「……さて、さっきの奴はセイバーが倒してくれるだろうし、こっちは現状の確認でもするか、マスター?」 その言葉に、はっとして士郎はようやく気を取り直した。 「ばっ……! 何言ってるんだ、あんな女の子がアイツに勝てるわけ無いだろう!」 言うや否や士郎もセイバーを追って土蔵を出て行く。 それを見やって、アライバーは肩をすくめた。 「まったく……違う自分なのに、どこの世界でもここでの行動が一緒なんだよなぁ」 それは同じ理想を抱いた者ゆえか。 苦笑を浮かべ、アライバー≪到達者≫は士郎の後をゆっくりとついていくのだった。 「なッ……!」 土蔵を出た士郎を出迎えたのは、セイバーとランサーの奏でる戦いの旋律だった。 ギィイン……! 剣と槍が刹那の間に交わされ、ぶつかり、けたたましい金属音が辺りに響く。視認などかなわない速さで打ち合う両者の獲物。 ランサーは赤い槍を突き、払い、セイバーは剣を打ち下ろし、薙ぐ。ただそれだけの動作がここまで昇華されるにはどれだけ腕を鍛えれば辿り着けるのか―――。 少女が敵わないなんて、とんでもない。むしろ彼女は、ランサーとの打ち合いを押していた。 凄絶な戦闘を前にして声をなくす士郎に、背後から声がかけられる。 「だから、言っただろう? セイバーなら負けないよ、ランサーには」 「……アライバー、でよかったよな?」 振り返った士郎の問いに、アライバーはそうだよと答えてみせる。 「いったい、何がどうなってるんだ? マスターってどういうことだ? どうして戦うことになってるんだ? それに―――」 「あー、ちょっと待ったマスター」 矢継ぎ早に繰り出される質問に、アライバーは手を突き出し、ストップをかける。 それに士郎はぐっと黙る。それを確認してアライバーは再び口を開いた。 「それは全部あと。どうせもうすぐ説明してくれる人が来るし」 「え? それはどういう……」 「お、そろそろ一息つくぞ」 アライバーの言葉に、士郎はセイバーたちのほうへと視線を戻した。 一際大きな音を響かせて、セイバーとランサーはお互いに地を蹴り距離を置く。それでもそれぞれの間を流れる空気が微塵も緩まず研ぎ澄まされていることが、彼らの歴戦の強さの証のように士郎には感じられた。 「……ひとつ、訊かせて貰おうか。貴様の宝具、それは剣か?」 「―――さぁ、どうかな。戦斧かもしれぬし、槍剣かもしれない。もしや弓ということもあるかもしれんぞ、ランサー?」 セイバーの冗談のような受け答えに、ランサーはどこか満足げに唇の端を歪めてみせる。 「く。ぬかせ、セイバー」 その笑みを浮かべたまま、ランサーはわずかに槍の穂先を下げていく。 アライバーはその様子をじっと見ていた。 彼の宝具。もう思い出せないほど昔のことだが、かつては我が身で受けたこともあるその魔槍。 その赤い輝きにアライバーは注視していた。 「もうひとつ訊くが、お互い初見だしよ。ここらで分けにするつもりはないか?」 ランサーは決して気を抜かないままセイバーに向けてそう尋ねる。まるでどう答えるかがわかっているかのように、獰猛な笑みをしている。 それにセイバーが答えようと口を動かしたところで―――、 「いいだろう。さっさと帰ってくれ、ランサー」 アライバーがその問いに答えていた。 〜Side Arriver〜 「なにをッ……!」 信じられないといった表情でセイバーが睨んでくる。 しかし、仕方が無いだろう。ここでゲイボルグを使われたらセイバーが怪我を負う。それはやはり面白くないし、この後のバーサーカー戦を考えると、得策じゃない。 それに、どうやってもここでランサーは倒せない。ランサーは逃げに徹したらサーヴァント中で最優だ。生き残ることに関して、アイツに敵う奴はいない。 まぁ、本来なら知らないことなんだから、その反応も当たり前だと思うけど。 「ほら、さっさと行けって。こっちも色々と用事があるんだから」 セイバーを無視してランサーに話しかける。 事実、用事だらけだし。凛のこととか、士郎への説明とか、教会とか、色々。 「……お前も、サーヴァントなのか? まさか、二人を同時に召喚したってか?」 「ん、どうやらそうらしい。つまり、戦うなら二対一になるんだが……どうする?」 確か、ランサーに与えられた命令は『すべてのサーヴァントと引き分けること』だったか。 当然、俺ともやりあうつもりだろうが、二対一で負けてしまうことは望みじゃないはずだ。ここはとりあえずは退くはず。 「く……忌々しいが、ここは退かせてもらうか。アンタ……クラスはなんだ?」 槍を警戒態勢からわずかに崩し、戦う意志がないことを表しながらランサーが問いかける。 「アライバー。イレギュラークラスだな」 なにしろ、俺で八人目だ。ギルガメッシュを入れたら九人。アサシンを入れたら十人か? 「アライバー、ね。覚えておくぜ。次はアンタの首も貰う」 「楽しみにしておくよ」 それににやりと男臭い笑みを返し、ランサーは塀を飛び越えていった。 ふぅ……、行ったか。 これであと残る問題は、セイバーの説得と士郎への説明だな。説明は凛に任せるとして、セイバーはなぁ。骨が折れる……ホントに。 「なぜ、逃がしたのです!? 彼はここで倒しておくべきだった!」 不可視の剣を構えたまま、こちらに詰め寄るセイバー。 というか、剣が危ないよ。しまってくれないかな、ソレ……。 「俺はアイツの真名を知っている。だからこその判断だ」 ここでバラしても問題ないだろう。実際、あのまま戦っていればバレていたわけだし。 「真名を? しかし、私ならある程度の宝具ならば―――」 「アイツの真名は、クー・フーリン。その宝具は魔槍"ゲイボルグ"。効果は『因果の逆転』。これで分からないか?」 「! まさか、心臓を必ず貫くという彼の伝承は―――!」 「そう。先に心臓を貫いているという結果がある、というわけだ。これでも、危険じゃなかったと言えるか、セイバー?」 俺の言葉に、ぐっと押し黙るセイバー。 当然だな。事実、どの平行世界でもゲイボルグを使われたセイバーは傷を負っている。セイバーも危なかったかもしれない、と考えるだろう。反論はできまい。 「……しかし、貴方は何者ですか。私の武器を見破り、ランサーの真名も知っていた。同じマスターを持つ以上、敵ではないと思いたいのですが」 「もちろん、仲間としてやっていこうと思っている。俺が何者か、というのは後にしておいてくれないか? 今はそれよりも……」 ちらりと士郎に顔を向ける。 呆然としてこっちを見つめている違う自分の姿に、内心で苦笑とため息を漏らす。 「マスターと話さないと。どうやら、現状を飲み込めていないらしい」 そう言うと、セイバーも己がマスターへと目を向ける。 あ、小さくため息をついた。違う自分のこととはいえ、なんか居たたまれないな。 「……わかりました。今は簡単な確認でいいでしょう。よろしくお願いします、アライバー」 「こちらこそ、セイバー。さて、ではマスターの元に向かうかね」 はい、と頷いたセイバーに続いて俺も士郎のもとへと歩く。さて、もう少しで凛とアーチャーの到着か。 自分という存在が無い者が、"アライバー"というクラスを利用することでこの世界に存在を得た。これを、世界が無視するとは思えない。はてさて、これからどうなるのか……。 そう考えつつも、俺は長らく感じたことの無かった楽しさを感じていた。やはり、こうして人と共にあるというのは、いいものだ。 さて、それでは始めようか。 理想を貫き続けて、消されてしまった暇人の、久しぶりの暇つぶしを……。 〜Side out〜 |
| ――― To Be Continued |